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小説「エクステリアの園」⑤

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早川勤は無事病院を退院した後、一層庭作りに精を出した。

構想を練り、基本計画を立て、プロの手を借りて設計を行った。

中でも、簡易型の滝を作ることにはこだわった。きちんと水道を引き、水が流れていくように排水工事も行った。

どんどんと華やかになっていく庭を見て、早川秋は感嘆の声を漏らした。

「すごいわ。本当にすごい。庭の緑がこんなに映え映えしているなんて」

庭が見える和室には、庭の景色を切り取るための枠縁の役割をする壁が取り付けられていた。内側は黒く、外の緑との対比が鮮やかに映った。

「そうだね。生けどりをしているから、余計かもな」

「いけどり?」

「この壁のことだよ」

早川勤は連日の図書館通いで、造園について詳しくなっていた。

「ちょっと暑くなってきたし、休憩がてら何か買ってくるよ」

早川勤はそう言い、近所のスーパーへ出かけようとした。

しかし、家の玄関を開けたところで、誰かが庭先に立っているのに気づいた。

その女子高生は早川家の柵の向こうから、庭を眺めていた。いや、よく見るとただ眺めているのではない。頬に涙を流し、そこに立ち尽くしていたのだ。

早川勤はびっくりして、一瞬戸惑ったが、声をかけることにした。

「あの、お嬢ちゃん。どうしたんだい?大丈夫か?」

その女子高生は振り向くと、あっと声を出した。

「イケてるおじさん…」


松岡千鈴は、黒髪に眼鏡をかけた清楚そうな女子高生だった。学校の帰りなのか、服装はセーラー服であった。

「あの…すみません、いきなりお邪魔してしまって」

和室にきっちりと正座をしながら、松岡千鈴が遠慮がちに言った。良いのよ、と早川秋が元気よく応える。

「この庭を見ていたら、なんだか昔のことを思い出してしまって…。1年前、私が高校1年生だった頃の話なんですけど」

「それで、あそこに立ち尽くして泣いていたのかい?」

早川勤が、不思議だという様子で眉を上げる。

「えぇ…。まぁ、話はそんなに単純でも無いのですけれど…」

「良かったらお話を聞かせてくれないかねぇ」

早川秋が柔和な笑みを向ける。彼女はどこか朗らかで、柔らかい雰囲気のある女性だった。

「分かりました」

彼女の話だと、高校1年生のときに付き合っていた彼氏とひどい別れ方をしたのだそう。庭を見ているときにそのことを思い出し、それとは別の"なにか"に感化されて、泣いてしまったのだという。

「そうか…」

早川勤は一言だけ相槌を打つと、トイレに行くと言って、行ってしまった。


6話目へ続く→

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