若妻力
電子レンジが壊れた。
思い返せば学生時代からの付き合いだ。病める時も健やかなる時(こちらは通算5分くらいだが)も長く共に過ごした仲である。
電子レンジ側としても「アタシもそろそろこの人と離れてのんびりと余生を過ごしたい」と思い始めても良い頃なのかもしれない。行き先は海外になってしまうのかもしれないが。
などと感傷に浸る暇もなく、我が家には死活問題である。新しいレンジの購入を検討せねばならない。
新しい家電を購入するときというのは、自分の中のユーザーニーズ、即ち「その家電を使って何をしたいか=どのような暮らしをしたいか?」を見つめ直す機会である。
わたしが求めることはただ一つ。
「牛乳があっためれること。」
我ながらメシマズ嫁として実にクリアな回答だ。
対して我が家の保食神(うけもちのかみ)、夫のニーズは、
「まず揚げ物やりたいでしょ、それからしっとり&カラッと焼きも欲しいし、お菓子も作りたいし‥
一品作ってる間に勝手にもう二品できてるくらいのキャパも欲しいなぁ、あと」
前々から思っていたが、彼は女子力がハンパない。
「あぁ、わかったよ、金は全部出すから君の好きなものにしたらいいじゃないか‥」
「わぁ!ありがとう!
お弁当作り頑張るね!!(*⁰▿⁰*)」
女子を通り越してもはやハイスペック若妻力である。
さて、満を持して納品された電子レンジ。
早速トランペットを覗く子どもの目で説明書をめくる夫が伝えるところによれば、温める・解凍はおろか、揚げ物・焼き物・蒸し物・主菜副菜の同時調理・汁物・炊飯までできるというではないか。
さすがにこれはウソだろと思ったが焼きそばまで作れるそうである。
ちなみに麺類はわたしの唯一得意とする料理である。(それ以外は大抵ケシズミか吐瀉物系になってしまう)これを作られたとなればいよいよわたしがこの家に存在する意義がなくなってくる。
いや、ウキウキと唐揚げを調理する夫の姿を見ると、このレンジこそが求められる妻の姿であって、わたしこそがこの家に相応しくないのだろう。
ていうか既に若くもない時点で完敗であった。唐揚げの出来、完璧だし。
アクアパッツァを作られる前に老兵は黙って去ろう…と心に決めた夜であった。
翌朝、なんでも出来すぎる故か、昨晩いじりすぎて電磁波が作用したのか判らないが、
「Hey、ヘルシオ、回覧板出しといて!」
と電子レンジに語りかける夫を見かけた。
まだ少しはこの家にいられるだろうか。
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