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ビジョンからはじめる「ビジネスのデザイン」

近年、多くの企業が新規事業の立案や既存事業の変革を検討しています。BIOTOPEにもビジネスデザインのコンサルティングの相談を多数寄せていただいています。今回はBIOTOPEの「ビジネスデザイン」とは?と題して、そのプロセスや実際に手がけた事例を紹介します。

金安塁生 / Business Designer (photograph by Kosuke Machida)

BIOTOPEで、業界横断型で戦略立案と事業開発のディレクションをしている金安塁生です。エスノグラフィリサーチと定量リサーチを組み合わせたインサイト導出やトレンドの予測を得意とし、新しい都市・街のデザインや、WEB3.0領域でNFT関連サービスやトークンエコノミーなどブロックチェーンを活用した事業開発を担当しています。

BIOTOPEのビジネスデザイン・コンサルティングの特徴

一般的な事業開発コンサルティングでは、クライアントの事業アイデアをもとに基本戦略を立案し、ビジネスモデルの作成、ソリューションの設計、事業計画立案を支援する方法をとることが多いです。しかし、BIOTOPEのコンサルティングは少し違います。

BIOTOPEは「支援」ではなく「共創」の意識でコンサルティングを行います。そこでまずは、一般的なフローよりもだいぶ前の時点、ビジョンの根底にある想いの共有から検討を始めます。プロジェクトメンバーの方々がそれぞれどんな理由でその事業やテーマに取り組みたいと思ったのか、どんなビジョンを思い描いているのかの引き出し(ビジョンインタビューや共有ビジョン)を行うのです。

そこで見えてきた想いやビジョンに共感できるBIOTOPEメンバーがプロジェクトに参加するので、コンサルティングは外部からファシリテートするものでなく、内部からプロデュースするようなものになります。

想いの共有の次に行うのは、事業機会の探索です。BIOTOPEでは海外在住者を含むグローバルトレンドリサーチャーを抱えているため、先進的な視点を持ちながら事業の機会を探していきます。ただし、トレンドリサーチといっても、海外でヒットしているものを単純に取り入れるわけではありません。

BIOTOPEでは、課題解決手段としてではなく特定の価値観によって何か行動を起こしている世界の数%程度の人々を「トライブコミュニティ」として注目しています。デザインリサーチの手法で観察し、自分たち自身もそのコミュニティのメンバーとして行動するなどして、インサイトを深く理解して事業機会を考えます。こうしてデザインとビジネスの横断を行っています。

加えて、私たちは事業が形になるまで伴走することを重視しています。メンバー個々人の想いや価値観を起点に事業をおこすことは重要ですが、想いが強すぎる結果、「会社の言語」になっていないケースがよくあります。そのため、会社全体の方向性と、提案する事業や自分達が目指すビジョンとが接続するように「翻訳」する必要があります。

「事業が形になるまで伴走する」というのは、経営陣を説得することだけではありません。想いをもとにビジョンを作り、それを社会に実装する際に重要なのはビジネスモデルです。

BIOTOPEのビジネスデザインピラミッド

コスト構造やターゲットごとの提供価値、収益モデル、マーケットフィットするかなどを検証と、実行のための社内体制や巻き込むパートナー企業、来期以降のリソース計画が必要になります。これは、ほかのコンサルティング企業でも実施することですが、それだけでは実現可能性は低いままです。

抽象的な思考段階では収益化が見込めそうだったことが具体化するに従って状況が一変したり、模倣困難性や競争優位性が低いことが判明したりすることはよくあります。その際には、改めてビジョンに立ち戻り、再びビジネスモデルを考え直すという、抽象(ビジョン)と具体(戦略・ビジネスモデル)の往復が必要です。

これをプロジェクト期間内に何往復もして精度を高めるデザイン思考的アプローチが、BIOTOPEのスタイルです。これは実際に私たちが、核融合の実用化を目指すスタートアップ「Helical Fusion」や、大手企業の戦略支援をいくつも重ねて辿り着いた方法です。

さらに、この抽象と具体の往復はチームの熱量を上げ、社内風土にいい影響を与えます。新規事業の実現のためには戦略の精度が9割以上を占めますが、残り1割を左右するのは現場の「強い意志」だと思います。この事業は生活者に利用していただけないかもしれない、役員と見ている視点が違うかもしれない、ビジョンと事業が合っていないかもしれない……。そんな迷いが生じると、「ならばいっそ、世の中で儲かっていることを後発でもいいからやろう」などと気弱な判断に傾いてしまうものです。そうならないように、チームの熱量を上げ、かつ経営陣の理解を得やすいような創造的な風土をつくることも、BIOTOPEの共創アプローチの特徴です。

ビジョンを起点にしたビジネスデザインの事例

ここで具体例を紹介しましょう。東急株式会社とのプロジェクトです。

このプロジェクトは、東急FutureDesignLabメンバーと若手社員の有志で組成されていました。彼らは会社の既存事業に対して危機感を持ち、自分たちのビジョンから新規事業の検討を進めていました。しかし、会社の経営層になかなか理解されず、多くを妥協して既存事業に収斂しなければならないかもしれない状況のなかで、ご相談いただきました。

そこで私たちがやったことは、その事業領域に参入する必然性の整理と、収益モデル構築です。

東急はこれまで、電車賃をいただくだけでなく、線路を引いて主要駅に人を集め、その駅に大規模な商業施設を作ってテナントを集めるという収益モデルをとってきました。ところが今回のメンバーたちは、既存のモデルにとらわれることなく、沿線住人や利用者すべてをステークホルダーと考え、その人たちの有機的な関係性を会社のアセットにして壮大な経済圏をつくることをビジネスにするというビジョンを描いていました。

