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名盤と人 8回 極上だった来日公演 「Come away with me」 ノラ・ジョーンズ  

5年ぶりの来日公演が武道館で開催されたノラ・ジョーンズ。前回以上、いや過去最高の極上の演奏を聴かせてくれた。もはやジャズ・クインテットと言うべき、至上の演奏の軸はあるドラマーの存在だった。デビューアルバムから続く、ジャズ・ドラマーBrian Bladeとの交遊を探る。

武道館で繰り広げた極上JAZZ Live


コロナになり大会場でのLiveはすっかりのご無沙汰で、この日本武道館に来たいつ以来なのか思い出せない。
もしかすると前回のNorah Jones以来か。
いや、ポール・マッカートニーに行っていた。

10/14 日本武道館

さて、今回のNorah Jones。大きな変化はバックを務めるミュージシャンにあった。前回はノラ自身のバックバンド「THE CANDLES」を帯同し、カントリーロック的な展開だったと記憶している。
今回のメンバーは、
Brian Blade (Dr)
Chris Morrissey (B)
Dan Iead (G)

とリズムセクションをJazz界の精鋭が固め、特にドラムのBrian Bladeは現代ジャズ界の最高峰のドラマーと呼ばれる達人である。
そのため、過去のステージとの色合いは大きく変化した。

Setlist
1.Just a Little Bit
2.Thinking About You
3.Say No More
4.Sunrise
5.What Am I to You?
6.It's a Wonderful Time for Love
7.Long Way Home
8.All a Dream
9.4 Broken Hearts
10.Young Blood
11.Painter Song(from Come away with me)
12.Falling
(Norah Jones & Rodrigo Amarante )
13.I’m Alive
14.Flame Twin
15.Come Away with Me(from Come away with me)
16.Don't Know Why(from Come away with me)
Encore:
17.Nighttingale (from Come away with me)

今回のツアーはデビュー作にして名盤「Come away with me 」の20thと銘打っているので、ラスト3曲がこの作品からとなり観客が最大に沸く場面ではあった。(合計4曲がCome away with meより演奏された)
ただ、それまでは2枚目「Feels like home」から3曲、2012年の「Little Broken Hearts」から2曲、最新作「Pick Me Up Off The Floor」から3曲と満遍なくアルバムから選ばれ、ヒット曲ばかりではない渋い選曲だった。
それをこのメンバーが極上のジャズアレンジで仕上げるのだから堪らない。

前回のジョニ・ミッチェルの回でも紹介したBrian Bladeだが、JAZZ界のトップドラマーながら、ボブ・ディランダニエル・ラノワらロック界の作品への参加も多い。
ノラもここぞと言うライブには必ずブレイドを起用している。

エンパイアステートの屋上で開かれた、ビートルズの「Let it be」(Get Back)公開記念ライブでも彼を起用している。

「Come Away with me」から20年

実はBrian Bladeはデビュー作の「Come away with me 」にも参加しており、20年にもなる付き合いからの信頼感は絶大。
ブレイドは2019年のインタビューで答えている。

―― あなたはデビュー当時のノラのことも知っているわけですが、当時から現在に至る彼女の音楽性をどのように捉えていますか?
ブライアン:彼女は、デビュー作が自分でも予想もつかないほどに大ヒットしまったわけだけど、そうすると普通の人ならヒットの方程式を崩さずに、同じスタイルで作品を発表し続けてしまいがちだ。でも彼女は、進むことを恐れなかったし、その時々で自身の考えていることや経験したことを真摯に表現し続けている。
その信念はジョニ・ミッチェルと共通するものがあるね。

Blue Note
2002年のデビュー作

「Come Away with me」は2002年2月Blue Noteレコードより名プロデューサーArif Mardinがプロデュースしリリースされた。
アメリカのアルバムチャートでナンバー1を獲得し、 グラミー賞の最優秀アルバム賞と最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞など、アルバム4部門、シングル3部門を受賞。最優秀新人賞と合わせて8部門を獲得しレーベル史上最高の売上げをもたらしたお化けアルバム。
Brian Bladeの他に「Don't know why」の作者Jesse harrisやジャズギタリストBill Frisellが参加している。

