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起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 単行本 – 2021/1/29

この話は、どうしたって賛否が分かれます。それはある種の異端の物語であり、異端だからこそ飛びぬけた成果を生み出せたという、両側面を持ち合わせているからです。さらに、当時はもちろん、現在の日本社会にもますます大きな影響力をもつ企業ですから、濃い目の意見が飛び交うのも無理からぬことでしょう。本書は、その起点となったキーパーソン、リクルート社の創業者・江副浩正氏の動きを中心軸に据えたドキュメンタリーです。

何をもって天才と称するかはわかりませんが、一つ挙げるとしたら、未来を思い描く力…。ただ、これだと表現し切れておらず、想像力や妄想力さえも超越した先の、本質を探究する徹底的な素直さに近いものを感じた…とでも言い換えましょうか。「こんなことができるんじゃないか」と思い切ったビジョンが描ける能力もさることながら、ゴールが見えたらそこへ向かう道筋で、超絶素直に「こっちのほうがよい」と、いわば時代の空気を読まずに必要な選択肢を取っていくバカ正直さ。そこに多くに人たちが惹きつけられ、人によっては煙に巻かれたようになり、事が進んでいくパワーになっていったのかなと想像します。

たとえて言うなら、スピードとパワーに優れ過ぎたロケットが、当時の日本社会という大気圏に突入したとき、摩擦熱に機体が耐えられなくなって事故(≒事件)を起こした。それがリクルート事件だったのではないかと。スピード性能を愚直に追い求めたのはよかったのですが、摩擦熱の計算をミスったのかもしれないと。ならばいったん事件の判決是非は置くとして、どうやったらそんな高性能ロケット(企業体)を作ることができたのか、その中身はどうなっていたのか、現在の私たちにとって学べることが多そうで、とても知りたくなります。

そして読み進んでいくと、私のような人事の仕事をしている者の観点からだけをとっても、たいへん驚かされる話が満載です。それは、2010年代半ばくらいから広く話題になり始めた「働き方改革」、その背景にある「会社の社員のパートナー関係」、個々の社員の「強みを生かした人財開発」、モチベーションに通じる「内発的動機づけ」、男女や学歴を問わない仕事アサインという意味で「ダイバーシティ&インクルージョン」などなど…、これらすべての考え方が1960年代からすでに備わっていたということです。

現代の色メガネを通して見ているからこそ、それらが浮かび上がって読めるということもあるでしょう。ただ、トップが変わっても長く強く在り続けられる会社には、それ相応の理由があるはずです。人事の話はほんの一部に過ぎず、ビジネスにおける先進性は、半世紀前に起きたこととはいえ色褪せない要素が大いに詰まっていると感じられました。現代とはまったく異なる社会環境ではありますが、壮大な規模で行われた実証実験のレポートだと捉えると、学びが多く大いに読む価値のある一冊ではないかと思いました。

(おわり)


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