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岡本太郎現代芸術賞展で挑発されながら歩くのも良いもんで

川崎市岡本太郎美術館で「第24回岡本太郎現代芸術賞展」が開催中です。
「時代を創造する者は誰か」を問うための賞。
24作品には、挑戦的な姿勢と同時に、観ているほう(または社会とか)を挑発してくるようなものすら感じる――
ですから、歩きにくいっちゃ歩きにくい。でも、びっくりする歩きやすさもあり。
えっ、挑発されるって気持ち良くない?と。

第24回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)は24名が入選

今回の岡本太郎現代芸術賞は616点の応募があり24名が入選。
第23回は応募452から23、第22回は418から26。今回は応募が多かったんだなと思います。

展示についてHPには以下のように書かれています。

21世紀における芸術の新しい可能性を探る、「ベラボーな」(太郎がよく使った言葉です)作品をご覧ください。

「底知れない可能性」

どの作品も面白いのですが、まず最優秀賞的な「岡本太郎賞」の大西茅布さん「レクイコロス」。

大西さんは最年少17歳で岡本太郎賞を受賞。審査評は「底知れない可能性を感じさせる力作」。
5メートル四方の壁にいくつもの絵を、みっちり展示。

題はレクイエムとコロナウイルスを組み合わせた造語だそう。
だから“今”を強く表した作品とも思えますが、過去に描いた作品もあります。
不吉なイメージの重なりはコロナへの鎮魂をダイレクトに伝えず、パンフレットの作家の言葉ももっと個人的な感じ(以下引用)。

この作品は、コロナウイルスの悲惨のみならず、なにか運命的なものに殺された人々の、怨嗟の合唱を鎮魂するために作った作品です、とはもちろん後付けの理屈です。でも、そういった説明は嫌いではありません。

すると、これは作者の内側からほとんど出てきたのかと思えば……うーん「底知れない」。

挑戦的で挑発的

もう一つ、作品を採り上げます。

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園部惠永子さんの「そろそろグングニる。」。
パンフレットから本人の言葉を借りると、

グングニルとは、あえて操作性の難易度があがるように重りや工夫を加えて作られた筆です。

2018年、Koganei Art Spot シャトー2fで開かれた個展「ベストアルバム」でも展示されていました。
当時、持たせてもらった感想は「重ッ?!」。およそ絵を描く道具ではない。腕に負荷をかけて、感覚を奪います。

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では今回は、当時と何が違うか?
黒野颯さんとの合同展「永遠に立ち上がるプラットフォーム」(2/28~3/22。タイトルも良い)での立ち話では、「改良している」とのこと。

実際、観に行くと、まず数が多く、知らない形が増えている。
さらにスペースの中に入れば、高さ5メートルの天井近くや、床すれすれにも何かある。
見づらい……ということは今度は視覚も奪おうとしているんだなと。

「今度は視覚まで奪おうとしている……」

普通は何事も便利にさせる方向へ進みます。バリアフリーのために、階段をスロープにするとか。
けれど、不自由さからしか見えない景色があり、グングニルには、オーソドックスへの挑戦的で挑発的な投げかけを感じる。
何より「どうすればどの感覚を奪えるか」という逆の発想で作るのは、ちょっと難しく、面白かったはず。

歩きにくいはずなのに…歩きやすかった2つの理由

こんな具合に一つひとつの作品が刺さる。
飲み込みづらく、すたすたとは歩きづらい……はずでしたが。
会場はとても歩きやすかった。スゴいことだと私は思います。
理由は2つあるでしょう。

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まず、作品に“今”を感じること。
「作者が2020年をどのように過ごしてきたか」が、ちゃんと作品から感じられる。
個人的な思いをさらしてくれるから、作品の質云々でないところで、観ながら対話できる。
「あぁ、2020年って、こうだったよね」と。
挑発の種類は違っていても、“今”は共有できるから、対話になる。
2020年は特殊な年だったと思いますし、それを語り合う機会が圧倒的に少なかった。だから、作品を通して2020年について対話できる空間は、歩きやすいどころか気持ちのいい空間でした。
「そうそう、私も不満だった」とかに気づけたり、「そういう受け入れ方があるんだ」とか。

それでも作品それぞれは違う挑発なので、頭が混乱しかねない。
そこを解消させているのが、会場の作り
これが歩きやすい2つ目の理由だと思っています。
5メートル四方で、それぞれの展示があって、一作品のスペースが大きい。屋外にも展示があります。
だから開放感があって、物理的に歩きやすい。
次の作品まで歩くあいだに、作品から投げかけられた挑発(「それで良いの?」「あれっこうじゃない?」的な)を少しは消化できます。

挑発されるって気持ち良くない?

作品って、作者の身を挺した挑戦があって、そこには立ち止まっている何かへの挑発があるんですよね。例えば、動こうよ、みたいな。
普段の生活には、挑発されることって、そうそうない。だから新しい何かに気づく機会になり得る。

展示は4/11(日)まで。
日によっては入選作家によるパフォーマンスがあるので、調べてみるのも良いと思います。
挑発されるって気持ち良いもんですよ



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