ブレイドは「I've got to see you again」や「Nighttingale」などで、職人的なドラムプレイを聴かせている。
「Nighttingale」では独特のスネアワークで完全に曲を支配しつつ、ノラのピアノプレイを引き出しており、昨日の武道館の2人の姿に重なる。
武道館でも披露した「Painter Song」では叩いているのか微妙な程の控え目ながら、確実に曲に色を付ける彼ならではのドラミング。

「Come Away with me」においてノラ自身の曲は数曲で、評価はあくまでシンガーとしてのもので、大きな成功を得たが数年間はオリジナルの少ないことに悩んだと言う。

Brian Blade「Feels Like Home」( 2004年)にも参加したが、その後の参加は途絶え、ノラもJAZZから離れてカントリーやロック色の強いサウンドに傾倒していく。

そして、再度JAZZにチャレンジした「Day Breaks 」(2016年)で再会し、今に至るまでノラ・サウンドの中核を担うのである。

本公演のオープニングも2019年の「Begin Again」からのブレイドとの共作「Just a Little Bit」(Jones, Sarah Oda, Brian Blade, Christopher Thomas)だった。この曲のドラムとベースの入り方に心を鷲掴みにされ、すっかりとこのバンドの演奏に引き込まれて時が過ぎて行った。

今回の公演は大きくJAZZに振れて、歌のない間奏部分ではノラのピアニストとしての魅力も引き出され、ソロライブと言うより「ノラ・カルテット」の様な一体感のある演奏が楽しめた。

そしてリズムセクションであるブレイドが完全にバンドをコントロール、ノラの歌声やピアノに合わせて絶妙に反応するプレイは見応え十分。
ノラもブレイドのリズムに引き出される自分を楽しむ様に、会話のごとく進む演奏はまさに別次元。

2020年発売の目下の最新作『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』ではノラはこの様に答えている。

ーブライアン・ブレイドは世界最高峰のドラマーとして、ボブ・ディランなどの数多くのアーティストから引っ張りだこと伺っています。彼とはどうやって一緒に音楽を作っているのでしょうか。

ノラ:「う〜ん、曲作りを一緒にするというよりも、とてもユニークなグルーヴを思いついてくれるの。そうするとそれをレコーディングに活かそうと思って録っておいたりする。それがとてもスペシャルな音だったりするのよね。彼は歌詞を良く聴いてくれる。音だけではなくて歌詞を聴いて、その歌詞に合わせてドラムをプレイするの。それがとても心地いいの。」
また、「今回のアルバムで一緒にスタジオに入るのを一番心待ちにしていたのは、ブライアン・ブレイドだった。」とも。

rolling stone

そして、ベースはデヴィッド・ボウイの『ブラックスター(★)』への参加で知られるマーク・ジュリアナのカルテットの一員のChris Morrissey
エレクトリックとウッドベースを起用に持ち替え、ブレイドと鉄壁のリズムを繰り出す。
シンガーでもあるChris Morrisseyは同じくシンガーでもあるブレイドと器用にハーモニーも聴かせる。
ブレイドが叩きながら歌う姿は何てレアなんだろう。

近年まれに見る素晴らしい演奏だったが、最も沸いたのはラスト3曲。
特に「Don't know why」での湧き方は凄い。
だが、20年前のデビュー作(しかも他人の曲)が未だに最も期待されているのも、彼女にとっては重荷ではないのか。
それを振り払う様に2002年の発売時のアレンジとかけ離れた、もはやJAZZでしかないサウンドに仕立て公演を締めくくった。

2017年にイギリスの名門ジャズ・クラブ「ロニー・スコッツ」で実施したライヴ映像。
ブレイドのドラムに、ベースにはBrian Blade Fellowshipのメンバーのクリス・トーマスを起用したジャズ色の濃いアレンジの「Don't know why」
昨日のLIVEもこんな感じで締めくくる。

「Come Away with me」が発売された2002年当時「ブルーノートから発売された最もジャズらしくないアルバム」と評されたが、そう評した評論家は今日のLiveを観て、何と思うか、感想を聞きたい。

最後にブレイドのバンド「Brian Blade Fellowship」の映像を貼っておこう。

P.S.
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