金銭的・時間的・心理的障壁を10分の1にすることで、個人の思いを起点に”なりわい”を起こせるような、まちづくり×分散型の地域経済をつくることを目指していたのです。

しかし、既存の収益モデルとの連動がありませんでした。経営陣は、既存事業の収益を削ってまで新規事業を行う意義を感じにくいでしょう。そこで、私たちは東急の歴史を紐解き、既存事業の課題を分析した上で、このプロジェクトとどうシナジーを生み出せるかを考えました。

最終的に、東急の前身がまちづくりの企業であることに立脚し、少子化や地方移住による人口減少が見込まれる都市において、大規模経済圏に取り込まれなかった多くの個人間に交流の総量を増やしながら収益をあげる、エコシステム型ビジネスへの移行を目指すことにしました。既存事業を損なわず、会社のこれまでの事業の延長線にあるものとして位置付けることで、経営陣に理解してもらいやすくなったのです。

東急株式会社で取り組まれた新規事業の現地実証実験の様子

事業化まで数多くの壁が存在したのですが、プロジェクトメンバーはその壁を越えるだけの熱量を持っていました。提案した新規事業構想は「nexus構想」というプロジェクトとして、現在も継続されています。「BIOTOPEとの共創のプロセスで、ビジョンを実現する方法を自分たち自身が模索した経験があるから、いま、私たちの構想はカタチになっています」と言っていただけました。

BIOTOPEメンバーの特徴を活かしたコンサルティング

先ほど、コンサルティングの初期にプロジェクトメンバーそれぞれの想いやビジョンをお聞きし、それに共感するBIOTOPEメンバーがプロジェクトに参加するお話をしました。BIOTOPEでは、メンバーの専門性も大事にしています。これは、BIOTOPEのバリューのひとつ、「見えないものを観る」につながるものです。

たとえば私は、Web3.0やブロックチェーン、NFT、トークンエコノミーといった領域に興味を持ち、7年前からプロダクトを開発したり、勉強会を実施したり、専門家とのつながりを増やしたりしてきました。分散型社会のビジョンを実現するプロジェクトでは、そうした知見や経験を活かして未来を観ようとしたことが、プロジェクトを牽引できた要因になったと思います。

また、生態学や情報社会学の先生、Web3.0領域の起業家など、外部パートナーを適切にお呼びし、共創プロジェクトを編成しています。

職能においても、BIOTOPEチームはユニークです。たとえば、Web3.0領域の新規事業づくりのプロジェクトでは、ビジネスデザインチーム、エコシステムデザインチーム、テクノロジカルデザインチームの3つの部隊に分かれて共創しましたが、すべてのチームにグラフィックデザイナーが参加しました。

ビジョンづくりのフェーズでは、目指すビジョンと現在地のつながりを1枚の絵(ビジョンマップ)にします。イメージしているUI画面を、ミーティングの場で絵(ラピッドプロトタイプ)にすることもあります。これによって、頭の中にあるふわふわしたイメージが具体化され、共有されていくのです。

また、エコシステムデザインのフェーズでは、自分たちの考えた事業や物語を社内にうまく伝えるためにステートメントストーリーを作ります。対外的なプロモーションのためにストーリーをつくることはよくありますが、社内に伝える、いわばインナーブランディングを目的につくるのは珍しいかもしれません。コピーライターや編集者のメンバーとともに、伝わりやすいストーリーを編み上げていきます。

WHYとWHATをきちんと考えた上でのHOWを考える

他にも、Z世代のニーズに応えるフィンテック領域の新規事業づくりや、新しいビジネスモデルを成立させる都市開発を行なったり、コンセプト提案・事業計画のロードマップづくり・UXやUIも含むサービスデザインを行なったりと様々なクライアントニーズに応えてきました。

どの案件にも共通していることは、なぜやりたいのか、どんなビジョンを実現したいのかという「WHY」と、ビジョンを達成するためになにをするのかという「WHAT」をしっかり考えることです。上司が求めるから、社会でトレンドだから、お金が取りやすいからという理由からHOWを考えるのではありません。BIOTOPEは、熱い想いから生まれるビジネスデザインをやります。結果として、ビジョンに立脚した事業構想が途中で頓挫することなく社内で共感を集め、カタチにするまで多くの人からサポートを受けることができていると思います。

BIOTOPEのミッションは「意思ある道をつくり、希望の物語を巡らせる」です。私はWeb3.0に関するNFTのマーケットプレイスやクリエイターエコノミー、ブロックチェーンゲームの領域がこれからの社会システムを根本からどう変革するかに興味を持っています。プロジェクトメンバーのビジョン、生活者や社会の潜在的なニーズ/欲求、変化するテクノロジーを往復しながら、希望の物語を実現させるようなビジネスデザインを、ご一緒できたらと思っています。

・現状の課題、開発テーマ
・みなさまが考えているビジョンの仮説(どんな未来を創りたいか)
・プロジェクトのゴール
・プロジェクト終了時に描いている理想の状態

上記をメールに記載しご連絡いただけましたら、BIOTOPEのBusinessDesignerが初回のお打ち合わせを実施いたします。

下記より、ぜひお気軽にお問い合わせください。


interviewed by Kazumasa Yamada
text by Sayaka Felix
illustration(cover) by Minori Hayashi
special thanks: Tokyu Future Design Lab


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