棚の本:車谷長吉の人生相談 人生の救い
私小説家の車谷長吉は、新聞の人生相談で回答者を務めていました。
「本書はニ〇〇九年四月〜二〇一ニ年三月、朝日新聞土曜別刷be『悩みのるつぼ(掲載時タイトル)』を再構成したものです。」(本扉の裏)
くまとら便り
車谷長吉は、ずいぶん前に、『鹽壺の匙(しおつぼのさじ)』をうっかり読んだことがあり、それは激烈な読書体験だったのですが、一体そんなにひどい蓄膿というのは、どんなだろうかという、変なことが気になっていました。
時々車谷長吉を思い出し、「あれは凄かったな」と振り返るのですが、その強烈な印象ゆえに、本棚にずっとある『鹽壺の匙』を再び手に取るまでには至っていません。
しかし、車谷長吉(自称「反時代的毒虫」)が人生相談に回答していたなんて。
禁忌事項
1 お茶やコーヒーを飲みながら読んではいけません。
予想外の回答に身体が驚いて、内側から押し出されるように、「何か」が勢いよく飛び出る可能性があります。
その際、お茶やコーヒーを飲んでいると、口に含んだ液体を吹き出して、驚きと笑いの共通点を実感するだけでなく、大事な本を汚してしまうのではないかと思われます。
2 友人・知人から人生相談を受けたときの参考にしよう、などと考えてはいけません。
残念ですが、車谷先生しかできない回答しか、載っていません。
想像してみます。
土曜の朝に新聞を読んでいたら、人生相談コーナーがある。
「ふーん、どれどれ参考になる話かな。」
何とはなしに、相談と回答を読んでみる。
相談 「人の不幸を望んでしまいます」
回答 「あなたには愚痴死が待っています」
ー「愚痴死」…
人にそんな死に方があるとは…
土曜の朝に、私たちにこのような回答ができるでしょうか。オブラートに包んだら、上手く伝えられるでしょうか。
本書を参考に、ひとの相談に回答したら、間違いなく、とんでもないことになります。
効用
悩んでいる人は、その悩みが実際にはちっぽけなものなら、驚愕のうちに、気分が軽くなるでしょう。
大きな悩みを抱えている人も、とりあえず「奈良盆地へ行こう」という気持ちになったり、ならなかったりするでしょう。
棚主がやっと少し分かったことを、個人的な効用として挙げてみます。
鼻で息ができない苦しみは、人生の苦しみであるということ。
回答に、体の奥底で妙な納得感があるのは、呼吸の詰まりが少しとれるような感覚があるのは、車谷長吉がその壮絶な人生を言葉にして、私小説に昇華してきたからこそであるということ。
それから、苦しむ心には「おにぎり」がいいということ。
ー やさぐれた心には「おそば」もいいみたいです。
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