見出し画像

ハイズマン賞に見るこれからの学生アスリート”転校”の可能性

「人間が変わる方法は3つしかない。」
1番目は時間配分を変える。
2番目は住む場所を変える。
3番目はつきあう人を変える。

経営コンサルタント、大前研一氏の言葉は一度は聞いたことがある方が多いのではないでしょうか?行き詰まった時に環境を変えるというのは誰もが持っている選択肢であります。今回はその年に最も活躍した選手に贈られる全米カレッジフットボール界最高峰の個人賞である(年間最優秀プレイヤー)「ハイズマントロフィー」から学生スポーツにおける”転校”(編入)の可能性について考えていきたいと思います。

2019年ハイズマン賞を受賞したのは?

ルイジアナ州立大学(以下、LSU)のジョー・バロウ選手です。     
今期全勝を挙げているLSUを引っ張るエースQBのジョー・バロウはパスヤード4,715ヤード、タッチダウン48本とカンファレンス、LSUの歴代記録を塗り替えるハイパフォーマンスでチームをプレイオフに導きました。
その活躍が認められ今年のハイズマン賞を獲得。

ジョー・バロウの歩み

オハイオ州出身。NFL選手を夢見てオハイオ州の旗艦学校でもあるオハイオ州立大学(以下、OSU)に4つ星の評価を受け2015年に入学。1年目はレッドシャツとして公式戦出場なし。(アメリカのカレッジでは基本的に4年間のプレー資格が認められているが入学早々、チャンスが巡ってこない1年目の選手はそのプレー資格を無駄にしないよう敢えてプレー資格を与えず2年目などに備えることができる制度をレッドシャツ制度という)2016,17年は控え選手として活躍した。2018年はシーズン前にヘッドコーチが他のQB選手を先発に起用すると宣言したためジョー・バロウはついにOSUからの”転校”を決意した。
試合数が多い競技(サッカーやバスケなど)なら1年の間に先発を奪うことは可能ですが、年間平均11〜13試合しかないフットボールでは先発の座を奪うのは容易な事ではありません。ましてはNFLを目指すような選手にとっては1試合1試合がとても大事なのです。

LSUに転校後の1年目は全13試合に出場。2,894ヤード、16TDを記録
今年の記録に比べたら物足りない印象ですが、徐々に試合勘を掴み今シーズンは誰もが予想しなかった活躍でハイズマン賞を受賞。
NFLドラフトの評価は右肩がりで高順位で指名されることが予想される。
(※2020年NFLドラフトは4月23日〜25日に開催予定。)

”消えた天才”にならなかったジョー・バロウ

夏頃、お茶の間を騒がせた例の番組、、、ではないですが環境を変えずOSUからLSUに転校するという決断をしなければ間違いなくニューヨークで行われたハイズマン受賞式にジョー・バロウの姿はなかったでしょう。

彼がLSUに転校した2年目の今シーズンは前セインツ( NFL)のコーチングスタッフでもある、ジョー・ブレイディがQBコーチとして就任、指導を行いジョー・バロウは才能を開花させたとも言われています。
まさに「場所」、「人」が変わり自分自身も大きな変貌を遂げることができました。
プロの選手も移籍したことで急激に活躍する選手がよくいますよね。

”転校生”で溢れる授賞式

通常、ハイズマン受賞式には最終候補にノミネートされた3~4名のプレイヤーが参加します。今年はLSUのジョー・バロウ、OSUからはジャスティン、チェース・ヤングの2選手、オクラホマ大学のハーツの4名が参加。

(左からジョー・バロウ、ジャスティン、ハーツ、チェース・ヤング)

面白いことに左の3選手は皆”転校生”(編入)なのです。
ジャスティンは2018年に全米リクルートランキング1位の看板を背負って
ジョージア大学に入学するも先発の座を掴めないと判断しOSUに転校。
転校1年目でチームにフィットしハイズマン最終候補に残るほどの活躍。
**
ハーツ**はアラバマ大学に入学し1年目から先発の座を掴みチームを全米準優勝に導く活躍。2年目には再度チームを全米選手権決勝に導くが前半で交代を命じられる。代わって入った1年生のタゴヴァイロア選手がMVPに輝く活躍をし優勝。3年目のシーズンは先発の座を完全に失い、プレー資格が残り1年というタイミングでオクラホマ大学に転校。苦手だったパスプレーに磨きをかけ、チームをプレイオフに導き見事にカンバックを果たした。

1人1人にそれぞれのドラマがあるのでこれ以上詳しくは書きませんが置かれた場所で咲かなかった選手が”転校”をして環境を変え、接する人が変わったことで大きく成長したのです。ハイズマン賞は決して人情深い賞ではありません。その年に本当に活躍した選手が純粋な投票によって選ばれる大変名誉ある賞です。その最終候補4名の内3名が大学で転校した経験があるというのは決して偶然と言えないと思うのです。

2017、2018 年受賞者も”転校生”

2018年受賞者 カイラー・マリー(テキサス工科大学→オクラホマ大学)
昨年度ハイズマン賞を受賞したカイラー・マリー選手(現NFL カーディナルス)もテキサス工科大学に入学したがチーム内に風紀の問題があり自身の今後のキャリアを考えオクラホマ大学に転校しています。

(2018年ハイズマン賞を受賞したカイラー・マレー)

2017年受賞者 ベイカー・メイフィールド
(テキサスクリスチャン大学→テキサス工科大学→オクラホマ大学)

彼はもともとテキサスクリスチャン大学に進学しフットボールをプレーする予定でしたが、スカラシップ(奨学金)を授与されないことが判明しテキサス工科大学に進学。プレーの機会が全く与えられず、オクラホマ大学に転校し大活躍。

(2017年ハイズマン賞を受賞したベイカー・メイフィールド)

テキサス工科大学→オクラホマ大学。と同じ道を進んでいるのには運命的なものを感じますが両選手ともハイズマン賞を受賞した翌年のNFLドラフトでは全体1位指名を受け、現在NFLで先発QBとして活躍しています。

環境を変える選択肢を持つということ

日本についてあまり言及したくありませんが個人的な経験として「あいつは落ちぶれた」、「あいつは終わった」など中学、高校、大学進学を機に”消えていく”選手がたくさんいます。会社選びと同じで実際に中に入らないと分からないことがたくさんあるのも事実です。親元を離れる、嫌な先輩がいる、同級生や指導者とウマが合わない、肉体的、精神的に未熟な学生アスリートは細かい要素でプレーの質が大きく変わります。そんな些細なことで素晴らしい才能を持った卵たちが潰されるのはもったいないと強く思わずにはいられません。転校(編入)という選択肢が増えることでより多くの選手に機会が生まれ、より多様な選択肢を持てるスポーツ界になってほしいなと思います。

言うまでもなく、学区制度や金銭、学生の精神面を考慮すると簡単な話ではありません。学生は学業が優先だからスポーツのために転校するなんて言語道断。そのような意見もあるでしょう。
駆け足で書きましたがアメリカのように転校することは逃げではなくチャンスを掴むための過程として受け入れられるマインドセットを持つ人が少しでも増えるよう、これからもアメリカ大学スポーツについて発信していきます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?