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ソロプロジェクト立ち上げ時のポイント5選

こんにちは、Sailing Before The WindのベーシストBitokuです。2022年にベースインストプロジェクトNevrnessを立ち上げ、9月7日に1stフルアルバム『Reorient』をリリースしました。

今回は、ポストブラックメタルプロジェクトShadowgazerでも活動しているShimpeiさんに来ていただき、ソロプロジェクト立ち上げ~運営のポイントを2人で語っていきます。

メロデスバンドAlphoenixでは活動を共にする2人だからこそ、踏み込んだ内容になるかと。

それではさっそく!


①プロジェクトの命名方法

Bitoku(以下B):自分のバンドが4単語なので、プロジェクトは1単語にしました。バンド名が長いと略語表記(例:SBTW)も使えるので、グッズ制作には便利です。ただ、SNSのID取得時に文字数制限がかかったり、告知文章内でスペースを取ったりしてしまうのが難点でした。

同じ1単語プロジェクトとして、Shadowgazer命名の意図を聞いてみたいです。

Shimpei(以下S):そうだね、AlphoenixやMyproofも似たような理由だけど、なるべくユニークな造語にするようにしてる。社会人になって初めて働いた会社がSEOに力を入れているところだったから、検索に引っかかるという事が重要って感覚が身についているんだと思う。まさにネット時代のネーミングだよね。

B:検索で他と被らないかは超重要ですね。僕もそれは最優先で考えました。

S:あとはデザインもするから文字列の美しさ、もっと言うとどんなフォントにしてもかっこよく見えること。それから言葉の響き。僕ら日本人にとって英語は外国の言葉だから、カタカナで発音したときになるべくギャップの生じない単語を選ぶ。

B:カタカナ発音と英語のギャップ、考えたことなかったです。たしかに読み方が複雑だったりギャップがあったりすると、スッと入りにくい……。

S:でも意味も妥協したくないから、なかなか完璧だと思える名前は難しいんだけど、Blackgazeにハマってよく聴いているとき、この音楽を自分がやるんだったらどんな名前がいいかなって考えたときに、ふとShadowgazerを思いついた。Gazeがジャンル名に触れているし、ShadowもBlackと系統の近い言葉で音楽性を想像しやすいし、文字列もWを中心に5文字ずつでバランスもいい。響きもカッコいいしこれだなって思った。


B:文字列のデザイン性に着眼する(できる)のは、デザイナーとしても活動するShimpeiさんの強みですね。デザインといえば、NevrnessのアルバムジャケットやロゴもShimpeiさん作です。というか、そもそもNevrnessのプロジェクト名自体も考案(?)していただきました。David Zindellの『Neverness』という本を参照した記憶がありますが、あらためてNevrness命名までの背景を共有してもらえたら嬉しいです。

S:はじめはNevernessって単語だったよね。これはMyproofが解散したあとに、もしまた音楽活動を始めるならって考えてるときに出たアイディアだった。さっき言ってた本や、地名(Havn)、Dimension Zeroの曲にもある神秘的な単語だと思った。でも自分の作る音楽にNeverness感が足りなくて保留にしてたんだよね。

B:言われて思い出しましたが、ノルウェーに"Nevernes Havn"という場所があるのは、後になって再度僕も調べました。文字数のわりに使われている文字が少ないのが独特で、それもまた神秘性を感じます。

S:それで後にやっぱりまたメロディックデスメタルバンドがやりたいって思って考えたのがAlphoenixだったからNevernessは結局使わなかった。それで、その少し後かな? これも7〜8年前だからちゃんと覚えてないけど、Bitokuくんから「ソロプロジェクトを始めようと思う」って相談を受けたときにNevernessから一文字削って『Nevrness』って名乗るのはどう?って提案したのを覚えてる。バンドの活動にちょっと疲れてるのかなって思ったけど、記憶あってるかな?(笑)

B:僕の記憶もだいぶ怪しいですが、相談したのは2014年8月頃のはずです。ちょうどSBTWのメンバーが流動しまくっていた時期で、かなり疲弊していたのではないかと……(苦笑)。でも結局なぜかその時はプロジェクトを始動できなくて、2022年まで持ち越すという。

結果的には良かったと思いますね。YouTubeやストリーミング上でアーティスト名が被らないことの重要性とか、理解した上で行動できているので。長すぎたり複雑すぎたりしなければ、造語に大きなデメリットはないかなと。



②リリース方法

B:Nevrnessの場合はなるべく早く公開したかったので、自主リリースを選びました。もしどこかレーベルと話をするにしても、1枚出してから(2作目から)の方が向こうも数字的判断をしやすいと思いましたし。

Shadowgazerは、中国のPest Productionsからリリースされてますね。どういった経緯なのか気になります。

S:命名のエピソードから繋がってくるんだけど、もともと計画していた事じゃなかったんだよね。自分にとってポストブラックメタルはやるものじゃなくて聴くものだと思ってたから。でもShadowgazerの名前を思いついたときにこれは自分で実行するべきだと思った。そういう意味ではNevrnessは俺が名乗るものじゃないって感じてたから、Bitokuくんに受けとってもらえて本当によかった。

Shadowgazerではまず『Blackgaze Cinema』1曲だけを書いて、ブラックメタル系のレーベルにいくつか送ってみた。そしたらすぐに2つのレーベルからアルバムのオファーがきて、最終的に話がまとまったがのがPest Productionsのほうだった。

B:理論上はShimpeiさんが1人で(自主で)出すこともできたと思うのですが、最初からレーベルに送ってみたのはなぜでしょう?

