あの夏の一瞬

全てのやる気を奪うような退屈な夏休み。

母方の祖父母と母たち三姉妹、その子供達で、淡路島の古くて大きい民宿に一泊するのが恒例行事となっている。

その民宿は、海水浴場から道路を挟んだ先にある。くねくねとした急な細い坂道を登った先にある。もうずっと使われていない畳の部屋がいくつもあって、お仏壇と扇風機が薄暗い部屋の隅に追いやられていた。そこから渡り廊下を渡った先がいつものところ。海に面した横長の部屋で、奥に設けられた縁側は、海から吹き上げる潮風が心地よかった。高校生の頃は日焼けするのが嫌で、一人そこで本を読んだりしていた。

ある夏、いつものように皆でビーチボールで遊んだり、少し沖にある休憩所の浮きまで泳いで飛び込んだりした後、それぞれが何にも言葉を発さずにただただ浮かんでいた。

海の波に揺られ空を仰ぐ。遠くに浮かぶ入道雲、視界いっぱいに広がる夏の青い空、潮のにおい、包み込まれるような波の音。





もう、何も考えなくていいあの退屈な日々に戻ることはできないかもしれないけれど、心地よい一瞬の記憶があれば、いつでもそこに帰れるような気がする。

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