仕事関係の知人は、お昼にお弁当を持ってくる。奥さんの手作りだ。発芽発酵玄米とか、無農薬の野菜とか、ホルモン剤を使用していないお肉が入ったお弁当なので、それなりに手間もコストもかかっていると推測する。しかし、忙しい（と本人は思っている）ので、昼に食べている姿を見たことがない。本人に聞くと、夜に食べているらしい。でも、時々、昼に立ち食い蕎麦を食べに行っているようだ（その時はお弁当はないらしい）。

なぜ、食べないお弁当を持ってきており、お腹が減った日にはお弁当がなく、蕎麦（無添加ではないと思う）を食べに行くのか？職場で夜に弁当を食べるなら、家で夜に食べればいいではないかと思ってしまう。弁当など必要ないだろう。

他所の夫婦の話なので、僕が考える必要もないことなのだけど、これが夫婦のすれ違いというものだろうか？

ここからは完全に想像なので、このご夫婦の話ではないことをご承知願いたい。

お弁当を食べないなら作る必要がないと奥さんが考える。知人の方は「食べるかもしれないから作って欲しい」と言ったとする。それでも食べない日が続くと、もはや嫌がらせではないか。

それでも夫婦は20年以上の一緒に暮らしているのだから、やっぱり僕があれこれ考えることではない。

さて、なんでこんなことを書いているのかというと、現在52歳の僕は独身で（バツイチです）、お弁当などを作ってくれる人がいないからである。お弁当どころか、夕食も誰も作ってくれない。もちろん、部屋の掃除も洗濯をしてくれる人もいない。だから、全部を自分でやっている。

20年ほど結婚生活も経験しているので、当時は食事や掃除や洗濯をしてくれる人がいた。それは奥さんだった人の役割（専業主婦だったので）だと思っていたから、感謝の意を伝えることなどなかった。今から思えば、一緒に暮らしながらすれ違いの原因をたくさん作っていたのだと思う。そんな僕の姿を見て、二人の娘が結婚に絶望していなければよいと願っている。

さて、離婚をしてから、何人かの人とお付き合いをさせていただいてわかったことが、料理や掃除、洗濯が得意ではない女性がいるということだ。女性だからやればできると思っていたことは大きな間違いで、そもそもの役割分担を考え直さなければならなかった。しかし、暗黙のうちに料理は相手の役割になっており、僕は作ってくれたご飯を食べていた。

元々、僕はそんなに味にこだわりがないので、なんでも美味しいと感じるタイプである。しかし、食べる手順というものがある。それは、まずはビールを飲んで、その次に焼酎やウイスキーを飲む。その間は、つまみしか食べない。で、ほろ酔いになった段階で、メインの食事をする。実は、この食べ方は相手にとって割と迷惑である。まずは、飲んでいるので食事の時間が長い。お酒を飲む人でも、メインの食事をすれば、僕が飲んでいる間に食べ終わってしまう。相手がきれい好きな人であれば、食器を洗いたくてうずうずしているのがわかる。だから、急かされているようで、僕も少々イライラする。さらに、すぐに食べないので食事が冷める。どんなに「美味しい」と言ったところで、作り手の側からすればベストな状態ではない。

もっと大きな問題は、僕が食事を開始する時間が遅いということだ。独立をしてから仕事時間と収入は比例するということを教えられたので、長時間仕事をすることが習慣になってしまっている。仕事は21時までと決めているので、シャワーを浴びてビールを開けるのが21時30分になる。ダイエットを気にしている人にすれば、こんな時間に食事をすることなどありえない。こうして、僕はせっかく作ってくれた食事を台無しにしていたのだ。

さすがに時間が合っていないことはわかるので、一応、気を遣って、「晩ご飯は自分でできるよ」と言ったりしていたのだけど、たいていの場合、逆効果である。

冒頭で知人のお弁当の話をしたが、僕も同じようなことを長くやっていたわけだ。

結果、僕は長くお付き合いができる人がおらず、一人で食事を作り、掃除も洗濯も自分でやっている。この状態に不満があるわけではなく、生活に必要なことは自分でできるようになっている。野菜も食べるし、ノーアイロンシャツを着れば不潔にも見えない。掃除はロボットにお願いすれば、ホコリが溜まることはない。

僕は自分のことは自分でできる。しかし、一人でいたいわけではない。

誰かと生活をするということは、何らかの役割分担が発生する。役割の果たし方や生活スタイルが合わないこともある。小さなことかもしれないけど、やがて大きなすれ違いになってしまうことがある。

恋人と別れたり、離婚してはいけないと思わないけど、すれ違いから愛情が薄れていくのは少々残念だ。

「何かをやってくれるから一緒にいるのではなく、何もしてくれなくても一緒にいたい。」

たぶん、誰しもそんな風に思って関係をスタートさせる。夫婦のすれ違いに気付いたら、振り出しに戻すことが、すれ違いの解消に最も効果的だと思う。