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Part.5【歯車が噛み合うか】20-21 エヴァートン 終盤戦レビュー<群雄割拠編>@イングランド/プレミアリーグ

熾烈を極める順位争いに拍車がかかる。群雄割拠と例えるに相応しいトップ5争奪戦。今年のエヴァートンは面白い、そう感じてスタートした20-21シーズンも終幕が迫ってきた。上位の牙城は崩れかけている。定位置から抜け出すために、今こそチームはチャンスを掴むため、ひとつになる時だ。「ひとつ」とは、チーム全員が歯車のように「噛み合う」こと―。

前回の記事はこちらから↓

▽Phase.7「不屈」

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Photo/Getty Images

“人々がサッカーについて語るとき、攻撃的サッカーが善で守備的サッカーが悪とする風潮があるが、それは誤りだ。(中略)攻撃的なプレーは、選手個々のクオリティや創造性に多くを依存しているが、守備は異なる。機能的な守備は習得が可能だ。”
“今日、偉大な成功をもたらした戦術が、明日も有効であり続けると信じてはならない。対戦相手は椅子に深く座り、ただ見ているわけではないのだ。(中略)サッカーにおいてとどまることは実際には後退を意味する。”
ーー カルロ・アンチェロッティ 『戦術としての監督/角川書店(2018)』

~ここまでの戦績と順位確認~

4月5日(月) 30節 △1 - 1 Home クリスタル・パレス
4月12日(月) 31節 △0 - 0 Away ブライトン
4月16日(金) 32節 △2 - 2 Home トッテナム
4月23日(金) 33節 ○1 - 0 Away アーセナル

順位表
(第33節終了時点、エヴァートンは1試合未消化)

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群雄割拠…4位チェルシーと6ポイント差、しかしエヴァートンの下にもリーズ、アーセナル、アストン・ヴィラと虎視眈々と上位を狙うクラブが。全ての残り試合が大一番だが、次節のアストン・ヴィラ、ウェストハムとの直接対決が明暗を分けそうだ。


▼スタッツから探るヒント
【チャンスクリエイト=アシスト+キー・パス】

試合中にTwitterのタイムラインを追うと、時折現地ファンのみならずリポーターなどのアカウントから、「sleepy」の文字を発見することがある。要は退屈な試合内容だと言いたいのである。なーにが眠いだ、こちとら脈略の無いファンたちは明朝、陽が昇る前から応援してるんだぞ、という声は届くわけもなく(威張っていますがディレイ視聴で観戦するのが一番健全です)、振りかざされた試練に耐えたご褒美があるのかないのか、それだけを頼りに今季も残すところ約1か月となってしまった。

順位を見て停滞感を得るか、それとも健闘しているか、エヴァトニアンの目にはどう映るか。なにより4月、エヴァートンは負けなかった。アラダイスのWBAに苦し紛れに勝ってから、5戦も勝利に見放された。もうこの時点で矛先をアラダイスに向けかねない憂さが溜まっているが、崖から生えた枝にぶら下がるような気持ちでCL&EL戦線に辛うじて生き残っている(ECLのことは置いといて…)。不屈の精神がどこまで続くか。

守備傾倒が軸のカルロ・エヴァートンはカウンター型の攻撃スタイルだが、vsバーンリー以降のチームにおけるスタッツを拾ってみる。
今回着目するのは【チャンスクリエイト数】である。
得点に繋がったゴールアシストに加え、キー・パス(アシスト未遂)も含まれているシュートチャンスの創出回数を確認したい(尚、以下「ビッグチャンスクリエイト」はキーパーとの1vs1など、より大きなチャンス、期待値の高い場面を指す)。

直近5節のスタッツ【StatsZoneより抜粋】
29節 ●1 - 2 バーンリー
チャンスクリエイト数:13
・ビッグチャンスクリエイト数:3

30節 △1 - 1 クリスタル・パレス
チャンスクリエイト数:13
・ビッグチャンスクリエイト数:6

31節 △0 - 0 ブライトン
チャンスクリエイト数:4
・ビッグチャンスクリエイト:0

32節 △2 - 2 トッテナム
チャンスクリエイト数:13
・ビッグチャンスクリエイト数:0

33節 ○1 - 0 アーセナル
チャンスクリエイト数:4
・ビッグチャンスクリエイト数:0

ここ数節の得点機を逸するシーンはエヴァトニアンにとって印象強いだろう。顕著なのはリシャーリソンの利己的かつ独善的なゴールへの姿勢。そして、ボックス外からシュートを決められず、足でのショットに課題を残すカルヴァート=ルウィンの姿。ことごとく流れからゴールを割ることができない。更に、CKからのゴールも減っていることが気になるが…。

