SF小説「ジャングル・ニップス」3−10
ジャングル・ニップスの日常 第三章 作戦会議
エピソード10 パンケーキ
「そろそろ動くか。」
ヤスオがエースケに言った。
「だな。寝ちまったようだし。」
顔を洗って戻ってきた中学生は少年の顔をしていた。
お詫びの印にと、カモミールティーとドーナツを出され喜んだ姿には、まだ小学生の面影が残っていが、仕事中の母親を心配させないよう、気配りが行き届いた、中学生の電話口での対応にオトナ達は舌を巻いた。
「質問が、あるんですけど。」
ショーネンが手の平だけ上げ、二人を交互に見た。
「解毒者だよ。」
エースケが言うとヤスオが頷いた。
「エースケさん、エミがパンケーキ食べないか聞いて来いって。」
トシがテーブルに来て小声で言った。
「エミちゃんが何者なのか知りたくてしょうがねえんだって。」
「ショーネンクンに、それは直接訊いてくれと伝えてください。」
「ドーナツ食いすぎてホットケーキ食べられないって、エミちゃんにお礼い言っといて。」
「了解です。エミにそう伝えます。」
「そろそろ、オレ達オイトマさせてイタダこうと思ってっから、お勘定頼む。」
トシがショーネンに手招きをする。
「直接訊いたらいいよ。」
エミは中学生に宿題をしとくようにと勧め、奥に下がってから顔を出していない。
ショーネンは奥の暖簾をチラリと確認してみたが気配を読み取れなかった。
「今度、お店に来たときにしときます。」
「なら簡単に言うとね。彼女は鬱憤を吐き出させる天才なんだよ。」
トシがそう言うとヤスオが頷いた。
「居酒屋でバイトしてたら勝手に身についたって本人は言ってる。」
エースケが声を押し殺して笑い転げている。
「うん。詳しい話はまた来た時にでも本人に訊いてね。」
トシはそう言うと、中学生の寝姿を見て微笑んだ。
「エースケ、さっきから何ウケてんだよ。」
目尻の涙を確認しているエースケを見てヤスオが言った。
「いやヤスオなっ。エミちゃんが本当に解毒しなきゃいけねえのはコイツだろって思ったら腹が捩れてよ。」
ショーネンを見て、ヤスオとエースケが肩を震わせ始めた。
「気持ち悪いなぁもうっ、オトコなら声出して笑いなさいよっ。」
エミの声にオヤジ二人が爆笑した。
「ヒソヒソ話されたら気になってしょうがないでしょうが、もうっ。」
「エミちゃん、パンケーキはいいや。オレ達そろそろ行くからお勘定お願い。」
「もう行くの?たまにしか来ないんだから、もっと居たらいいのに。」
「まだコイツの修行が残っているから、また今度ユックリするよ。」
ショーネンがお辞儀する。
「エースケちゃんに振り回されて気が滅入ったら、アタシに相談に来たらいいからね。」
「エミさん、あれは何をしたんですか。」
ショーネンは単刀直入に聞いてみた。
「何をしたかって言われても。吐きたそうだったから手伝ってあげただけかな。」
エミはショーネンがどこまで理解出来るのか探っているようだ。
「繰り返し吐いていいよって、言っていたあれですか?」
ヤスオが煙草を出して火をつけた。
「ちょっとは良い線行ってるけど、掠ってもいないな。」
エースケが振り向いて中学生を観る。
「エミちゃん、理解出来なくてもいいから、コイツに説明してやってくんないかな。」
エミも中学生をチラリと見た。
「言いたいことが日頃言えないヒトって、お腹の中に毒が溜まっちゃうでしょ。」
「はい。」
「慣れてしまうと、それが当たり前になって、毒で満タン状態が普通になっていて、気が滅入っているのにも気づけ無いでしょ?我慢強い人達に多いんだけど。」
「なんとなくわかります。」
「アタシはだから、それが出せるキッカケになるモノを飲ませてあげてるだけ。」
出せるキッカケになるモノってなんだ。
「シェイカーでああやって振ったのは別に、カッコつけるためじゃねえんだよ。」
エースケが付け足した。
「その、モノってなんですか?」
「ありがとうとか、ごめんなさいとか、そういった言霊と愛情かな。」
「え?」
「飲み物に、お腹に溜まっている毒と反対のモノを乗せて送ってあげるの、それだけ。」
ヤスオが煙をユックリとはいた。
「オマエが考えすぎて、いっつも外に撒き散らしている想念と逆のモノだよ。」
エースケが言う。
「オレの想念。」
エースケはドーナッツを口に放り込み不味そうに噛み砕いた。
おしまい。
☆
「ジャングル・ニップスの日常」第三章作戦会議、完。
途中、大幅に軌道修正したため、連続アップするための在庫が尽きてしまいました。ライクボタンを押して応援してくださった皆様、大変申し訳ありません。全体像の骨組みから修正したいので、時間がかかるはずです。勝手ながら「ジャングル・ニップスの日常」は一時休止いたします。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「ジャングル・ニップスの日常」第四章にいつか、つづく。
ありがとうございます。