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”人を残す”異才〜髙橋安幸「プロ野球のすべてを知っていた男 根本陸夫伝」を読んだ。

こちらの本を読み終えました。

2018年発行(単行本は2016年)


多くの人間に多大な影響を与えた、根本陸夫。

帯に「カープ、ライオンズ、ホークスの黄金期を築いた野球人!」とある通り、根本氏が監督を務めたあと、それぞれのチームが初優勝を飾ったり、ライオンズに関しては黄金期を迎えます。
ポイントは、根本氏在任時ではなく、監督を退任したあとチームが成果を上げたという点です。
チームの飛躍の”土台”を作ったのは根本陸夫であると、多くの証人がこの本で語っています。証人の顔ぶれが豪華。王貞治や衣笠祥雄、工藤公康など錚々たる顔ぶれです。

一点、残念なのは根本氏は1999年に他界しているため、自身の仕事をどう総括したのか、本人の言葉がない点。
ただ、それにしてもこんなに多くの人間が根本氏にどんな言葉をかけられたか、根本氏がどんな仕事をしたのか、具体的なエピソードを交えて語っているのを読むだけで、その影響力の大きさを感じます。読後感としては満腹でした。

野球ファンにはかなりおすすめできる本です。


内容について。

22章に分かれていて、章ごとに証言者が代わる構成になっており、自分が気になる人の章から読んでも楽しめると思います。

自分は頭から読み、特に面白かったのは、衣笠祥雄の章、坂井保之(ダイエーホークス球団代表などを歴任)の章、小島弘務(元中日、ロッテの投手)の章、石山建一(元プリンスホテル野球部の監督)の章、小枝守(元日大三高、拓大紅陵高監督)の章、大田卓司の章、森脇浩司の章。

少しだけネタバレお許しを。

衣笠祥雄の章では、自分の中ではヤクルトが弱かった時代(失礼!)、優しいおじいちゃんのような容貌の関根潤三との絡みのエピソードが面白かった。

根本氏と関根氏は日大三中時代からの親友で、法政大学時代にはバッテリーを組んでいたそうです。根本氏が広島の監督を務めた時代に打撃コーチとして招聘され、衣笠や山本浩二を鍛えたという。

その中で、夜の特訓をさぼって衣笠氏が飲みに行ってしまい、午前三時に合宿所に帰ったら関根氏が寝ずに待っていて・・怒られると思ったらひとこと、「やろうか。」と言われ、そこから酔っ払っているのに30分素振り。終わると、「決められたことをやってから外へ出ような。」と釘を刺される、というエピソードが怖くて面白かった。(ウィキペディアとかを読むと、関根さんは怖い時はめちゃくちゃ怖い人だったみたいですね。)

と、これは根本氏の話ではないですね。

根本氏の普段の仕事ぶりについては、数々の証言から、まとめると、

・将来を見据えて、今何をすべきかを考える。
・行動は徹底的に。
・行動は隠密に。(特にスカウティング)
・人を動かす。人を変える。口癖は、「大人になれ。」
・公私ははっきりと分ける。(世話になっている人へのチケット代は全部自腹。)

だいたいこのような特徴があるようでした。

エピソードで印象に残ったものとしては・・、根本氏が西武の管理部長を務めていた時、一度ドラフト外で入団した小島弘務投手について、野球協約違反で契約無効となってしまった際に、自宅に住まわせ、つきっきりでフォーム修正の指導をしたそうです。

その後、西武に入団するのならまだわかる話ですが、ペナルティのため西武への入団はできず、のちに中日に入団することになります。根本氏はそれはわかっていて面倒を見たというのだから、すごいことだと思います。

他にも、自分が関わったからには徹底的に面倒を見る、というエピソードや、あるいは、酒も飲まずに延々と朝まで野球の話をするエピソードも興味深かったです。(「今日は投げ方について話そうか。」などと始めて、夜通し1対1で話し込んだ、というエピソードが、小枝守氏の章で紹介されています。)

あとこれは有名かもしれませんが、日本シリーズでのON対決を実現するために、王さんをダイエーの監督に招聘する話も詳しい経緯が描かれます。


あと面白かったのは、最後にどんでん返しというわけではないですが、根本氏の功績に対して、それまでの証言者とは異なる意見を持つ人が現れるのですが、自分はそれもありかなと思いました。賞賛一色、というのも逆につまらないかな、と。(この部分は、あえてネタバレせず伏せておきます。)


人を残す。

野村克也さんが講演などでよく引用する言葉で、後藤新平が遺した、

財を残すは下
事業を残すは中
人を残すは上


というものがありますが、
根本陸夫氏が西武時代、ダイエー時代を通じて指導した選手の多くがのちに監督を務めており、なんと2015年は、

ソフトバンク・工藤公康
オリックス・森脇浩司
ロッテ・伊東勤
西武・田辺徳雄
楽天・大久保博元

と、6球団中5球団の監督が根本氏の教え子、という一年だったそうです。

今年のプロ野球がもうすぐ開幕ですが、ロッテの井口監督や、ソフトバンクの藤本博史監督はたしかダイエー時代にプロ入りしており、西武の辻監督も根本氏の管理部長時代に入団しており、根本チルドレンと言えそう。

対して、楽天の石井一久監督と、日本ハムの新庄剛志監督(ビッグボス)は、野村克也チルドレンと言えそう。新庄さんは、野村さんが可愛がっていたそうですし。

また、野村さんは、選手時代の最後の所属チームは根本・西武ライオンズ。面白い因縁も感じます。

昨年日本一のヤクルトの高津監督も野村さんの愛弟子と言えそうですし、野村監督、根本陸夫氏は人を活かすことに長けていたのだと思います。

以前書きましたが、長い間プロ野球に興味を失っていたのですが、今年は少し興味が湧いてきています。


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