そして、この5節においての共通点を推察してみる。カウンター型のチーム(バーンリー、パレス、スパーズ)に対しては、エヴァートンの攻撃がある程度チャンスを作れる一方で、ポゼッション型のチーム(ブライトン、アーセナル)に対してはシュートチャンスに持ち込むのに苦戦しているということ。相手にボールを持たせる時間が長いから、その分シュートチャンスが少ないのは頷ける。しかし、エヴァートンが攻撃の形を産む手段に苦労し、必要以上にボールを持たれて押し込まれるシーンが目立つのもお馴染みになりつつある。トランジションも気がかりだ。
絶えない怪我人を抱えることで、満足な布陣を組めなかった状況も大きな要因だろう。

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一方で、前半戦では陰りを見せていた"10番"ギルフィ・シグルズソンの復調、試合に出れば違いを作り出すハメス・ロドリゲスはチャンスクリエイトに大きく関わっている。怪我とはほとんど無縁、鉄人と言わんばかりのシグルズソンと、コンディション不良や小さな怪我で離脱するケースも少なくないハメスは、共にここ4試合で連続出場を続けている。また、不在時には攻撃手段に嘆くことが多かった右サイドの活性化にシェイマス・コールマンが再び存在感を発揮しているのも心強い。
今回も各節を振り返りながら、チャンスクリエイトにも触れつつ綴っていきたい。

(ちなみにチャンスクリエイト数:13回は今季のエヴァートンにおいてトップ・タイの数字。同じく13回を記録したのは、オープンな戦いを演じるも敗北した前半戦のvsリーズ。次点は開幕戦のvsスパーズで12回だ)

SL構想の渦中にいたビッグ6の多くが取りこぼす状況も重なり、運にはまだ見放されていない、と思い込むことはできている。期待を捨てきることなどできないのは、SL構想に対抗する、クラブの素晴らしく、強気で、真っ当で、潔い、そんな声明に心を滾らせてくれたからである。また、チェルシーに圧倒され、バーンリーに屈したあとに大崩れしなかったアンチェロッティの手腕は評価されるべきだろう。絶えず怪我人を抱え、ユースフルなベンチメンバーが並ぶ試合もありながら、なんとか4月を乗り切ったのだから。が、これはポジティブな思考であると同時に、目標を達成できた場合にこそ意味を持つ思い込みかもしれない。勝ち点を積めるチャンスを逃したことは事実で、歯痒い状況が続く。
ただ、過ぎたことにいつまでも愚痴をこぼしても楽しくないので、続けてきた振り返りコラムで懲りず、前向きにエヴァートンを深掘りしたい。戦術において固定的ではないアンチェロッティだからこそ、こうして書くことに飽きない性質を感じ、どこか助けられている気がする。潜在的な文脈・前後関係が試合ごとに繋がっている感覚である。

▼vsクリスタル・パレス △1-1 Home
→幾多のビッグチャンス実らず、若さが招く失速の茨道

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この試合でアンチェロッティが設けた静的システムは5-3-2、逆三角形の中盤、アンカーにはバランスが取れるトム・デイビスを。守備撤退時にはA・ゴメスと並ぶ5-2-1-2(3-4-1-2)がベース。流れの中で攻撃時には大外のWBが高い位置へ張って上がり、3-1-4-2へ移行する可変システム。選手個々の配置は変わるものの、実験パートだったvsWBAと同じ戦術的アプローチを採用した。攻撃時、低い位置に人数をかけているエヴァートンは、ビルドアップでハメスがデイビスの近くでプレーをし、デイビスがアンカーから左ハーフレーンにかけて、ハメスが右ハーフレーンを中心に組み立てを行う。この遅攻からボールを運ぶパターンと、ゴメスが2トップのリシャーリソンとカルヴァート=ルウィンに続く形でプレスをかけ、即時奪回を狙うケースが伺えた。

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※ハメス(上)とデイビス(下)のヒートマップ。滞在時間の長いエリアほど色が濃く表示される。攻め方向は左から右へ。デイビスと近く、低い位置でゲームを組み立てるハメス。ここ最近はその傾向が強まっている。

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※前半戦でクリスタルパレスと対戦した際のハメスのヒートマップ。当初は4-3-3の右WGとして出番を得てチャンスクリエイトを創出したが、ドゥクレとアランの不在が現在の傾向に至っていると推測する。ハメスを活かすためのチーム構造→ハメス自身が周りを活かすためのプレー選択に変化しているのではないだろうか。