S:出したいって思ってたわけじゃないからね。なんか色々実験してみたくなって始めたんだ。一部のゲストミュージシャンを除いて、アートワークやミックス・マスタリングも全て自分で、しかも当時は正体を明かさない状態でやってみた。だからついでにそのままの状態でレーベルに送ったらどういうリアクションが来るのかも興味があってやってみたんだ。どこどこの誰々です聴いてください、じゃなくて作品だけいきなり送りつけるなんてやった事なかったから。

B:なるほど全てが腑に落ちました。実験したくなる気持ちはめっちゃ分かります。素性を名乗ってしまうと、その時点で(良くも悪くも)先入観が形成されちゃいますからね。

Nevrnessも本当は正体を伏せてやりたかったんですが、様々な事情で断念しました。結局、人がいるところへ告知しないと知ってもらえないので。0フォロワーの状態からステップアップしていくのは、エクストラハードだなぁと思います。ならば最初からレーベルとか(他の活動で築いた)既存のリスナー層へアプローチした方がスムーズ。Shimpeiさんの場合は実験でしたが、計画的に進めるのであれば「自分の作品はどこに置いたら知ってもらえるか」から逆算すると取るべき選択肢を絞りやすいかなと。



③シングル/EP/アルバム論

B:Nevrnessは、曲がほぼ全て約1分尺なんです。「シングルやEPだと、世界観に入る前に終わっちゃうなぁ」と思って、アルバムにしました。ある程度尺がないと、作業用BGM的に垂れ流すのは、なかなか難しいかなと。もちろん他にも細かい理由はありますが……。

ShadowgazerはEPでのリリース、しかも4曲中3曲が5分越えですね。リリース形態や曲尺は意図的なものでしょうか?

S:そうだね、しかも2曲目『Falls』も3曲目と繋がってるから、たしかに長いね。これは単純にポストブラックメタルの文化だと思う。アンビエントの要素があるから間の演出のためにはどうしても長い空間的なパートが必要で、これを削っちゃうと表現に制限がかかってしまうかも。Alphoenixの制作もあったから、ちょっとしんどいけどEPならって事で、それでもOKって言ってくれたのがPest Productionsだったから、この形態になった。フルアルバムでも7曲くらいになると思う。1曲が長いからね(笑)。

B:ジャンルの文化、曲尺による表現への制限、間違いないです。Nevrnessは逆パターンで、曲尺を伸ばすと制限がかかる感覚でした。次の曲へサクサク進んだ方が、今回の作風にはフィットするかなと。長尺/短尺志向はどちらもありえるというか、アーティストの表現したい世界観次第ですね。

S:Nevrnessは凄く聴きやすいよね。短い曲がたくさん入っているのが映画とかゲームのOSTっぽくて良い。ヴォーカルメインのメタルは良い意味でも悪い意味でもエネルギーが大きく動くから、マッチする場が限られる。けどNevrnesのベースミュージックはこの制限が無いぶん、開拓の手間はあるけど大きな可能性を秘めていると思う。



④プロモーション方法

B:Shadowgazerは、アメリカの著名メディアMetalSucks*に掲載されています。あれは向こうからの自発的なピックアップですか?

*12 of the Best One-Man Black Metal Bands in Japan

S:ライターから突然連絡が来たよ。「記事に掲載したいんだけどShadowgazerは1人なのか?」って。メンバー名とか一切書いてなかったから。"ひとりブラック"特集だったから逆にメンバーがいたら掲載されなかった。こういう事もあるんだ、って驚いたね。

B:なるほど! めちゃくちゃ興味深いです。バンドじゃない状態って弱みになりがちですが、完全に逆パターン。ブラックメタルとのジャンル的相性の良さも要因そうです。例えば"ひとりメタルコア"だと、特集は組まれなさそう……。

レーベルなどでのCD販売ルートはともかくとして、その他Shimpeiさんがプロモーションのためにやったことはありますか? 人によっては作品を出して満足(特に広める気はない)な方もいるので、宣伝に対する考え方を聞いてみたいです。

S:たしかにひとりメタルコアは特集されなさそう(笑)! 宣伝の話は、そうだね。俺も正直あんまりやりたくはない。データアナライズは作業に感じるし、これは誰もが思っていると思うけど、音楽だけやっていたいよね。美味しいところだけ食べたい。逆にマーケティングやプロモーション自体にやりがいとか面白みを感じるなら、そっちの仕事をしたほうが良いと思うしね。「この人に売ってこれないものなんてないんじゃないか」って思うぐらい優秀な営業マンを見ると、そんな能力があるなら音楽にこだわる必要性すらなく感じる。

