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シーンの牽引者、テラス・マーティンとその仲間たち プレイリスト 20+1

ジャズとヒップホップを結ぶ最重要人物、テラス・マーティン(Terrace Martin)。彼の来日公演をBillboardで観ることができた。R+R=NOW、Dinner Partyなどのスーパーグループの中心人物であり、Kendrick Lamarらヒップホップ界の重要作のプロデューサーでもある。
そんな多彩な顔を持つ彼のプレイリストを交友録的に作成した。


テラス・マーティン(Terrace Martin)は1978年12月にLAで生まれの44歳。
アルトサックスと鍵盤楽器もこなすマルチプレーヤーだが、Vocoderの名手でもある。
そしてプロデューサー、ソングライターとしても多くのヒット作に参加。
Dinner Party、R+R=NOW等のスーパーグループのメンバーとしても活躍し、またケンドリック・ラマースヌープ・ドッグをはじめ、数多くのヒップホップ作品のプロデュースワークでも知られる。

来日公演でのオルガンジャズ

来日公演を聴いて驚いたのだが、今まで聴いてきた彼の音楽の類とは異にするものであった。
そこで展開されたのは、意外にも彼のサックスとオルガン、ドラムによるトリオの、ジミー・スミスのような正統派のオルガンジャズだった。

左にオルガン、右にドラム、真ん中に本人のサックス

最新作の『Curly』は、今年亡くなった彼の父ジャズドラマーのCurly Martinがオルガンマニアだったことから発想され、ジミー・スミスジャック・マクダフなどオルガンプレーヤーにリスペクトが捧げられている。
この辺りは以下のMitsutaka Nagira氏の記事が詳しい。

1.Valdez Off Crenshaw/Terrace Martin(2023)

Donny HathawayValdez in The Countryを引用したカバーで、公演のラストでも演奏された。『Curly』では、Kamasi Washington(カマシ・ワシントン)に元Snarky PuppyCory Henry& Robert Sput Searight(drums)という豪華ゲストで録音されている。当代随一のオルガンプレーヤーのCory Henryのプレイが聴き物だ。

2.Valdez in The Country/Donny Hathaway(1973)

原曲はDonny Hathawayのアルバム『Extension of a Man』(1973年)に収録されていた。この曲はジャズとソウルの要素を融合させた楽曲で、演奏には本人がkeyboardで、コーネル・デュプリーウィリー・ウィークスなどの達人が参加。マーティンは幼少期にはR&Bに慣れ親しみ、Donny Hathaway以外にもMarvin GayeLuther Vandross或いはEW&Fに影響を受けていた。

R+R=NOW

3.Resting Warrior/R+R=NOW(2018)

また同時期には、R+R=NOWのバンドメイトでもあるChristian Scott (クリスチャン・スコット)も偶然に来日し、Blue Noteで公演を行っていた。
スコットはニューオーリンズ生まれのトランペット奏者、ブラックインディアンの家系であり、叔父にはジャズアルトサックス奏者のドナルド・ハリソンがいる。
David CrosbyGuinnevereのカバーでグラミーのBest Improvised Jazz Soloにもノミネートされた。

R+R=NOWは2018年6月に『Collagically Speaking』でデビューしたジャズ界のスーパーグループ。

R+R=NOW『Collagically Speaking』

メンバーはテラス・マーティンとクリスチャン・スコットの2人以外に、リーダー格のRobert GlasperDerrick Hodge(bass)、Justin Tyson(drums) 、Taylor McFerrin(シンセサイザー)の6人で結成された。
2018年の東京JAZZで自分もそのステージを観たが、既に大御所格のグラスパーは引いた立ち位置で、まとめ役がプロデューサー役のマーティンで、ソロではこのメンツでは異質のスコットのトランペットが目立っていた。

Robert Glasperは「俺とテラス・マーティンの付き合いはかなり昔からで、俺たちが15歳の時に、コロラド州のデンバーで開催していたジャズ・キャンプで初めて出会ってから、ずっと友達なんだ」と語っているが、グラスパーが拠点をNYからLAに移し、さらに2人のコラボレーションは増していく。

ライブではアルトサックスのテラス・マーティンとトランペットのクリスチャン・スコットの2Hornが生かされ、見事なコンビネーションが生まれた。

4.Like It Like That/Terrace Martin feat. Chief Adujah(2023)

今年リリースされたマーティンのEP「Nova」において、部族名のChief Adujah(チーフ・アジュア)と改名したクリスチャン・スコットと再びコラボレーションした。
Drumsは今回の来日でも帯同したTrevor Lawrence Jr. 、BassはBen Williams

5.How Much A Dollar Cost (Live) / R+R=NOW(2021)

R+R=NOWのライブアルバムでは、ヒップホップ界の巨人Kendrick LamarHow Much A Dollar Costをカバーしている。
本曲は2015年リリースの「To Pimp a Butterfly」 に収録されていた曲だが、このアルバムのプロデュースによりテラス・マーティンの名前は一躍知れ渡る。How Much A Dollar Costは作曲家としてもマーティンが名を連ねた。
R+R=NOW版ではのっけから、マーティンのサックスとスコットのトランペットという2台の管楽器が競演する迫力の展開。