Image/SofaScore


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3-1-4-2の利点としては、前回の記事でも少し取り上げさせてもらった。特に対4-4-2の相手に対して攻撃において有利とされるのが一般的な評価と考えている。ハーフレーンを軸にFW+WB+CMでサイドに三角形を形成しボールを繋ぎたい。基本WBは大外に、動的にレーンを内側のハーフレーンへ移すことで、ディニュやコールマンがインナーラップを仕掛ける面も多い。替わって、ハメスやゴメスが相手の2CMをサイドに引き寄せれば、デイビスorCBから縦2トップへの活路も開ける。

低い位置からのビルドアップでは数的優位を保つため、エヴァートンのパス本数のほとんどはディフェンダーによる傾向が強い。最多パス本数を記録するのが、キーンらCBであることも多い。故に、相手からハイプレスを受けやすく、試合を通して見ていると、攻め込まれている印象も強まってしまう。だが、相手を自陣に引きつけ、ハーフレーンの2トップ目掛けて速攻を仕掛けることが出来るのも、アンチェロッティの堅守速攻を支えるシステムの魅力ではある。

しかし、パレスの中盤はエヴァートンに悠長な時間を与えない。ミドルサードはいくらか窮屈で、攻め残りする2トップとはトランジションで間延びするような光景もしばしば見られた。これはほかの試合でも感じる点。純粋なトップ下ではなく、右のCMのようなプレイエリアが多いハメスサイドは当然ながらパレスのトランジションで起点になってしまう。厳しいチェックを始め、パレスの攻撃のスイッチはいたってシンプルだった。左のCBに入るホルゲイト側でポストワークに入るベンテケへ何度も楔が入る。プレスバックするゴメス、引き付けられるデイビスを交わしながら、ボールを展開。1.5列目でボールを受けるハメス側のザハ、エゼのボール保持に苦戦する。それでも最後尾に人数をかけているエヴァートンはシュートを打たせるような形でピンチを乗り切った。

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前半に負傷退場してしまうまで、ゴメスの役割は重要かつ効果的で、トランジションの軸を担っていた。攻撃時3-1-4-2のシステムがもたらすメリットのひとつは、ゴメスが示したような高い位置での即時奪回も特徴的だ。

彼の離脱で、エヴァートンは残念ながらシフトチェンジを余儀なくされる。替わって入ったシグルズソンはゴメスほど推進力が無いため、ビルドアップの中で細かいパス交換に集中する=大きな展開はハメス側に頼らざるを得なくなってしまう。となると、パレスのボール奪取のねらい目は簡単明瞭になってしまった。ここから徐々に、エヴァートンは中盤省略型のロングカウンターが目立ち始める。
代わって展開力を見せたのはホルゲイト。久しぶりに本職の左のCBに入り、最前線へのタッチダウンパス、逆サイドへの展開力を見せた。
それでも前述の通り、フィニッシュの局面でリシャーリソンらがなかなか決めきれない。パレスGKのグアイタが、鬼神の如く至近距離のシュートストップを繰り返した。
そして、若干役割過多に見えたゴメス離脱の皺寄せはアンカーのデイビスに降りかかる。ネガティブトランジションで3CB+1MFの両脇がネックに。
ハメスの背後はウィークポイントと化し、キーンとコールマン(76'→ゴドフリー)のギャップを突かれてしまった。後半、投入直後にバチュアイに喰らった失点は最たるシーンだ。本来ならば、再三訪れたチャンスを決めておけばここまで難しいゲームにならなかった。アンチェロッティもチームのミスが招いたドローと評価し、カルヴァート=ルウィンも自身のSNSでチャンスを逃したことを悔やみ改善を誓った。

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このゲームで最もチャンスクリエイトを記録したのは、両翼のディニュとコールマン(ともに3回ずつ)。4CB採用時の課題をクリアにする33歳のキャプテンは、高い位置でトランジションを制し、ドリブルでキープ力を見せるなど、深い位置に切り込める大きな武器。エヴァトニアンにとっては当たり前の光景も、現有戦力では決して替えの効かない存在と再認識する。また、若干アシストのペースが落ちつつあるディニュだが、先制点のシーンは相手の対策を剥がす絶妙なインナーラップで打開した。

先制点を挙げたシーン、ハメスの一連のプレーは、久々のサイドチェンジを織り交ぜたホットラインを復活させた。ヨーロッパにおいて通算100ゴールを記念するメモリアル。この難しいゴールは決まるのに…グアイタさん暴れすぎだよ…。

