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後藤正治「福永洋一・伝説への旅。」(奪われぬもの)を読んだ。

「伝説への旅。」長いバージョンを発見。

先月末に発売された「Number PLUS 名馬堂々。」。

Number別冊「名馬堂々」

過去のNumberから再収録されたコンテンツが全部で25集。

ほとんど読んだことのあるコンテンツだったものの、内容を詳しく覚えているわけではなかったので、楽しんで読むことができた。

25集のうち、24集はその名の通り各時代の「名馬」に焦点を当てて書かれたものだったが、残りひとつは、ノンフィクション作家の後藤正治氏が福永洋一を題材にとった、「伝説への旅。」というコンテンツだった。騎手に焦点を当てた、唯一のものだった。

このコンテンツは、以前読んだときも印象に残っており、これが選集に収録されているのは意外性もあり、とてもよかった。


そして、少し調べてみたら、Numberに収録されているこの「伝説への旅。」は、後藤正治氏のスポーツ・ノンフィクション短編集「奪われぬもの」にも収録されており、単行本を入手して読み比べてみたら、Numberの方は短く編集されていることがわかった。


こちら(↓)が単行本「奪われぬもの」。1997年発行。
福永洋一の他に、有森裕子(マラソン)、福間納(プロ野球)、林敏之(ラグビー)、中川茂一(競輪)、高橋直人(ボクシング)のノンフィクション短編が収められている。


読み比べてみた。

さっと読み比べた感じでは、Number収録の方は単純に編集して短くなっているのかと思ったが、じっくり比べてみたところ、「奪われぬもの」収録の方は、取材の過程や、福永洋一の周囲の人物についての説明が詳しく、読後感はより深いものだった。

例えば、福永洋一の戦友であり親友の柴田政人への取材は”難航した”と記されている。取材を受ける条件がひとつ、夫人の福永裕美子の了解を得てくれ、というものだった。著者は、もの言わぬ友人のことを思いやった気持ちが伝わってくる、とも綴っている。
柴田政人と福永洋一の深い絆を感じた。

また、福永洋一の師匠である武田文吾(シンザンやコダマを育てた大調教師)の戦前の武勇伝や、洋一を気に入っていたという挿話、兄弟子である栗田勝(シンザンの主戦騎手)が洋一の兄(福永甲)に競馬場の風呂場で声を掛け、洋一が武田文吾という大厩舎に所属するに至ったエピソード、同じく兄弟子である安田伊佐男(タニノムーティエでダービーに勝利)から見た洋一についての話など、周辺の人物についての記述が多く、読み入って楽しんだ。

他にも、先輩騎手である武邦彦(武豊の父で、現役時は「名人」と謳われた。)や、後輩騎手の的場均(現在調教師。ライスシャワーやグラスワンダーの主戦騎手。)の福永洋一評がこれまた興味深い。

<武邦彦の洋一評>
(息子さん(武豊)と比べていかがでしょうか、と問われて)
「洋一の時代といまの競馬はまた質が変わっている。時計がまた速くなっている。だから比べられんのです。双葉山と大鵬とどちらが強かったか、シンザンとシンボリルドルフのどちらが強かったかといっても答えられないようにね。まあ、それは別にしても、豊は洋一の域にはまだまだ達していないと思いますよ」
<的場均の洋一評>
(口が重たく、愛想のない人で、インタビューがさっぱり弾まない中、福永洋一の名前を出したところ、的場の口調は急に変わった。岡部幸雄、柴田政人、武豊をも問題にならないという口調で、)
「僕にとって天才というのは福永さんだけです。」
「あの域には一生かかっても追いつかないでしょうよ。」


Numberの方の「伝説への旅。」は、”洋一スマイル”などの写真入りで、これも良いコンテンツだが、「奪われぬもの」の方はよりオススメ。


「福永洋一本」の多さ。

このnoteでも以前に、福永洋一を取材した本を取り上げたことがある。

実は、福永洋一関連の本は、これ以外にもあり、自分もまだ数冊読んだことがある。

特定の騎手を扱った本の数としては、武豊は特別として、福永洋一関連のものは多い部類かもしれない。

「天才・福永洋一」とは何者だったのか?
多くの作家が題材として魅力を感じたのだろうし、多くの競馬ファンにとって興味深いテーマだからだろう。


では、福永洋一とは何者だったのか?その天才性の源泉は何だったのか?

・・・その事についても著者は言及しているが、この記事でそこまで引用してしまうのも興醒めかもしれないので、やめておきたい。


最後にもう一点、Number版と「奪われぬもの」版のコンテンツの違いにを付記しておくと、後者には、福永洋一の息子、福永祐一の初騎乗・初勝利の日についての記述がある。

のちにダービーを三勝することになる福永祐一はこの日のレース後、大勢の記者に対し、いくら勝ち星を重ねても、父を超えることはできない。なぜなら、騎手ではないもうひとりの(苦しいリハビリに立ち向かい続けた)父がいるから、と答えたという。

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