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名盤と人 第6回 Ohioの衝撃  「4 Way Street」 Crosby, Stills, Nash & Young

成功と苦悩を名盤を通して書き連ねるシリーズ企画6回目。
Neil YoungがCSNYで残した最大の名曲「Ohio」。彼らのLIVEアルバム「4 Way Street」でも強烈な演奏を刻んでいる。個性が強く、個人の集団と言われた4人がOhioでは一つになれた。50年過ぎた今でも続くOhioのインパクトを探る。

CSNからCSNYへ

伝説のグループCSNY(Crosby, Stills, Nash & Young)。60年代から70年代に活躍した有名グループで、唯一メンバー全員が2022年現在も生存している唯一の存在とも言える。
David Crosby  (1941年8月14日) 81歳 元Birds
Stephen Stills (1945年1月3日)   77歳 元Buffalo Springfield
Graham Nash  (1942年2月2日)     80歳  元Hollies
Neil Young     (1945年11月12日)  76歳 元Buffalo Springfield
平均年齢 78.5歳なのに皆健在だから再結成の話は絶えない。
スティルスが体調が今ひとつらしいが、他の3人は定期的にライブも行っている強者揃い。
常に噂される再結成だが、メンバー間の不仲により実現には至っていない。過去には結成と解散を繰り返し、今や常にメンバー間に不仲があり、お互いをメディアを通してけなし合う珍しいグループだ。

1969年5月、CSNはデビュー・アルバム『Crosby, Stills&Nash』を発表。
演奏面でのリーダー格Stephen Stillsは演奏力のさらなるアップを目指して、次作のためメンバーの補強を計画する。
当初Steve Winwood を候補にイギリスまで交渉に渡ったが、WinwoodClaptonと共にBlind Faithを結成するアイデアがあり断られた。

最終的にはAtlanticの社長アーメット・アーティガンの提案によりNeil Youngが新メンバーに落ち着く。
ヤングとスティルスはBuffalo Springfield在籍中から対立を繰り返していたが、そのヤングを迎え入れるという苦渋の決断をする。
ヤングの存在は火種となり、スティルスとの対立が頻繁に起こることになり、グループは常に解散の噂を抱えたままの運営となる。

そしてCrosby, Stills, Nash & Youngとしてウッドストック・フェスティバル(69年8月)へ参加、さらに翌1970年3月CSN&Yとして『Déjà Vu』をリリースし、チャートの1位を記録する。

名曲『Ohio』の誕生


さらに6月Neil Young作の『Ohio』がシングルとしてリリースされる。

この「Ohio」がベスト盤以外で唯一収録されているのが『4 Way Street』。
「4 Way Street」は2枚組のライブ・アルバムとして、翌年の1971年4月にリリースされる。
これもビルボードチャートの1位を記録した。

4 Way Street

リズムセクションにも変更があり、前作の
Greg Reeves (Bass)
Dallas Taylor (Drums)
から
Calvin Samuels (Bass)
Johnny Barbata (Drums)
となっている。
Barbataは後にJefferson Airplaneに加入、SamuelsはManasasに加入。

録音は1970年6月2日~7日にニューヨークのフィルモア・イースト、6月26日~28日にLAのザ・フォーラム、7月5日にシカゴ・オーディトリアム。
シングルのOhioの録音もこのメンバーでの録音である。

リズムセクションを入れ替え

Déjà Vu」の録音はNeil Youngの参加は限定的で、一部の曲への参加のみに止まっていた。(10曲中5曲)
Helpless」等の自作でのボーカルと「Woodstock」等でのギターでの参加のみで、コーラスには参加していなかった。
メンバーではあるが、ある種ゲスト的な存在だった。

それがこの「4 Way Street」では目立ちまくる。
オープニングを飾る"On the Way Home"。
オリジナルはBuffalo Springfieldでレコードではリッチー・フューレイがボーカルだが、作者のヤングがボーカルをとる。
この曲で始まるアコースティックセットだが、ポップな原曲とは違う哀愁のあるヤングのボーカルとCSNのハーモニーが素晴らしく、すっかり魅了されてしまう。

ヤングは1970年9月ソロの「After the Gold Rush」をリリース。
この中の「Southern Man」を「4 WayStreet」にも収録、しかも13:15という長尺で、泣き叫ぶような独特のヤングと技巧派のスティルスのギターソロの掛け合いが聴き物。
しかし、この「Southern man better keep your head(南部の人よ、頭を良くした方がいい)」から始まる衝撃的な歌詞を、このライブではリリース前に披露していたことになる。
北部とはいえ、初めて聴く歌詞とさらにこのヘビーな演奏に、沸く前に驚きか静まり返る観客の反応も面白い。