▼vsブライトン △0-0 Away
→明確・明瞭なポッターと個人依存型のアンチェロッティ

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組織的でボールの運び方も一貫されていた。評判に違わぬフットボールを見せるブライトンは、冒頭に記したアンチェロッティ語録とは異なり、"機能的な攻撃"を披露した。絶えずライン間を動き回ってボールを収めるのが上手いモペイを軸に、2列目中盤の選手が追い越していく姿は印象的である。前半戦の主力だったWBのマーチとランプティを欠き、3トップの一角で献身性を見せるコノリーが不在も、遜色ないプレーを披露できるのはポッターの手腕と哲学の強みだ。
対するエヴァートンは、前節に続き3CBを採用した。一筋の光が差し込みかけたグバミンの再離脱はバッドニュースで、ドゥクレは5月上旬までトレーニング復帰が不可能、様子をみたアランは間に合わず、前節でゴメスも負傷となりアンチェロッティの頭を悩ませる台所事情。
この状況を受けて、ホルゲイトをアンカーに配置、デイビスとシグルズソンを2セントラルに据えた。
加えて、公式トレーニング動画でシュート練習を行う姿が印象的だったカルヴァート=ルウィンが怪我でベンチにも入らず…得点力に苛まれる中、実に不安要素の多いゲームとなった。
試合に変化をつけられそうなカードはイウォビのみ。そんな中でブロードヘッドを送り出してくれたアンチェロッティも、もっと楽な流れで背中を押してあげたかっただろう。初出場の若手が爪痕を残すには時間も再現性も足りなかった。

大枠で見ると互いに3CBでWBを置く点は共通するものの、連動性でブライトンが上手。エヴァートンはビルドアップを開始する相手の最終ラインに対して、積極的にはプレスをかけず。ボール非保持を前提に、アタッキングサード手前で奪う姿勢を見せた。この試合では縦に速い楔を打ち、レイオフを組み合わせて侵入してくるブライトン攻撃陣に手を焼いたが、エヴァートンの守備陣は健闘していた。問題はボールを奪ってから。ターゲットのカルヴァート=ルウィン不在による影響はこの試合でも如実に表れていた。今季解消できていない課題である。ロングカウンターの選択肢を失うことで、ビルドアップは相手のプレスを避ける形で、大外のディニュとコールマンを経由せざるを得ない展開。中央はモデルとララーナが封鎖。たとえマークのズレが生まれても、守備範囲の広いビスマがトランジションを回復した。ブライトンはモペイがファーストプレス、CBの左右ゴドフリーとキーンにはウェルベックとトロサールが、それぞれ高い位置からチェックに入ることで、エヴァートンのボール運びを外側へ誘導する。

ブライトンの欠点と言える、フィニッシュの精度に助けられたのはクリーンシートの大きな要因で、浴びたシュートの本数は23本ながらなんとか耐え凌いだ印象である。82分にイエローカードを受けたマイケル・キーンの表情からは、我慢した守備の先に相手ゴールへ近づけないフラストレーションが滲んでいた。

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エヴァートンが唯一可能性を見せたのは、またもRWBのコールマン。右サイドのみのチャンスクリエイト数4回に終わった中、3回はコールマンからの演出だった。機敏なインターセプト、高い位置でボールを奪い返すなど、孤軍奮闘といった様相だった。ディニュは7本のクロスを放ったが成功数は1に留まり苦戦。
一方のブライトンのチャンスクリエイト数は14。実に8人の選手がチャンスクリエイトを記録し、中央、左右、満遍なく攻撃の形を作り出していた。ラインブロックというよりも自陣に人数をかけ、失点しないことで勝機を探る戦いを見せたエヴァートンと、ボール保持を前提に迫力あるインテンシティを維持したブライトン。どちらも間違いでなく、勝ち点を得るためのパフォーマンスだったことは確かだ。だが、バーンリーに敗北し、クリスタルパレスに引き分けたあと、仕上げの味付けをするようにvsブライトンから映し出されたエヴァートンは、個人のクオリティに依存する弱さが滲み出た。組織で攻撃を構築できぬまま、リシャーリソンはシュート0本に終わり脅威になれなかった。
「ブライトンにカルヴァート=ルウィンがいたら強い」、というTwitterでのつぶやきを見かけて切なくなったものである。ポッター・ブライトンが見せる浪漫、誰が出ても戦い方を変えずにアプローチできる一貫性に、マルコ・シウヴァの姿を思い出したのはここだけの話だ。

