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アカに最後のサヨナラを


僕の動物の思い出シリーズ第3弾

 

星になったジュウシマツのピー助と共に飼ってた猫のシロがいたけど、実はシロのお母さん「アカ」という猫も飼ってた。

アカもほとんど野生化していて、僕にはまったく懐いてなかった。

その時の僕はまだ小学生でやんちゃ盛り。自分に懐かないアカを餌で呼び寄せて、そして、餌を食べて大人しくなったところを撫でようとして逃げられる日常を過ごしてた。

シロは毛が白いから、ばぁちゃんにシロと名付けられたけどアカの毛色は赤ではなくて茶色だ。それをばぁちゃんは赤色と思って、アカと名前を付けたのだ。

僕はいつもアカを撫でたくて、近くに行きたくて、餌で釣っては逃げられ、餌で釣ってはあしらわれてを繰り返す日々を送ってた。

アカはいつも餌を差し出すと寄っては来てくれる。

そして、頭を撫でた途端に、いつものようにスルスルと逃げて行くのだ。

今の大人になった僕の汚れた心で表現すると、夜の店でいつも指名してる女の子に、

「ジョージさんとの距離は大事にしたいの。だから、私の覚悟が決まるまで待ってて!」

そう言って、アフターだけは逃げるキャバ嬢みたいなアカの立ち振る舞いなのだ。俺は餌だけ貢いで肩透かしの貢ぐ君状態だった…

きっとアカは、

「坊や、そうやって餌で釣るばかりが駆け引きじゃないのよ。あなたの魅力で私を呼び寄せるの。今のあなたからは煮干しの匂いしかしない…」

そりゃそうだろ、煮干しと白米でいつもアカを呼んでるんだから。しかし、アカの指摘も納得だ。僕はいつも餌で釣るばかり。もっと華麗にもっと妖艶にアカの心を惹きつける努力をするべきだ。


でも、その時の僕は小さいながらに考えて行動していた。その時の僕はアカを撫でたいのはもちろんだけど、それを超える思いを持ってた。


その思いを叶えるためには、頭を撫でるのはアカが餌を食べ終わる直前だった。

僕はちゃんとアカが餌を食べ終わるタイミングを見計らって、そして、アカの頭を撫でようとしていた。

僕の思いの第1目標はアカにお腹いっぱいの餌を与えるのが目的だったからだ。

でも、そんな僕の健気な思いなどアカは知るはずもなし。アカはいつも僕の心などお構い無しに撫でようとしたら逃げる。当たり前だ、野生化してるアカに僕の気持ちなんて伝わってるわけはない。アカは僕から餌をむしり取れるだけむしり取るつもりだ。

僕がいくら優しい思いでアカに接しても、やはり撫でようとすると、アカは華麗なステップで逃げる。もう逃げるルートがアカの頭の中に入ってて、どこに追い込んでも無駄なくスルスルと僕の手から逃げていく。


アカは何のお礼も無しに、僕の気持ちをいつも持ち逃げだ。


もしかしたら、アカは、この時から恋に翻弄される僕の将来のために、好きな人の心を射止める方法を教えてくれてたのかも知れない。


「餌、いや、お金で人の心は繋ぎ止めれないよ。もっと自分を磨いて、もっと自分に自信を持って。お金で好きな人と対等になろうなんて切ないよ、悲しいよ。自分の位置を自分で下に下げないで!素直な心で私を見て!ほら、私はずっとあなたの側にいるよ」


アカがそんな事を教えてくれてる気がした…


んなわけねー!


逃げるな!待て待てぇーー!!


僕は無邪気に毎日のようにアカを撫でようとしてた。


でも、ある時からアカを簡単に撫でることが出来るようになった。


いつもは抜け道を迷うことなく逃げて行ったのに、アカは壁にぶつかるようになった。そして、僕が撫でると震えてる。


違う。


僕はこんな撫で方を目指してアカを追いかけてたわけじゃないんだ。アカをちゃんと捕まえて、そして、もっと仲良くなりたかった。僕に懐いてほしかっただけだ。


でも、アカは柱や壁にぶつかるんだ。僕は可哀想になって追いかけることをしなくなった。


でも、餌はちゃんと食べに来る。

ばぁちゃんが言うには「もう歳で目が見えてないんよ…」

そう言ってた。

 
僕はアカに近づきたかったし、そして僕に懐いてくれて、アカから僕に寄って来てほしかった。


柱にぶつかり、壁にぶつかり、簡単に撫でることが出来るようになったアカの姿は見たくなかった。


ばぁちゃんの家は電気こたつではなく、囲炉裏で暖を取ってた。


雪のチラつく寒い夜だった。


野生化してるアカはいつも納屋のどこかで寝てるはずが、その日は珍しく、囲炉裏の横にやって来た。


僕がいるのに、僕の横に来たのだ。


初めて、アカから僕の近くに寄って来た。


アカの目が見える時は、僕はいつもアカに逃げられてた。アカが目が見えなくなってからは、追いかけると壁や柱にぶつかって簡単に僕に捕まり、震えながら僕に頭を撫でられてたアカ。


そのアカが初めて僕の横に来て、目を瞑ってる。


僕は、


「僕に寄って来てくれて、ありがとう」


そんな気持ちでアカの頭を撫でた。


これから、ちゃんとアカの頭を撫でたいな。そんな日が来るのを夢見てたけど、



次の日、アカの体は外の雪より冷たくなっていた。



ズルい。昨日が初めて僕に近寄って来てくれた日だったのに、なんでそれが最後の日になるんだ。


ありがとうしか言えてない。


サヨナラを言えずにアカがいなくなった。


僕がアカを撫でたい気持ちより、アカをお腹いっぱいにさせたい気持ちが伝わってたのかな。


アカ、最後の最後に僕に懐いてくれて撫でさせてくれてありがとう、そして、サヨナラ…またね!

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