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ブックレビュー「ナイフをひねれば」【ネタバレなし】

あらすじ

作家・アンソニーは、自身が脚本を書いた劇を痛烈に批判した劇評家・ハリエット殺害の容疑者として逮捕されてしまう。次々に出てくる証拠や迫るタイムリミットに憔悴しながらも、自らの無罪を証明するため、元刑事の探偵・ホーソーンとともに事件の真相に迫っていく。

感想

はじめに断っておくと、私はそう頻繁にミステリを読むほうではない。
これまで読んできたものと言えば『十角館の殺人』くらいのもので、ミステリというジャンルそのものに造詣が深いとは到底言えないことを、言い訳させて頂きたい。

本書はイギリスの作家、Anthony Horowitzによる「ホーソーンシリーズ」の第四作だ。とはいえ、第一作から三作まで読んだことがない人でも十分楽しむことはできる。実際私もそうだった。

この作品の面白い点は、まるで現実の体験をなぞったノンフィクションであるかのように描かれている点である。著者のアンソニーはそのまま物語の中で語り手として登場するし、現実と虚構の繋がりが随所にみられる。シャーロックホームズでいえば、ワトソンによって描かれた物語をコナンドイルを介さずに読んでいるようなものだ。この仕掛けは想像以上に、物語への没入感を高めてくれる。

キャラクターも全員特徴が際立っていて面白い。特に海外のミステリにありがちだが、三章ほどまたいで登場したキャラに「あれ、これ誰だっけ」となる現象が、本作ではほとんど起きなかった。私は人の名前を覚えるのが苦手なので、都度本の最初にある<登場人物一覧>に戻らずに済んだのは本当にありがたかった。
登場人物たちに分かりやすい個性や印象的な経歴を持たせ、容疑者それぞれに殺人の動機、機会があることを示して読者たちを翻弄する見事な展開にしてやられ、私は最後まで犯人を当てることはできなかった。

結論として、このミステリは本当に読みやすく、面白い。翻訳本特有の読みにくさもなく、次々に明らかになる真実と、それにも関わらずさらに深くなっていく謎、それをまとめ上げるホーソーンの敏腕っぷりには、「ああ、ミステリを読んだぞ!」という達成感があり、非常に心地よかった。ずっと抑圧されていた謎が、全ての伏線を巻き込みながら解放されていくときの気持ちよさ。これは、シリーズの他の作品も読まねば。

おすすめ度:90/100



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