▼vsトッテナム △2-2 Home
→取りこぼした勝ち点2は大きくも収穫あり、目指すステージに必要なのは勝利のみ

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開幕戦で下し、FAカップでも死闘を切り抜け、3度目の対戦では痛み分け。あれだけ苦手意識の強かったスパーズに対し、2勝1分けという結果だけでも十分すぎると筆者は感じている。ここ数年で勝てる見込みはほとんどなかったが、モウリーニョ更迭の報が残酷で、勝負の世界の辛さを見せられた気分だ。AmazonPrimeで配信されている「All or Nothing」を観た方もいるだろう。劣勢、戸惑い、不安、それらを払拭するモウリーニョの姿勢と言葉、コントロール、選手が息を吹き返し勝利へ導く瞬間は、今はない観客の歓声が相乗し鳥肌が立ってしまう(要は「All or Nothing」めちゃくちゃ面白い)。
しかし、冒頭のアンチェロッティの言葉にあるように、今日良かった戦術が、次も良いとは限らない(この語録では前年王者のチェルシーが翌年10位で沈んだ15-16シーズンを例に挙げている、明日は我が身…)。彼らには彼らの問題があったのだろう、と妙に腑に落ちてしまう気持ちになった。
そんなスパーズは3月、ノースロンドン・ダービーで敗北し、ニューカッスルには後味の悪いドロー、ELでもザグレブに大逆転を許した末の敗退、そしてマンチェスター・ユナイテッドにも敗戦したあとのvsエヴァートンだった。奇しくも、モウリーニョにとってスパーズで指揮を執った最後のゲームとなった。

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そんなスパーズであれど、怖いのは毎度のことで、調子が上がり切らないのはエヴァートンも同じだった。
しかし、意外だったのはスパーズが3バックを敷く、3-5-2のシステムで挑んできたことだった。失点が増えていることに対する施策か、エヴァートンが3CBをベースとすることへの対応か、モウリーニョは新しいきっかけを得たいと考えていたかもしれない。
だが、新しい試み、新しいアプローチを施すのであれば、アンチェロッティの方が上手だろう。依然、主軸のカルヴァート=ルウィンを欠くエヴァートンだが、アランが待望の戦列復帰。ミナは前節のvsブライトンにて負傷離脱となったが、CBの層は今季の大きな強み。好調のコールマンはベンチスタート。RBはゴドフリーが務め、イウォビが先発に復帰。静的システムはアンチェロッティの最も得意とする4-4-2で対抗した。

前半から、エヴァートンは見違えるような攻撃スタイルを見せてくれた。4-4-2がベースも守備時はイウォビも献身的にディフェンスラインをサポートして5バック気味に。中央はアランが入ったことでフィルター性能が向上。デイビスもアランのサポートを受け、しっかりとボールを散らした。また守備貢献が光るシグルズソンは後方のリズムとリアクションの良さが攻撃面に繋がり、ドリブルでの推進力やシュートシーンを作るなど存在感を見せた。そして極めつけはハメス。20分にはリシャーリソンに決定的なパスでキー・パスを送るなど、オープンプレーで打ち合ったFAカップを思い出す好機を作り出した。
こうした流れだったからこそ、先制点を許したのは残念だった。26分、大外から内側へ侵入したレギロンの機転を軸に、エンドンベレのクロスからディフェンスラインの綻びが発生。勿体ない失点を生んでしまった。こうした隙を逃さないハリー・ケインには今のエヴァートンに足りない無慈悲な決定力をお見舞いされた気分だ。
ただ、このゲームのエヴァートンには、対カウンター型とはオープンプレーで張り合えるパワーがあった。30分、カウンターのチャンスを得ると、躍動的なドリブルでアタッキングサードへボールを運ぶシグルズソンがグラウンダーのクロスを送る。中央でボールを受けたハメスがレギロンと接触しPKを獲得。アイスマンこと冷静なプレースキッカーのシグルズソンが同点弾を決めて見せた。
前節はフルタイムで8本のシュート本数だったエヴァートンは、このゲームでは前半だけで10本のシュートを放った。
後半に入っても、ミドルサードを中心に互角の競り合いは続く。主導権を譲らないエヴァートンは、大外頼りだったビルドアップも中央から崩せる形を見せた。アランとデイビスがフラットではなく段差を作りボールを前進させやすくする。ハメスとシグルズソンは互いにバランスを保ちながらより高い位置でボールを触ることができた。併用機会の少なかったアランとデイビスはこれまで完成度が低かったが、一定の可能性を見せることができた最初の試合だったと思う。ドゥクレがいない中、インテンシティの高いゲームでアランとデイビスの組み合わせでも、10番タイプの2人を活かせたことは今後において非常にポジティブな要素になった(デイビス、本当に成長してますよね…)。

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好ゲームだからこそ2失点目も非常に悔やまれるシーンだった。少々調子を落としている印象のキーンとホルゲイトには、この試合を残りの全勝に向けた材料として奮起してほしいと感じた。

エヴァトニアンフォロワー様のひとり、Chamoroさんの的確な振り返りツイートより。何気なくミドルパスを成功させるハメス、鮮やか&ラブリーなゴールを決めたシグルズソン、後方で支えるアランとデイビス、4人が流動的に中盤でクオリティを発揮した。
このカルテットは個人的に浪漫があって、今季はDFの構築、来季はMFの構築に着手してくれないかと勝手に期待している。