1975年当時高校生だった自分も後追い的に2枚組のこのアルバムを買っている。それも当時既に大スターだったニール・ヤングの代表曲がたっぷりと聴けるからだった。
まさにゲスト的な存在だったヤングがCSNYを乗っ取った様相で、「ニール・ヤング&CSN」に感じる程の存在感がこのアルバムにはある。

ニール・ヤングの曲は"Cowgirl in the Sand""Don't Let It Bring You Down"も含まれ、この時期のニール・ヤングのベスト盤としても聴ける。
他のメンバーもCSNYの曲よりもソロがメインで、スティルスは"Love the One You're With"、ナッシュは"Chicago"を負けじと披露し、もはや解散状態のためソロのプロモーションとして位置付けていたのだろうか。

そしてど迫力なのがクロスビーの「Long time gone」。CSNのレコードよりさらに激しくなり、スティルスはオルガンに周り、レコードてはいないヤングのギターが前面に出た素晴らしい演奏だ。
(トム・ジョーンズが参加した珍しいこの時期のCSNYの映像)

ヤングはボーカル、ギター共に絶好調だが、スティルスはバンドセットでのボーカルに精彩を欠きコーラスにも不満があり、スタジオでの音を重ねるように主張したが却下され、作品の出来に不満を持っていた。
それにしても、多くのロックライブアルバムが、スタジオでオーバーダブなどを重ねて、手直しされているのを聞いて失望したものだ。
例えば、ライブに定評のあるザ・バンドリトル・フィートのライブアルバムさえもスタジオでの録音が加えられている。
それを思うと荒削りながらライブ録音をそのままリリースしたCSNYのピュアな精神を称えたい。

ニール・ヤングの歌に込めた強烈なメッセージ、そしてライブパフォーマンスでの強さが発揮される「Ohio」
さらにヤングも入れた4声コーラスで「Four Dead in Ohio」と繰り返す4人の一体感は素晴らしい。
これがこの作品の最高の聴き物であり、CSNYのライブ史上でも最高のパフォーマンスであろう。

そして「Ohio」こそが、CSNYとして全員が一体感を持って録音された唯一の楽曲であることを後に知る。

1970年5月4日に起こった「ケント州立大学銃撃事件」
※オハイオ州にあるケント州立大学で起きた銃撃事件で、米軍によるカンボジアへの爆撃に反対する抗議活動中に、州兵が非武装の大学生を銃撃したもの。学生4人が殺害され重軽傷は9人。

Neil YoungDavid Crosbyと2人でいた時に、「LIFE」に掲載されたこの銃撃事件の写真を見た瞬間に、あの有名なギターリフが浮かんだという。
ヤングはその場で曲を完成。
クロスビーは他の2人に即刻電話を掛け翌日にはレコーディング。

クロスビーは、このテイクを録り終えたとき泣き叫んだという。
クロスビーが慟哭(どうこく)する様子は、曲がフェードアウトしていくところで聴き取れることができる。
ライブでもヤングの曲でありながら、後半はクロスビーの「four」と言う叫び声が響き渡り、彼のこの事件への怒りが表現される。

ブリキの兵隊とニクソンがやって来る。
俺たちは、ついに孤立してしまった。
この夏、ドラムを鳴らす音が聞こえてくる。
4人がオハイオで死んだ。

Ohio訳詞

一時は解散に近づいていたグループは遂に一体感を感じながら演奏する。
B面もスティルスの同じ戦争をテーマにした「Find the Cost of Freedom」で政治的なテーマで4人は結束し、グループとしての一体感を獲得する。
この曲ではニール・ヤングも入れた4声コーラスが聴けるのが珍しい。

因みに「4 Way Street」Ohioは1970年6月5日のアメリカ・ニューヨークのフィルモア・イーストでのライブ。
ほぼ、リリースと同時期のライブ録音なので演奏にも生々しさと高揚感を感じる。

4人の一体感があった時期でニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴと録音された「4 Way Street」は熱気と荒々しさ、そして緊張感に溢れている。

Ohio
(このクリップは71年10月のCrosby&Nashのライブに他の2人がゲスト登場した時のもの。)

解散、そして確執と不仲


だが充実した時間は短く、程なくしてStephen Stillsと3人は疎遠となる。
8月にはCrosby,Nash,Youngの3人でCN&Y名義でリリースするはずの「Music Is Love」を録音。(結局は71年2月発売となるクロスビーの『If I Could Only Remember My Name』に入る)

