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0002 紅梅(読書)

吉村昭は読んでいるが、吉村昭の奥様であり、作家の津村節子氏の作品は読んだことがなかった。
振り返ってみれば、女性作家の作品はあまり読んだことがない。男性作家の方がしっくりくるのだろうか。

吉村昭の晩年を描いた作品である。
自宅で、自分の命をつないでいる機器を自分で引き抜き、彼は亡くなった。
初めて読む津村節子の作品だが、どことなく吉村昭に似ていて、どんどん読み進めた。

じわじわと病が死を伴って形を成していく。
お互いを思いやりつつ、そばにいてほしいと思っていたであろう、痕跡が読んでいてつらい。
若い頃に胸を病み、当時の最先端の手術を受けた吉村昭は、術中のすさまじい痛みを乗り越えた人だ。一生分の痛みをここで味わっただろうに、まだ病の痛みは彼を襲うのかと、津村氏の悲しみが伝わってくる。

弟をがんで亡くすまでの、吉村昭の作品を読んでいるだけに、その本人が迎える死が、非情なまでにストイックで、残される方は何の余韻もなく、取り残される。息子はどこか、男同士で何か同じものを共有している雰囲気はあった。こういう時、女は入り込めない何かを感じる。
性の多様性、とはいうけれど、このご家族の場合、息子と父の関係に、娘も妻も入れない、と私は感じた。

しかし、妻と夫の間にも、何者も入り込めない世界がある。
出会ってから、作家として暮らしていけるようになるまでのこを思い返しながら読むと、津村氏が吉村氏に最期にかけた言葉は、「最高の戦友」だった証ではないだろうか。そういうものは、女房だってなれるものではないのだから…。と最後通勤電車でしんみり泣きそうになってしまった。

いい本を読んだ。またいつか、いいタイミングで読み返すだろう。

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