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後半にイウォビと交代で投入されたコールマン。絶妙なグラウンダークロスでシグルズソンのゴールをアシスト。交代策に疑問を呈したゲームが多い中、レギロンの意表を突く、アンチェロッティの見事な交代策がハマった。3戦連続で取り上げたいところだが、今回は見事な共存を披露した2人をピックアップ。チームは13回のチャンスクリエイトを記録したが、そのうちハメスが4回、シグルズソンも4回と文字通り攻撃を牽引。
10番タイプ2人の共存は、かつてのリヴァウド&ルイ・コスタ問題(4-3-2-1がうまれたきっかけ)をはじめ、アンチェロッティは数々のタレントを共存させてきた。ビッグクラブ特有の選手層を経験しているからこそ、(シグルズソンがビッグタレントかはさておき)今後も期待できる伸びしろがある。

個人的には、シグルズソンの契約延長は不要派だ。来季以降の契約は不透明だが、停滞気味の攻撃面で確度の高いPKや結果、守備数値を残しており、いつの間にかアンチェロッティのフットボールには欠かせなくなっている。エヴァートンに残るかどうかは本人次第になりそう。次節もその次もアンチェロッティはまた異なったアプローチを仕掛けるだろう。そして来季、攻撃的なプレーヤーを獲るならば、またシグルズソンのポジションは危うくなる。それでもアンチェロッティが劣勢で彼を必要として、また活躍してくれるなら、きっと私は惚れ直すと思う。

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そしてプレアシストで貢献したリシャーリソンも挙げておきたい。
ハメスのキー・パスをゴールに繋げれなかったりと、またもやネットを揺らせなかった。それでもアンチェロッティはリシャーリソンの起用を続ける。今季は特に調子の波が大きい。まだ23歳の若者は、キャリアで一番大きな壁とぶつかっているかもしれない。vsレスターや、マージーサイド・ダービーであれだけ見事なゴールを奪ったのにも関わらずだ。
話は遡り、2019コパ・アメリカでブラジル代表が大会を制した決勝戦、リシャーリソンの姿は今でも覚えている。そして、多くの大舞台を経験した先輩チームメイトの言葉が真のリシャーリソンを裏付ける。

"リシャーリソンが入って司令塔となり、皆落ち着きを取り戻した"
”彼が空気を変えた”

―ダニ・アウヴェス(サンパウロFC)

”彼がボールを持ち時間を稼いでくれた、交代で彼が入ったことは本当に大きかった”

―カゼミーロ(レアル・マドリード)

”リシャーリソンはすごく純粋で明るくてカリスマ性のある男だ。それがフィールドに立つと決して諦めずにボールを追う戦士になる。”

―フェルナンジーニョ(マンチェスター・シティ)

後半の佳境、リシャーリソンはカブリエウ・ジェズスが退場し、フィルミーノと代わってピッチに入った。劣勢でピンチを迎えるブラジル代表を救ったと言っても過言ではない。エヴェルトンが倒されて得たPKを自ら志願し、ペナルティエリアに立った。後半45分のこと、国を背負って…そして相手を突き放す決勝点を決めた。
個人的な意見だが、今、リシャーリソンを応援できないならエヴァトニアンではないと思っている。勿論、成長は必須であり、前半戦のレビューでも成長を期待するキーマンとして挙げてきた。
ボールを持ちすぎる姿、独善的なゴールへのプレー、それは場合によって、時にチームの為になっていないかもしれない。しかし、トランジションの局面で守備に貢献し、相手からのファウルを誘い、チームを助けるシーンも多く見ることができる。アンチェロッティなら、彼をもう一歩、先のステージへ引き上げてくれると信じている。そして、歯車が嚙み合うように手が付けられなくなるリシャーリソンを待ちたいと思っている。もちろん、披露してくれるのはエヴァートンのユニフォームで。

▼vsアーセナル 〇1-0 Away
→幸運が歴史を塗り替える貴重な勝利。さあ、あとは浮上するだけだ。

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そんなリシャーリソンが相手のオウンゴールを誘ったvsアーセナル。VARにも助けられた。ゲームを決めるのは運なのか判定なのか、選手の実力なのか…自分が勝利した側なら傷は浅くとも、たまに嫌な気分になる時がある。それは他チームの試合を見ていても同じだ。VARのルールはまだまだ改善されるべきだと思う。
SL騒動の直後だったゲーム。物々しいエミレーツスタジアム。声明発表後に勝利を収められたことも、大きな結果だったと思う。エヴァートンありがとう。

