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【シカゴでバードウォッチング!】『よだかの星』

私は夜鷹と聞くと、宮沢賢治の『よだかの星』を考えます。

よだかは、実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。
足は、まるでよぼよぼで、一間(いっけん)とも歩けません。

宮沢賢治 『よだかの星

あのくちのおおきいこと

宮沢賢治 『よだかの星

夜だかは、ほんとうは鷹の兄弟でも親類でもありませんでした。かえって、よだかは、あの美しいかわせみや、鳥の中の宝石のような蜂すずめの兄さんでした。

宮沢賢治 『よだかの星

以上が、私の夜鷹についての知識でした。もちろん日本で見たことは一度もありません。

ところが、ある日ミシガン州の川のほとりに立って飛び交う燕を見ていた時に、あるバーダーが "Nighthawk!"と叫んだんです。nighthawkを頭の中で訳したら、なんと「夜鷹!!」どこにいるのか聞いたら、対岸の樹の太い枝に何やらもっこりとしているところがあり、それが夜鷹だと言われました。双眼鏡で見てみたら、確かに鳥、それも枝に同化しているような地味な鳥、そして枝に直接座っているようで脚が全然見えませんでした。その時に見えた姿が下の写真です。

枝に座っているNighthawk      ©Dan Lory

あ〜〜、これが『よだかの星』の夜鷹なんだ〜!

実際に夜鷹をこの目で見ることができるなんて、夢にも考えていませんでした!

この鳥の正式名は、Common Nighthawk (アメリカヨタカ)です。ちなみに、日本の夜鷹は英語ではJungle Nightjarとなっています。アメリカにいるNightjarには五種類あり、その中の一つがNighthawkだそうです。鳥の分類は本当にわかりにくいですね。

All About BirdsのPhoto Galleryを見ると、とても可愛いつぶらな瞳、小さい嘴、長い尾でびっくりしました。宮沢賢治の描写とずいぶん違う!それ以上に驚いたのは、Photo Galleryの一番最初に出ていたのが飛んでいる写真だったことです。

その後、実際にNighthawkが空中を飛んでいる姿を自分の目で目撃することができました。枝にうずくまっていたあの地味で貧相な鳥とは思えないほど堂々としていて、別人、いえ、別鳥のように立派な姿で長い翼を広げて飛んでいたんです!長い翼にはかなり目立つ白い線のような部分がありました。ちょっと鷹のように見えてかっこよかった〜〜!

飛んでいるCommon Nighthawk      ©Dan Lory

宮沢賢治はちゃんとこう書いています。

たかという名のついたことは不思議なようですが、これは、一つはよだかのはねが無暗(むやみ)に強くて、風を切って翔けるときなどは、まるで鷹のように見えたことと、も一つはなきごえがするどくて、やはりどこか鷹に似ていた為です。

宮沢賢治『よだかの星

宮沢賢治は、コンピューターで検索などができない時代に、宇宙、自然、動植物について豊かな知識を持っていましたが、どうやって夜鷹について学んだんでしょう。そんなにめったに見かける鳥ではないと思うのですが・・・。それとも、花巻のあたりにはよくいる鳥なのでしょうか。

自然や宇宙に造詣が深い宮沢賢治に思いを馳せている時、シカゴの自宅で夏の夕方ごろNighthawkの鳴き声を聞くことができ、かっこよく飛ぶ姿を見ることができました〜。大都会にもNighthawkはいるんです!

でも、気がつかない人がほとんどだろうと思います。夜鷹が自分の上空を飛んでいるなんて考えたこともないし、自分のやるべきことで忙しくて空を見上げる暇もないのが私たちですよね。だからこそ、声を大にして言いたいです。Nighthawkはシカゴのハイドパークの空を気持ちよさそうに飛んでいるんですよ〜、と。

Nighthawkの声は特徴があるので、一度覚えてしまえば、私でさえ簡単に聞き分けることができます。でも、ちゃんと耳を澄ましていないと聞こえません。ここがポイント!

自然に耳を傾けていると、本当に身近に生きとし生けるものたちの営みを日々感じることができるんですよね。そういうことに気づかせてくれるのがバーディングで、毎日のつまらない日常をかけがえのない楽しいものに変えてくれます。

仕事で疲れたら、ちょっと目を上げて空や木を見てみてください。素晴らしい世界が目の前に広がっていますよ。


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