Ohioでの結束は一時的なもので、それぞれのソロ活動も活発化して事実上の解散状態に入る。
そしてこの解散状態の穴埋めとして1971年4月にこの「4 Way Street」がリリースされる。

Ohio by CSN&Y(1974の再結成Liveより)

個人の集合体と揶揄されたCSN&Yが一時的にバンドとして一体感を持てたのが「Ohio」。
だがそれも束の間だった。

その後、メンバーは競うようにソロをリリースする。

そして1972年ヤングは名盤「Harvest」をリリース、これが大ベストセラーとなり彼だけが頭抜けた存在となる。

2枚目のスタジオアルバムになるはずだった1973年「Human highway」を録音するがリリースはされなかった。
1974年にはCSN&Yの大々的な再結成ツアーが実施されたが、それも経済的な理由でのもので、長続きはしなかった。

いつしかYの参加は滅多に見られず、CSNでの活動が多くなる。
CSNYとしては1988年に『アメリカン・ドリーム』、1999年には『ルッキング・フォワード』の2枚のアルバムを発表しているが、70年代のような成果は得られなかった。

クロスビーは1983年、ドラッグと銃の不法所持で逮捕され、薬物依存の治療施設に入所。 
1986年、実刑判決を受け服役。
と音楽活動から身を引く。

アメリカンロックにおいて超ビッグな存在のCSN(Y)だが、実際の活動期間は1969-1970年の2年間に過ぎない。
1972年になるとEaglesDoobie Brothersが登場し、既に世代交代の兆しが見え始める。
常に話題を提供するニール・ヤング以外のメンバーは注目されることもなく、忘れられた存在になって行く。

「CSNY」の現在

2014年、クロスビーはヤングの恋人女優のダリル・ハンナを「人を食い物にする有害でしかない人物」と揶揄し、それ以来ヤングとクロスビーは絶縁状態らしい。
おまけに、長年Crosby&NashとしてパートナーだったGraham Nashにも絶縁宣言される。

(2019年Ohioをライブで演奏するクロスビー)

だが、意外にも現在最も現役感ある活躍しているのは、長年ドラッグ問題で音楽から遠去かっていたDavid Crosbyだ。
2016年に突如、今をときめくジャズバンド「Snarky Puppy」の「Family Dinner - Vol. 2」に客演すると、「Snarky Puppy」のリーダーMichael Leagueのプロデュースで作品をリリース
さらに、Michael League、Becca Stevensなどの若手ジャズプレーヤー&シンガーとコラボ的なバンド「Lighthouse band」を結成し、アルバムも次々とリリースしている。

そして、半分ほどの年齢の彼らとヤングの曲「Ohio」をアンコールに選び、熱を込めて演奏している。
1970年、あの時の怒り、高揚感を次世代に伝えるように。
唐突にクロスビーがOhioを歌うのを聴き「なんで?」と不思議だったが、その答えは50年前のあの時の「熱」にあったのだ。

Ohio by David Crosby & Lighthouse band

また2018年、ヤングはアメリカ中間選挙の際に銃規制運動を支援するメッセージと共に「Ohio」のビデオを公開している。

https://youtu.be/hxl9R_2ax-8

2022年2月、ニール・ヤングが Spotify から撤退。さらに追随する形でデヴィッド・クロスビー、スティーヴン・スティルス、グラハム・ナッシュの3人もCSN&Y、CSN、ソロ・プロジェクトの曲をSpotify から削除する。
したがって、Spotifyで聴く4 Way Streetはヤングの曲だけが抜かれて間の抜けたものになっている。
直接の交流はないものの、スピリットへの共感と同意は変わらない。
4人が生存する間に何らかの和解と交流を期待したい。

4 Way Street
Crosby, Stills, Nash & Young

Side-A
1.Suite: Judy Blue Eyes (coda) Stephen Stills
2.On the Way Home Neil Young
3.Teach Your Children Graham Nash
4.Triad David Crosby
5.The Lee Shore David Crosby
6.Chicago Graham Nash
Side-B
1.Right Between the Eyes  Graham Nash
2.Cowgirl in the Sand Neil Young
3.Don't Let It Bring You Down Neil Young
4.49 Bye-Byes/America's Children Stephen Stills
5:Love the One You're With Stephen Stills
Side-C
1.Pre-Road Downs  Graham Nash
2.Long Time Gone David Crosby
3.Southern Man Neil Young
Side-D
1.Ohio Neil Young
2.Carry On Stephen Stills
3.Find the Cost of Freedom  Stephen Stills



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