マッチレビュー&アーセナル界隈ではご存知の方も多いであろう、ガナーズファンせこさんのnoteリンクを貼らせていただきます。エヴァートンが分析してもらえる機会は少ないですからね。
そして、外からの客観的な指摘や意見というのはやはり貴重で、とても参考になる部分が多い。特に私みたいな主観野郎には尚更です。

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スコア以上に好ゲームだったと思う。アーセナルも怪我人を多く抱えた中、共に同時期にチームへ就任した、ミケル・アルテタvsカルロ・アンチェロッティの第2戦。結果はエヴァートンがシーズン・ダブルを決める、敵地で25年振りの勝利を収めた。アンチェロッティは、着実にクラブの不穏な歴史を塗り替えていく。彼のフットボールはつまらない、オーソドックスだ、古典的だ、と揶揄されつつもメディアや過去のファンから「1年後には感謝することになる」という言葉が、こういった所に表れているのかも、と最終順位が決まる前から納得させられている。アンチェロッティは「哲学を押し付けないことが哲学」か、と思わされる振る舞いと、ペップの元で学んだフットボールと、自身の理想を追い求めるアルテタ、隣の芝生は青く見えてもどちらが正解かは難しい話である。双方クラブレベルには差があるが、アンチェロッティとエヴァートンが、今季現在の順位で終えても”失敗”ではない、と思えるようになってきている。

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カルヴァート=ルウィンが先発に復帰、前節で攻撃面に改善が見られたエヴァートンだったが、ここはアンチェロッティ、早速アプローチを変えてきた。静的には4-2-3-1、動的には4-4-1-1や、場面によっては4-3-2-1や4-2-4を織り交ぜ、シグルズソンとハメスを同時起用。DCLを1トップに置き、リシャーリソンが右サイドに配置された。CBはキーンがハムストリングの痛みを訴え欠場。vsフラム以来となる、ゴドフリーとホルゲイトの組み合わせとなった。個人的には頭からデイビスを使ってほしかったかな、という記憶。
立ち上がりからプレスラインはやや高め。前進を図るアーセナルに対しプレッシングをしかけ、一度自陣まで押し込まれてもまたバックラインまで下げさせる集中力を見せた。
12分には、ピックフォードのリスタートからシグルズソンがボールをキープ。同サイドのディニュが駆け上がりクロス。カルヴァート=ルウィンが頭で合わせるなど、再現性ある強みを生かしたシンプルな攻撃を展開。
スタートから15分で少なくとも3度は起点を作ったカルヴァート=ルウィンを見ると、彼がいるだけでポジティブトランジションが成り立つのだな、と実感した。
守備ではセバージョスの散らしとパーティの楔が効果的なアーセナル。ペペサイドを軸にボールを保持しエヴァートンゴールに迫られた。
しかし、ゴドフリーとホルゲイトの2人が集中しており、フィニッシュの局面で自由を与えなかった。


▼アーセナルの4-4ブロックを剥がした、変則的な4-2-4の自由度と合理性

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前半29分のシーンから。アーセナルの狭い4-4ブロックを「攻略しかけた」チャンスクリエイトを抜粋する。
自陣深い位置からビルドアップを行うエヴァートン、遅攻でハメスがアランとゴメスの間に入るところから変則的な動きが見られた。
前述の通り、低い位置でボールを持つ傾向のハメスは、ゴメスやアランとパス交換を交わしながらボールを運ぶ。遅攻による時間のタメはコールマンが高い位置に張るための時間を創ることでもある。この日、右のSHに位置するリシャーリソンは、コールマンの動きによりハーフレーンでポジショニング。シグルズソンも、ハメスからのパスを要求する形でダイアゴナルに中央のライン間へ上がる。ゴメスはハメスと位置を変えながらサポート。シグルズソンが中央に入ったことで、ルウィンが外へ開き、コールマンへボールが渡った時のためポジションを移していく。アランはコールマンが上がったスペースをケアするため、RBの位置でネガティブトランジションに備えた。

ボールを持とうと思えば、人さえ揃えば保持できるのがエヴァートン。それは今季の開幕に示した大きなサプライズだ。

ビルドアップ中に何度か楔を打とうとしたハメスが、相手に遮られたため、いったん諦めてボールを味方へ預ける。その後、ゴドフリーからアランと繋いだところで、ドライブを仕掛ける。アランからボールを引き出したのはハーフスペースを利用したリシャーリソン。ワンタッチで切り返しマリを振り切ると、逆足の左でシュート。レノに塞がれるものの決定的なシーンを呼び込んだ。
例えばコールマンに渡していても、ファーサイドのルウィンをターゲットにできたし、アランがもう少し前進すればシグルズソンにも提供できた。
遅攻で見せた自由度の片鱗、4-2-4はデザインされたものというより、ハメスを軸とした即興にも感じた。この試合では面白く、今後も再現できればいいな、と思える1つのシーンだった。
あと面白いというとファビアン・デルフはサプライズだった。色々と起きすぎて後半は観戦の集中力が途切れて…真面目なことをいうと、ひとつひとつのプレーが身体を庇うような動きに見えて仕方ない。彼も難しいキャリアの晩期を過ごしているひとり。

