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グーグルもいいけど、ぐるぐるもいい。

先日、公園でおじいさんに声を掛けられた。おじいさんはごそごそと白黒コピーした紙を広げ、「ここに行きたいんですけど」と目的地を指さす。
 
ピンクの蛍光ペンでハイライトされたところを見ながら、何やら胸が弾んでいる自分に気づく。見下ろした地図の横から私のこらえきれないにやけ顔を不思議そうに見上げる愛犬の顔が見えて、もっと可笑しくなった。
 
道を聞かれるなんていつ振りだろう?紙の地図を見たのも久しぶりだった。今はスマホのグーグルマップが目的地までの最良ルートをナビゲートしてくれる。指先で大きくも小さくもできる。3Dにもなる。初めての場所だって心配無用。下調べなしで当日検索してナビ通りに歩くだけ。昔は紙の地図を片手に同じ場所をぐるぐる回ったもんだが、まったく便利な世の中になったものだ。
 
おじいさんは前日にコンビニで地図をコピーしたのだろうか。80過ぎの父なら「コンビニでコピー」すらハードルが高い。図書館でスタッフにお願いし、家に帰って母を大声で呼び、目的地はどれだ?など言っている父の姿を想像したら、母の面倒くさそうな顔まで浮かんできた。
 
「犬がこっちに行くんで~」と言いながら白々しくおじいさんの後を追い、交差点ごとに後ろから声をかける。結局、横に並んで歩いた。そしたらおじいさんの息の匂いに、突然祖父を思い出した。怖かった祖父のことなんて何も覚えていないと思っていたのに。
 
おじいさんは50年振りにその場所に行くと言った。50年の時を経て再び訪れる場所。そこには深いストーリーがあるに違いなく、それが何であるか知らなくても、心を込めておじいさんに「いってらっしゃい」と伝えたい気持ちになった。
 
目的地の屋根が見え、「ありがとう、助かりました」と振り上げたおじいさんの手には、ぐるぐる丸められた紙の地図が太陽に照らされる。"グーグルマップ"もいいけど、"ぐるぐるマップ"もいいじゃん、と頭を下げながら振り向くと、また愛犬と目が合った。
 
人間って面白い。見知らぬ人とのちょっとした出会いから、心が躍ったり、昔を懐かしんだり、勝手に優しい気持ちになったり。私の前を歩く愛犬に向かって言ってやった。君と歩いているから気軽に話しかけられ、君といるから優しくなれるのかもね、と。
 
犬との散歩にグーグルマップは必要ない。犬の行きたいところをぐるぐる回る”ぐるぐるマップ”が犬の脳内に搭載されているから。時には「ぐるぐる」もいいもんだ。
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