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「健康」と「病気」のはざま―Sub-clinicalについて―

2005年の調査では、日本人の6.7%は生涯に一度はうつ病になっていると言われる。そして、うつ病患者の5人に3人は病院にかかっていないという推定もなされている。
最近は昔に比べると、うつ病や発達障害などに対する偏見や差別がマシになってきたように思う。個人レベルでの配慮はまだまだ足りない人が多いけれど、少なくとも社会レベルで、名目上は優しくなってきた。

一方で、未だに辛い思い、不遇な境遇を受けているのは「健康」と「病気」のはざまにいる人たちだ。
つまり、「病気ではないけれど、うつ状態の人」や「うつ状態だけど、怖くて診断を受けられずにいる人」などのことだ。
こういう人は実際に多いし、精神医学の世界では"Sub-clinical(サブクリニカル)"と呼ばれる。言い方を変えると「病気と診断するほどではないが、症状は出ている」ケースである。例えば「身体はどこも悪くないのに、呼吸が苦しい」「毎日辛くて苦しいが、うつ病とは診断されなかった」のような場合をいう。

このSub-clinicalというグレーゾーンの存在が一部の人を苦しめていると思う。とりわけ、精神科で診断を受けることを避けてしまう人にとって、二パターンの理由で意味をもっているように感じる。
うつ病を例にすれば、診断を拒む理由は両極端な二つ、
 ①うつ病と診断されるのが嫌で医者にかかりたくない人
 ②うつ病と診断されないのが怖くて医者にかかりたくない人
だと思う。これは言い換えると、「うつ病」という①診断を足枷と捉えるタイプと②診断を救いと捉えるタイプと言えるかもしれない。

誰しも両側面の感情をもっていると思う。①と思うことは、「うつ病だと正式に決まれば、職場や人間関係に支障が出るかもしれない」「自分が病気であることを信じたくない」というような気持ちを伴うかもしれない。
一方で、②と思う人は「もし病気じゃなかったら、苦しみは自己の怠慢のせいだ。自分が悪い。」「事実はわからないが、苦しみの責任を病気にしておくことで、自責の念を抑えておきたい」というような気持ちが働いているかもしれない。

話を戻すと、このSub-clinicalな領域にあたる人をどのようにケアしていくかは重要なことと思う。うつ病に限らず、発達障害やメンタルヘルスを超えた医療全般で言えることで、辛さを抱えている当事者たちも考えた方がいい。

当然、何でもかんでも病名をつければいいというものでもない。しかし診断を下さない選択をされたときに「なんだ、病気じゃないんだから甘えるなよ」とか「身体に悪いところはないから、悪いのはお前の考え方と生活だよ」みたいな結論に至ることが決して無いようにしないといけない。

つまり「病気」ではないが「健康」でもない "Sub-clinical" な状態があることを人々が理解し、向き合う必要がある。
この理解によって楽になる人が大勢いるだろうし、「病気ではなくても、つらいんだね」と理解してあげられる優しさが当たり前になればいい。そうすれば、結果的により多くの人が自分のメンタルヘルスについて正しく知ることができるようになると思う。

優しい世界になってほしい。

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