To Pimp a Butterfly

6.How Much A Dollar Cost/Kendrick Lamar(2015)

To Pimp a Butterfly』は2015年3月に発売され、全米1位となりグラミー賞も5部門も獲得したKendrick Lamarの代表作。
本作はジャズの影響を色濃く受けており、制作する上ではLAのジャズシーンの顔役でもある、マーティンが大きく貢献している。
本作にはマーティンによってジャズ界から招集されたThundercat、彼の兄Ronald Bruner Jr.Kamasi WashingtonRobert Sput Searight、そしてジャズとヒップホップ融合の先駆者であるRobert Glasperも参加、マーティン自身もアルトサックスやKeyboardsで演奏でも貢献している。
Robert Glasperがヒップホップとジャズの融合を図る過程は、以下の記事で記載した。

How Much A Dollar Costはマーティン自身も作曲に関わり、Keyboards, Alto Saxophoneで参加。客演にJames FauntleroyRonald Isleyが参加。

マーティンのライブでも何度も演奏される定番曲になっている。

7.These Walls/ Kendrick Lamar ft. Anna Wise, Bilal, Thundercat(2015)

マーティンがプロデュースも担当した本曲には、Thundercatがベースとボーカルで、Robert GlasperがKeyboardsで参加し、マーティン自身もKeyboards, Alto Saxで参加。BilalAnna Wiseもゲスト参加している。

また、サックスとストリングスアレンジで本作に参加したKamasi WashingtonThundercat、マーティンと言うキーマンが語り合う、映像も面白い。本作をきっかけにジャズとヒップホップの融合は進み、また若い世代に新世代ジャズの人気も広まるのだ。
マーティンは次作の「DAMN.」のリアーナとのコラボ曲である「LOYALTY.」にも声兼している。

Dinner Party

8.Freeze Tag/Dinner Party(2020)

2019年Terrace Martinをメインに、満を持して結成されたのがDinner Partyだ。マーティン以外に Kamasi WashingtonRobert Glasper9th Wonderと言うメンバー。カマシとグラスパーという新世代ジャズの巨人がマーティンを触媒に、遂にグループを結成したのだ。
2019年R+R=NOWのツアー中にグラスパーとマーティンが、「新しいグループのアイデア」を思いついた。ジャズとヒップホップの隔たりを無くすことを目指していたグラスパーの構想が実現したのだ。
本曲はEP「Dinner Party」に収録、シカゴを拠点に活動するボーカリストPhoelix(フェリックス)がフィーチャーされた。

9.Insane/Dinner Party(2023)

本年リリースのDinner Partyの2作目『ENIGMATIC SOCIETY』に収録。シンガーソングライターAnt Clemons(アント・クレモンズ)をヴォーカルゲストに迎え、Mtumeの1983年の名曲Juicy Fruitというネタをサンプリングした一曲。Sounwaveとの共作。
今年はLOVE SUPREME JAZZ FESTIVALのため来日も果たした。

プロデュース・ワーク

10.Sweeter/Leon Bridges(2020)

マーティンは2020年にR&BシンガーLeon Bridgesと、ジョージ・フロイドの5月25日の殺害に抗議するプロテスト・ソングSweeterをリリースした。
作曲と共にサックスとピアノを提供。

11.About Damn Time/Lizzo(2022)

第65回グラミー賞でレコード・オブ・ザ・イヤーを受賞したLizzoAbout Damn Timeにもプロデューサー、そしてVocoderでも参加している。

Kamasi Washington

12.Think of you/Terrace Martin  feat.Kamasi Washington & Rose Gold(2016)

マーティンは2016年ソロアルバム「Velvet Portraits」をリリースし、グラミー賞の最優秀R&Bアルバムにノミネートされる。Think of youには盟友のKamasi Washingtonが参加。Rose Goldのヴォーカルが印象的なメロウ・ジャズ。

13.Final Thoughts/Terrace Martin(2023)

本年6月リリースの『Fine Tune』ではカマシのFinal Thoughtsをカバー。
10代の頃から地元ロサンゼルスの音楽コミュニティで共に育ったカマシ・ワシントンとの絆は強い。
カマシは「俺がテラスに出会ったのは、13歳ぐらいの頃だ。みんなジョン・コルトレーンのことが好きだと思うが、俺は彼を溺愛していた。だから、テラスのまるでコルトレーンのようなアルト・サックスを聴いた時にはぶったまげた」と語る。
本作ではカマシ自身も参加し、GuitarはNir Felder、DrumsはRobert ‘Sput’ Searight 、オルガンの名手Larry Goldingsも参加。

14.Truth/KamasiWashington(2017)

