#3 日記 「ぬくもりドーナツ」

平日の夜。仕事を終えた姉と雑談をしていた時のことだった。ちなみに姉は次の日仕事が休みだったため、明日の予定について希望を膨らませていた。

姉「あ〜明日街にくり出そうかなぁ。あたしさ、友達にクリスピークリームドーナツってとこのオリジナルグレーズド?あれ、すっごい美味しいよって教えてもらったんだよね〜。どうしよう食べに行こうかな。あんたも来る?」

行きたい気持ちはやまやまだった。でも、その時の私は、あまり食費にお金をかけられず、かつあまり交通費も出したくない時期であったため、少々行くのを渋っていた。

私「うーん…行ってもいいけどさ〜…食べるとしてもそのオリジナルグレーズドってやつ一個だよ。1番安いし、それが美味しいんでしょ?ほんと、他で外食はもう今月しないからね!あたしは!」

渋る気持ちとは裏腹に、しっかりドーナツ一個食べようとしている自分が少し可愛く思えた。

姉「じゃあ、明日くり出そう!」

爛々とする姉に対して、ちょっと浮かない気持ちの私。でも、その美味しいと噂のドーナツに確実に心惹かれていた。

-後日-

姉「よし!何にする?まずはオリジナルだよね〜。あたしは2つ食べるから2個目ちょっと選ぶわ!」

ショーケースにずらっと様々な種類のドーナツが並んでいた。どれも美味しそうで、見ているだけで満足した。

私は問答無用でオリジナルなんちゃらみたいなのを注文する予定だったので、姉が2個目を決めるのをずっと待っていた。

この時間が生き地獄だった。時間があればあるほど、多種多様なドーナツと目が合う。目が合えば最後、あやうく2個目を注文しそうになっていた。

私(いかん、いかん。こういう小さな積み重ねが、金欠に繋がる。落ち着け、落ち着くんだ。)

姉「あたし、この黒糖シナモンのやつにする!したら、頼むね!」

もう姉が何を頼もうと羨ましいなんて気持ちにはならなかった。食べたい気持ちが超越して、無の境地になっていた。

姉がドーナツを順調に注文していると、やっぱり飲み物も飲むと言い始めた。

これは少しイレギュラーな展開であったが、鉄の意志で私は大丈夫。とスマートに断った。

店員さん「お客様、こちらのドーナツ温めることも可能ですが、どうされますか?」

これについては、姉のお友達の情報で温めた方が良いと聞いていたので温めてもらうことにした。

トレイを受け取り、2人で席についた。
このドーナツの素性はよく知らなかったが、深く考えなくたってこれが美味しいことは明らかだった。

姉「は〜。じゃあ食べようか!」

姉と同時くらいにドーナツを手にした瞬間に、素手に素朴な温もりを感じた。

そしてその次に赤ちゃんなような柔らかさを感じた。

姉・私「おぉ…。これすごい柔らかいね!温めてやっぱよかったんだ!」

この時はまだ食べていないが、もう食べた気になっていた。昨日の渋る気持ちなんて、飲み物を頼まなかったことだって、2個目を頼めなかったことだってどうでも良くなっていた。

いざ、一口。

お、美味しい…。もう十分有名なドーナツ屋さんのドーナツだし、多くの人が知ってる味だと思うが、まぁ何と美味しいこと。

そして、温めの偉大さ。常温の状態で食べたことがないから分からないが、温めた方が格段に美味しい気がする。

ただただ幸せだった。昨日の渋っていた自分を引っ叩きたいくらいだった。

そして、お姉様、そのお友達、こんな美味しいドーナツを教えて連れてきてくれてありがとう。と最大の感謝の意を世界に放出した。

宴が終わって、姉と2人で幸せを噛み締めた。

そして、将来財力を駆使して全種類頼もうと強く誓った。





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