B:……うなずきすぎて首が痛いです。ぶっちゃけマーケティングやプロモーションって、"音楽そのもの"ではないですからね。

S:「作品を出して満足」っていうのが個人の主観や価値観によるから、人の事はあんまり分からないけど、俺の場合はプロモーションそのものより、国内外で協力してくれる人や、音楽性を気に入ってくれるレーベルを探したりと、プロモーションのためのプロモーションをするかな。あんまり表立ってないと思う。

B:プロモーションのためのプロモーション、刺さりすぎました。たしかに、Alphoenixで一緒に活動していて僕がShimpeiさんから一番感じるスタンスは、その「プロモーションのためのプロモーション」かもしれないです。

例えばAlphoenixの新譜がタワレコで展開してもらえたのは、バンドがプロモーションのためのプロモーションを行った結果であって。作品プロモーションの結果ではないですね。やー、なんとなく感じていた概念が言語化されてスッキリしました。



⑤CD/グッズ展開

B:1stアルバム『Reorient』のCDは後日販売予定で、今はデジタルリリースのみです。グッズというか、タブ譜は販売しています。

Shadowgazerは、CDとグッズ(Tシャツ/キーホルダー)両方出てますね。CDはレーベル側でも販売されているようですが、このあたりのすみ分けはどうなっていますか?

S:レーベルには音源だけお願いしてる。俺個人よりも、ジャンルのファンへの経路を圧倒的に多く持っているしね。逆にマーチは全部こっちでやっている。思いついたデザインをすぐ作りたいし。伝統的なヘヴィメタルの文化で考えるとフィジカルでのリリースは必ずあるイメージだけど、Nevrnessは今のところデジタルリリースのみだよね。その音楽性も新しいけど、活動方針もそこへ付随させてくために、CDとかは出さないでデジタルオンリーでいく予定なのかな?

B:今作はデジタル先行→CD後出し、の流れにしました。プレスに時間がかかるのも一因ですが、主な理由は、デジタルの反響を踏まえてプレス枚数を決めたかったからです。インストゆえに反響が読めず、事前のプレス枚数予想が難しかったので。SBTWでも何度もCDは出していますが、毎回プレス枚数の判断には迷います。年々状況(例:ストリーミングの浸透)が変わりますからね。

ShadowgazerはCDやマーチの生産数は、どうやって決めましたか? もちろんMyproof時代の経験も込みで、何かアドバイスなどあれば。

S:配信は在庫の問題が無いから別として、フィジカルはここが大きな障壁になるよね。Bitokuくんの言うとおり状況は日々変わっているから、俺の場合CDの生産数に関してはなるべくレーベルの判断に任せるようにしている。Myproofの時は自分たちで国内盤を刷った事があるけど国外に売るには輸送費の問題や流通の問題があって、結局海外盤は現地のレーベルに任せた。たまにしかCD売らない人と、毎日のように売っている人じゃさすがに埋められない差があるよね。

B:言われてみれば、数年に一度しかプレスしない我々が正確に枚数を予測すること自体、そもそも無謀でした……。

S:マーチはバンドの世界感に繋がるものだと考えてるから、デモ音源と同じように出来るだけ試作品を作るようにしてる。コスト度外視になることも多いけど。リアクションが良かったものはその後ロット生産したりするかな。

AlphoenixのMELODICDEATHMETALシャツ(↑)は良かったよね。ただ文字がプリントされているだけじゃなくて、あのデザイン性が成功したと思う。バンド自体のダイハードなファンじゃない人でも着やすかったんじゃないかな。SBTWも特に初期はマーチで知名度を拡大していた印象があるけどNevrnessでもそういった計画はあるのかな?

B:あれは良かったですね! 僕も1枚いただきましたが、着やすくて文字すり切れるくらいまで着倒しました。バンド名の主張が控えめだったのも、ポイントかなと。販売当時は今よりもそういう"何のマーチか分からない"系が人気だった印象です。

もちろんNevrnessでもマーチ展開はやりたいと思っています。ただ自分の規模だと「とりあえず1,000枚作るか!」みたいなやり方はできません。CDと同じく、今はまだデジタルのセールスを見ている状況ですね。ただ、CDプレスと同じタイミングで、何かグッズは出す予定です。


今後の予定(最後にメッセージ)

B:現在アルバムから毎週1曲ずつ、演奏動画をYouTubeで公開しています。2022年年内は、ひたすらそれで突き進む予定です。なんせ20曲もあるので…! 新作を出すとしたら、その後ですね。

S:精力的なNevrnessの後でこんなで申し訳ないんだけど、Shadowgazerは来年新曲出せたらいいなーぐらいの感じです(笑)。

B:ペースを自由に決められるのも、ソロプロジェクトの良さです! というわけで、Shimpeiさん、ありがとうございました! 


▼インタビュー前編はこちらから
https://spiritual-beast.com/notes/6052/


▼2人のプロジェクトや、Alphoenixのアルバム情報は以下から!

Shadowgazer


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