見出し画像

無理をしない、長時間労働もしない。それでも年商3億円の人気店となった理由とは。『山の上のパン屋に人が集まるわけ』

いつか自分の本屋を開きたいという夢がある。これは夢も夢、実際できるかどうかもあやふやな、かなりほんのりとしたものだけれど。

たまに、本屋をやるならどんなところにしようかと夢想する。
自然豊かなところがいいかな、お客さんがゆっくりと過ごせるような。
でも、交通の便が悪いとお客さんが来ないかもしれない。
ならやっぱり街中?なんなら駅近のほうがいい?人通りの多いところのほうが、お客さんの目に留まりやすいだろうか?
そもそも、わざわざ来てもらえる店ってどんな店なんだろう?
考えれば考えるほど、いつの間にか理想から現実へと思考がスライドしていくのが常だった。

そんなときに読んだのが、『山の上のパン屋に人が集まるわけ』という本だ。
長野県東御市の山の上にあるパンと日用品の店「わざわざ」は、その立地にもかかわらず年間3万人以上が来店する人気店だ。2020年度には、なんと年商3億円を達成しているそう。
この本では、代表の平田はる香さんが「わざわざ」を設立してから現在に至るまでの経緯や、経営にあたって大事にしていることなどが綴られている。

「わざわざ」が大事にしていること

年商3億のお店を経営するなんて、平田さんはさぞかし華々しい経歴をお持ちなのだろうと思いきや、そんなことは全くなかった。むしろ、社会でうまく生きられず、職を転々としていたのだという。そのあたりの経緯は本書に記されているので読んでいただきたいのだけど、今では人気店となった「わざわざ」も、最初は平田さんが一人で切り盛りする移動販売から始まったそうだ。この経緯に、勇気づけられる人は多いのではないかと思う。

「わざわざ」を営んでいくにあたって、平田さんが大事にしていたのはお客様との関係だ。とにかく、お客さんを大事にしている。常連さんが以前よりふくよかになってしまったのを見て甘いパンを作るのをやめたというエピソードがあるくらい、お店に来てくれるお客さんを常によく見て、想像力を働かせて、お客様の不利益になるようなことは徹底的に避けている。それだけ大事にされたら、また行きたくなるのも当然だ。
山の上にお店を作ったのも、来てくれるお客さんに山の上からの美しい景色を見せたかったからだという。常にお客様にとって良いことを提供しようとする姿勢が印象的だった。

お店としてのポリシーがはっきりしているのも「わざわざ」の特徴だ。
どんなお客さんでもウェルカムというわけではない。お店のあり方にきちんとした軸があり、お金目当てにその軸をブレさせるようなことはしない。その強さも魅力的。

平田さんは「フェアであること、フラットであること」を大事にしているという。お客様にはよりよい選択肢を、働く人には作業軽減を、会社には利益の増加を叶える理想の等価交換の形。平田さんはこれを「わざわざのふつう」として、すべての人が幸せになることをお店の方針としている。
無理をせず健やかに働いて、自分が良いと思ったものを届けて、お客さんに喜んでもらう。会社もきちんと利益を上げる。なんて素晴らしいあり方なんだろう。こういう生き方がしたい、と思った。

平田さんの行動力や熱意にも驚かされた。
オリジナルのウールの靴下を作ろうと、ある靴下メーカーの社長に打診したものの断られてしまう。
しかし平田さんは、1時間だけプレゼンをする時間をもらうことに成功。
そこでさまざまなウールの靴下を履き潰し、プレゼンの日に持参。履き潰した靴下の悪い点を散々述べたあと、「だから私はこういう靴下を作りたい」と訴えたのだそうだ。

結果その靴下メーカーに協力してもらえることになり、3600円のウール靴下600足が1ヶ月で完売。靴下はその後もアップデートを重ね、今では看板商品のひとつとなっている。

わたしだったら、一度断られたら諦めてしまっていたかもしれないし、他の靴下を履き潰してみるなんて思いつかなかったかもしれない。熱意をもって、なぜそれを作りたいのかをきちんと伝えられれば人を動かせるのだ。このことは忘れないでおきたい。

良き生活者になるために

「わざわざ」のスローガンは「よき生活者になる」。この言葉がすごくいいなと思った。
いわゆる「ていねいな生活」はなかなか続かないけど、自分が思うよき生活者になることはできるはずだ。できるだけ環境に優しいものを選ぶ、きちんと仕事をして食べてしっかり寝る、毎日どこかをちょっとだけ掃除する……。お金は大事だけれど、その土台となる日々の生活を整えなければ、健やかにお金を稼ぐこともできない。

自分でお店をやろうと考えると、つい儲けのことを考えてしまいそうになる。交通の便がどうとかいうのはお客さんのことを考えているようでいて実は、儲けを出したいという気持ちの表れなのかもしれない。
そう思ったのも、本書を読んで「本当にお客さんのことを考えるとはどういうことか」がわかったからだ。
お金を儲けようとするのではなく、お客さんを第一に考えることで結果的にお金もついてくる。このことは「わざわざ」が年商3億円を達成していることからも明らかだ。お店とお客さんとの相思相愛の信頼関係が、わざわざの魅力なのだ。

信頼関係があれば、場所や交通の便なんて関係なく人は集まってくるのだろう。いつか自分でお店をやるなら、どんな場所であったとしても「わざわざ」来てもらえる場所にしたい。



※この本は、NetGalley(ネットギャリー)さんで読ませていただきました。ありがとうございました!


この記事が参加している募集

読書感想文

もし、記事を気に入ってくださったら、サポートいただけると嬉しいです。いただいたサポートは、本を買ったり、書くことを学んだりするために活用させていただきます。