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イタリアの秘境を行く #8 モリーゼ編 パンパネッラを知っていますか


パンパネッラ老舗2店を食べ比べ


モリーゼ州の郷土料理で異彩を放つパンパネッラは、ペペロンチーノ(唐辛子)のピカンテ(辛い)とドルチェ(甘い)の両方の粉をブレンドして豚肉にまぶして蒸し焼きにするオーブン料理。モリーゼ州の食文化はお隣のアブルッツォ州と似ていて独自なものはなかなかないけれど、このパンパネッラはモリーゼ料理と言われている。日本の数少ないモリーゼ関係者やイタリア人に聞けば、パンパネッラならモリーゼの中でも発祥の地のサン・マルティーノ・イン・ペンシリスの店<La Bella Martinese>か<Panpanella La Vecchia>だと言う。複数関係者の証言により、私たちはこの2店に照準を合わせた。レストランで食べることももちろんできるのだが、せっかくならばパンパネッラ専門店の味を食べてみたい。
最初に訪れたのが<La Bella Martinese>。ノリの良い店主が厨房に入れてくた。

<La Bella Martinese>の店主。日本にパンパネッラを売り込む気まんまん。

材料はシンプル。豚のパンチェッタ(お腹の部分)や肩肉を塩・ニンニク・唐辛子(辛い・甘い)をまぶし、最後にワインヴィネガーをかけて、冷蔵庫で2−3日くらい寝かせる。その後、300℃のオーブンで3時間ほど蒸し焼きにする。「昔は豚肉のにおいが強かったから、今よりもっと唐辛子を使い、味も辛かった」のだそうだ。

毎年8月30日、この町ではパンパネッラ祭りが行われる。元々はオリーブやブドウの収穫期に食べるご馳走だった。驚いたのは当時の作り方。今でこそオーブンで蒸し焼きだが、かつては土を掘って、ブドウの葉で豚肉を覆い、土の中に埋めて蒸し焼きにした。ブドウの葉は水分が多く、蒸し焼きに適していたのだそうだ。(パンピーニという・パンパネッラの語源)。これ、どこかで聞いたな。何かに似てるな。そうだ、ペルーのパチャマンカ。やはり土を掘って窯にしてバナナの葉で肉や魚、野菜も包んで焼き石で蒸し焼きにする古代の料理。ペルーの他の南米やポリネシア系でも同様の料理があるとは聞いていたが、まさかのイタリア、まさかのモリーゼでも。きっと昔はどこにもあって、イタリアの中で残ったのがここだったと言うことなのかもしれない。

突然やってきた3人の日本人があまりに興味津々なもんだから気をよくしたのか、店主は随分な量のパンパネッラをプレゼントしてくれた。「日本でパンパネッラ行けるんじゃないかと思ってるんだ。君ら以外にもわざわざ食べに来る日本人がいたんだよ。日本人はこの味好きだっていうんだ。日本でパンパネッラのプロモーションやる時は、絶対俺を呼んでくれ」。

もう一店の<Panpanella La Vecchia>は、渋い燻し銀的雰囲気。言葉少なで職人気質のご主人が淡々と仕事中だった。こちらは冷蔵庫で寝かせるのは1日で焼き時間は2時間ほど。肩肉やパンチェッタ(お腹)、首肉なども。

<Panpanella La Vecchia >夕食前の時間帯にはほとんど完売。

さて、宿泊先のアパートに着いて食べ比べ。

こちらが<La Bella Martinese>ピカンテよりドルチェ(いわゆるパプリカ)の割合が多い。3:7と主人は言っていた。
 
<Panpanella La Vecchia>こちらの方が水分が抜けている印象。

 老舗二店を食べ比べた瞬間的な印象。
⚫️Panella La Vecchia パンパネッラ・ラ・ヴェッキア
シンプルでさっぱりしている。たくさん食べるならこちらの味付け。皮の部分が特にジューシーで美味。
⚫Panpanella La Bella Martinese パンパネッラ・ベッラ・マルチネーゼ
味付けもりもりで攻め込んでくる感じ。旨み・甘み、パンチも強い。中華の麻辣的な中毒症状が起きそう。ワインよりビールだな。

パンパネッラのペペロンチーノ

<Panpanella La Bella Martinese>の店主が、パンパネッラを用意しながらいいことを教えてくれた。

「パンパネッラを焼くと、肉の旨みが移った脂が出るんだけど、そのオイルで作るペペロンチーノが美味い。その時使うパスタは、絶対にモリサーナのクアドラートじゃないとダメなんだけど。うちはこれをよくやるよ」

モリサーナは、モリーゼ生まれのパスタメーカー。日本で知人が扱うパスタで実はよく食べているパスタだった。それを伝えるとますます店主は大喜び。
クアドラートと言うのは四角いという意味で断面の四角いパスタ。アブルッツオのキタッラのような断面だが、手打ちでなく工業製で断面が四角なパスタはモリサーナのクアドラートだけらしく、同社のシグニチャーである。
「モリサーナは日本でも買えるのか。絶対それは日本でパンパネッラと一緒に売り込んだ方がいい。その時は俺を呼んでくれ」
と最後まで日本行きを熱望するパンパネッラの店主だった。

この日からは海沿いの都市、テルモリに三泊の予定。なので宿代わりにアパートを借りて近所のスーパーでモリサーナのパスタを買い、料理家の千夏さんがパンパネッラを食べた後にペペロンチーノにトライしてくれた。残念ながらクアドラートは売り切れだったので、食感が比較的近そうなスパゲッティ・グロッシを購入。

モリサーナは中堅のパスタメーカー。日本でも比較的手頃な価格で買えて味も良い。コスパが非常に高いパスタ。


オリーブオイルにパンパネッラ屋さんのミックス唐辛子粉を溶かし込み、パンパネッラも混ぜて、焼いた後の脂に近い雰囲気を再現。
茹でたパスタをしっかりペペロンチーノオイルに和える。
追いペペロンチーノも良いとのことだったので、そちらも試してみた。

これはもう絶対皆が好きな味。中華を思わせる油脂と辛味の絡む爆弾のような旨み。中華屋さんの裏メニューとかでやったら受けるだろうな。麻婆豆腐に浮いている肉の旨みを溶かし込んだ辛味脂のような感じ?豚が良ければ脂もなおさらに旨い。麺にしっかりと絡ませれば絡ませるほど、危険なおいしさである。

日本で再現決定。皆、胃袋を鷲づかまれるでしょう。

今後の取材調査費に使わせていただきます。