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チャンスクリエイト数4回に収束した試合で、後半はトランジションにおいてライン間が間延びし、主導権を握られる展開が続いた。リシャーリソンのゴールはラッキーであったものの、粘り強い守備が生んだ勝利だったと思う。内容ではなく結果が必要な時期で、貴重な勝ち点3をもぎ取った。この日もチャンスクリエイトの主役はコールマンの2回。続くディニュのルウィンへのクロスが1回。そして、4-2-4の変則的な場面を見せたアランの1回だ。
元々ナポリ時代、ポゼッション型、ボール保持により強みを見せていたアランの役割は、当時名を挙げた頃と違い、エヴァートンでは守備的貢献の比重が高く期待されている。しかし、マウリツィオ・サッリに認められた技術は、しつこいプレッシングができる1列前のパサーでもあった。アンカー起用が主だった前半戦を経て、前節のデイビスとの可能性や、vsアーセナルでのキー・パスで演出できる才能はもっと活かしていくべきかもしれない。先日、力強いメッセージをくれたブラジルのインコントリスタは、小さい怪我の頻度が災いしナポリで出番を失ったが、エヴァートンではまだまだ存在を高めていってほしい。


Phase.7 CheckPoint

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Photo/Getty Images

①チャンスクリエイトをヒントに
・対カウンター型の相手及び、打ち合いのオープンプレーでは張り合える。ポゼッション型の相手に対し、より決定力が課題。プレミアアザー14クラブでは2番目のフィニッシュ精度を持っているだけに…

・即ち、リシャーリソン&DCLの更なるレベルアップは必須。また、後者不在時のカウンターパターン、ゴールパターンは再現性を持って増やす必要がある。2人ともステップアップを果たすなら、もう少し理不尽さが欲しい。

・被ポゼッション型のエヴァートンは、堅守速攻で輝き始めるシグルズソンが印象的。一方で前半戦存在感が高まりつつあったイウォビの姿が、後半戦にかけて薄まっているのは懸念事項。アーセナルでチャンスクリエイトの鬼だった彼は、非ポゼッション型の犠牲者かもしれない。

②遅攻と速攻、システムをヒントに
・4-4-2にはアランが必須?デイビスとの併用で初めて見せた可能性。今後も磨いてほしい所だが、長い目で見るならデイビスを軸にするべき。最近、守備面も頑張ってるゴメス推しとしては悩ましい。

・離脱して日々増していく、ドゥクレの存在感とハメスの変化。ハメスを高い位置で使いたい。というか、高い位置でボールを受ける、展開する時間を増やしてあげたい。遅攻で降りてくる時間が多くなっている。ドゥクレ、アランがいないと不可能なのか…を打開してくれそうなアランとデイビス(アランもフル稼働は出来ないのが玉に瑕)。4-2-4が、今後のヒントになるかは微妙だが、色んなパターンが作れるようになれば面白い。

・5バック(3CB)の押し込まれやすさ、プレスの受けやすさ、低重心のビルドアップは相手を引き付けるための策。より鋭い速攻を可能にしたい。よってポゼッション型の相手との試合は見ていて辛い。この上位互換で今季成功しているチームがロナルド・クーマンの3-5-2で復活したバルセロナらしい、なんやそれ。

③ミスをヒントに
vsトッテナム&アーセナルは教訓。
一瞬の綻びで勝ち点を落とすか、諦めずにゴールを目指し、どんな形であれ得点し、不屈の意思で勝利を掴むか。内容よりも結果を残すしか無い。残り試合、勝利しか意味がない。

さあ、改めてチームがひとつになる時だ、
"The People's Club"は突き進むのみ!

今回もお読みいただきありがとうございました。
本稿「群雄割拠編」で今季第7回目のブログとなりました。
アンチェロッティ関連の読書感想文に始まり、はや残すところあと1か月のところまでやってきました。
あっという間ですね。最後まで可能性を残してほしい限りです。
今回はTACTICAListaにもチャレンジしてみました。難しい…。
できれば、シーズン終了後に終盤戦レビューもう1度、そして総括できる選手個々の総評など投稿出来たらと思っています。
書き甲斐のあるシーズンラストを迎えられることを祈り、今回の締めとさせていただきます。

COYB!!



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