カマシのTruthにはマーティンがアルトサックスで客演。
2人は2006年から活動した若手のジャズユニットWest Coast Get Downに共に所属し、そこからは、後にThundercatとなるStephen  Bruner、その兄のRonald Bruner Jr. Tony Austin。 Miles Mosley 、Cameron Graves 、 Brandon Coleman、 Ryan Porterを輩出し、LAジャズコミュニティとしての結束は今に続く。

Robert Glasper

グラスパーとマーティンの交友も長い。「あれは15歳の時、Vailのジャズ・キャンプのリビング・ルームみたいなとこで、曲はベニー・ゴルソンの『Stablemates』だった」とグラスパーと初めて演奏したときのことを、マーティンが語っている。

15.Persevere/Robert Glasper Experiment · Snoop Dogg · Lupe Fiasco · Luke James(2013)

マーティンは2013年のグラスパーの「Black Radio II」に参加している。PersevereにはCo- Producer、Vocalsとしてクレジットされ、Snoop Doggの参加も彼の伝と思われる。
16歳でパフ・ダディに、19歳でSnoop Doggに起用され、プロとしてのキャリアを開始したマーティン。Snoop Doggには何度も起用され、多くのプロデュースを手がける。

16.Out of My Hands/Robert Glasper feat Jennifer Hudson(2022)

2022年の「BLACK RADIO III」は第65回グラミー賞では、最優秀R&Bアルバム賞を受賞したが、ここにも数曲に貢献した。
本曲ではProducerとして参画し Synthesizer演奏も披露した。ボーカルはJennifer HudsonDerrick Hodgeがベース、Justin TysonがドラムとR+R=NOWのメンバー4人が顔を揃えた。

ソロワーク

17. Griots of the Crenshaw District/Terrace Martin(2021)

2021年リリースのソロアルバム「DRONES」は、グラミー賞プログレッシブR&Bアルバム部門にもノミネートされた。
本人以外にテナーでKamasi Washington、Fender RhodesでRobert Glasper、トランペットにJosef Leimberg、GuitarにMarlon M. Williamsが参加。

18.For Free/Kendrick Lamar(2015)

To Pimp a Butterfly』に収録されたFor FreeTerrace Martinプロデュース&作曲のInterlude 映像にもあるが、いきなりマーティンのアルトサックスで幕を開ける。Robert Sput Searight (drums)、Robert Glasper (piano)、Brandon Owens (bass)、Craig Brockman(organ)、Marlon Williams (guitar)とジャズ界のトップミュージシャンがバックを務める。ボーカルはAnna WiseDarlene Tibbs。映像にはカマシも登場する。

19.For Free/Terrace Martin's Gray Area(2020)

度々ライブでも取り上げられるFor Freeだが、2020年にはGray Areaというユニットで、完全なジャズとしてカバー。
Terrace Martin's Gray Area Live at the JammJam」という配信アルバムに収録された。
彼のジャズレーベル「Sound Of Crenshow Jazz」によるプロジェクト。
Terrace Martin
- saxophone、Ronald Bruner Jr. - drums 、Paul Cornish - keys 、Joshua Crumbly - upright bass

20.I’m For Real / Terrace Martin feat. Snoop Dogg & Lalah Hathaway(2013)

2013年にマーティンのデビュー・アルバム『3ChordFold』が、リリースされてから10年が経過した。
アーバン・ソウルの名曲I’m For Realを師匠格のSnoop Dogg、そして尊敬するDonny Hathawayの娘、Lalah Hathawayのサポートを得てカバーした。
10年間でヒップホップとジャズに股をかけて、トップミュージシャンとなったマーティン。
ルーツを大事にしながら、常に新しさを追求する彼の次のステップを注目したい。

21.Curly Martin / Terrace Martin(2016)

最後は2016年のソロアルバム「Velvet Portraits」より。
Curly MartinとはTerrace Martinの父親の名前。
メンバーはTerrace MartinRobert GlasperThundercatRonald Bruner, Jr.と共に、ドラマーでもあるCurly Martinも参加している。
Curlyは今年の3月にこの世を去るが、彼を想い制作されたのが1で紹介した「Curly」である。

添付した映像「CURLY MARTIN AND SON TERRACE MARTIN」には、ドラムのCURLYTERRACE MARTIN(ALTO SAX)親子以外に、STEVEN BRUNER (Thundercat)、BRANDON COLMANKAMASI WASHINGTONRYAN PORTER の和気藹々とした姿が見れる。

ジャズミュージシャン、ヒップホップのプロデューサー、さらにはDinner Partyというグループの一員という複数の顔を持つテラス・マーティン
ミュージシャン、プロデューサーを経てBlue Noteの社長となったDon Wasと重なる部分も多い。
最近では「Sounds Of Crenshaw」という地元名を冠したレーベルも立ち上げている。
「若いアーティストたちの成功への入り口を築き上げること」と語る彼が仕掛ける未来が楽しみだ。

松尾潔氏が彼を評して「職人にして芸術家。商品にして作品。タイムリーにしてタイムレス。」と語るが、まさに最新でありつつも、定番でもある稀有な存在でもある。



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