見出し画像

3人の鼎談本『世につまらない本はない』


              『世につまらない本はない』
             養老孟司+池田清彦+吉岡忍著

吉岡さんと養老さんと池田さんの鼎談本が出ているのですが、それによると、吉岡さんは高校、大学時代に金子光晴が大好きで(『落下傘』が好きだったと)、わざわざ詩集だけ持って、東南アジアを貧乏旅行したと言っています。

男の人で金子光晴好きの人は多いのかもしれません。

佐々木幹郎さんの講演の時の質疑応答で、「金子光晴さんの詩についてどう思うか」と聞いていた男子学生がいたから。何年も前!の話だけど、よく覚えている。

私は読んでいないので、吉岡さん推薦の「落下傘」読んでみようかな。

池田さん(詩人になりたかった生物学者)は、戦後最大の詩人は石原吉郎だと言っています。「サンチョパンサの帰郷」の冒頭の「位置」という詩は、今でも全部諳んじて言えるよ、と皆の前で全文をすらすらと暗唱して拍手喝采をもらっています。

養老さんは、「俳句、短歌は、コンピューターに作らせたらいいと思っている」と発言して、「怒る人がいっぱいいるよ」と吉岡さんが言う。そんな風に考えるのは、戦時下の短歌や俳句を沢山読んだ後遺症だと言いなおしている。

吉岡さんはアレン・ギンズバーグの詩を英語で暗記。養老さんは中学時代、シェークスピアを英語で暗記したそうです。
アレン・ギンズバーグは、J・ケルアックの『オン・ザ・ロード』に狂ったシュールレアリストのカーロ・マルクスの名前で登場している。

第一部は「養老流」本の読み方になっている。
その第4章に、養老さんがずーっとあいさつができなかったことが、イギリスの精神医学者R・D・レインの『引き裂かれた自己』を読むことをきっかけにして、原因を探っていく過程が書かれている。そして、突然氷解した「父親の死」という個所では、思わず、感動で、泣いてしまう。

何回読んでも、泣けます。
( 童話の『ごんぎつね』もごんのことを思うと泣けますが。)

第2部は、3人のテーマごとのお薦め本が出ていて、新しい読書体験ができそうです。


わたしの場合は、佐々木幹郎さんの『死者の鞭』の最初の2ページくらいなら、暗唱できると思います。

              『死者の鞭』佐々木幹郎著
             三島典東さんの装幀が面白い

あとは、谷川さんの『定義』から「灰についての私見」を、よく暗記していました。この『定義』のゴツゴツ感がたまりません。 

灰についての私見

どんなに白い白も、ほんとうの白であったためしはない。一点の翳もない
白の中に、目に見えぬ微小な黒がかくれていて、それは常に白の構造その
ものである。白は黒を敵視せぬどころか、むしろ白は白ゆえに黒を生み、
黒をはぐくむと理解される。存在のその瞬間から白はすでに黒へと生き始
めているのだ。
だが黒への長い過程に、どれだけの灰の諧調を。。。。。。

『定義』(谷川俊太郎著)から「灰についての私見」一部抜粋

この「灰についての私見」は最後まで読むと、循環する詩になっています。そこがまた面白くて素敵です。

谷川俊太郎さんは、同時期に、このゴツゴツした感じの言葉たちが集合する『定義』とは対照的な『夜中にぼくは台所できみに話しかけたかった』という詩集を出版している。詩集の赤い帯には〈さりげない日常をくるむ透明なことばの棘〉という文字があって、書店の新刊コーナーに2冊同時に並んでいたのを思い出すことが出来る。2冊持っていれば、ゴツゴツ感となめらか感が同時に味わうことができます。

              『定義』と『夜中に台所できみに話しかけたかった』谷川俊太郎著


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?