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オンラインでも伝わる研究発表の4ポイント

5/8に「オンライン研究会のすすめ方」と題したオンライン・ワークショップを開催しました。
テクニカルワークショップ「オンライン研究会のすすめ方」

外出自粛が続くこの2ヶ月の間で、オンラインによる研究会開催の需要が急速に拡大しています。
オフラインで開催する予定だった研究会をやむなくオンラインで開催、という場合もあると思います。
今回のワークショップは、オンライン研究会をオフライン研究会の代替手段として位置づけるのではなく、オンライン研究会だからこそできることを整理し、オンラインの特性をより活かすための研究会のデザインを考えるために企画しました。

この記事では、当日のワークショップで私から皆さんに話した「オンラインでも伝わる研究発表の4ポイント」を改めて文章で整理しようと思います。
(なおワークショップではオンライン研究会のファシリテーションについても取り上げたのですが、それについてはまた改めて書きます。)

オンラインでも伝わる研究発表の4ポイント

ワークショップの前半ではオンライン研究会でのプレゼンテーションを取り上げました。
と言っても、プレゼンテーションで大切なことは、オフラインであろうとオンラインであろうと変わらないと私は思っています。
ですからここに書くことは、オンラインではもちろんのこと、オフラインでも必ず役に立つスキルです。

伝わる研究発表を決める要因は、大きく分けて2つあります。
1つは中身的要因。話を構成する要素がそれぞれ有機的に関連し、秩序立って並べられていることで、聞き手は話の内容をすんなり理解することができます。
もう1つは外見的要因。スライドを使うことによって、言葉だけでは伝えにくい視覚的な情報を伝えることができます。しかし文字で埋め尽くすようなスライドではかえって聞き手を混乱させてしまい逆効果です。言いたいことが一目でわかるようなスライドをデザインすることが大切です。
※参考図書:宮野公樹『研究発表のためのスライドデザイン』講談社ブルーバックス新書

研究発表の中身を精練する方法、そして外見を改善する方法には、それぞれ色々とありますが、今回は以下の4点を取り上げました。

①問いのタイプ
②問いかける相手
③話の構成と時間配分
④デザインの4原則

①問いのタイプ

研究にはresearch questionが欠かせません。
しかし問いであればどんなものでもいいというわけではありません。
口頭発表には口頭発表向きの、論文には論文向きの、そしてポスター発表にはポスター発表向きの問いというものがあります。
九州大学の下地理則さんは、口頭発表に向いている問いは「閉じている問い(closed question)」だと言います。
私もこの意見に賛同します。

閉じている問いにはいくつかの定義がありますが、ここでは「答えが1つに絞られる問い」と定義します。
具体的に言えば、YesかNoの2択で答えられるような疑問文(Yes-No question)、もしくは決められた選択肢の中から答えを選ぶような疑問文(Which?)です。例えば以下のような疑問文が考えられます。

例1:××(先行研究)の記述は妥当か?(YesかNoのいずれかで答えられる)
例2:仮説Aと仮説Bのどちらが妥当か?(AかBのいずれかで答えられる)

閉じている問いは、答えの可能性があらかじめ制限されているので、その分聞き手への負担が小さくできます。反対に、開いている問いは、答えが自由に考えられるので、どんな答えが導かれるかを聞き手があらかじめ予想することが難しく、「どんな結論になるかわからない」という不安感を聞き手に与えてしまいます。

②問いかける相手

問いのタイプに加えて、その問いをどんな相手に投げかけたいのかも大事なポイントです。
問いは、適切な相手に投げかけないと、きちんと機能しません。つまりその問いの持つ価値や意義、そして答えの妥当性をきちんと判断できる聞き手に投げかけなければ、自分が望んでいるような反応が返ってくることは期待できません。

たとえば自分と同じ研究対象・研究領域の人ばかりが集まる研究会であれば、問題意識や価値観が共有されています。
このような場では、その問いを取り上げる背景や、その問いに答えることによって生まれる意義についての説明が最小限であっても、発表内容が充分に伝わることが期待できます。

しかしより広く人が集まるような学会では、同じ問題意識・価値観を共有していない人が発表を聞きにくることがありえます。
そのような場では、あまりにも具体的で細かい問いを投げかけても、その価値や重要性が充分に伝わらない可能性があります。問題意識・価値観を共有していない人にまで内容をきちんと理解してもらおうとすると、本題に入る前に提供しなければいけない前提知識が多すぎて、発表時間内に収まらなくなってしまうからです。
したがって本論の議論を理解するのにあまり予備知識を必要としないような、やや抽象的・一般的な問いの方が、ふさわしいといえます。

③話の構成と時間配分

論文の雛形は「序論・本論・結論」の三部構成です。これに加えて、序論の前に論文の要点を簡潔に伝える要旨が求められる場合も多くあります。
本論には方法(Methods)と結果(Results)と議論(Discussion)の3つの要素が含まれます。序論(Introduction)と合わせた4要素はIMRADと呼ばれ、論理的な文章構成の型としてよく知られています。
プレゼンテーションも序論・本論・結論の三部構成で構成して間違いはありません。ただし、論文の場合と比べて、要旨はより欠かせない要素になります。発表の冒頭で内容の要点を短く伝えて話のオチをあらかじめ知らせておくことで、聞き手は内容に集中することができるからです。
(意外なオチを最後まで取っておいて聞き手をびっくりさせる、なんてことは研究発表ではやる必要はありません)

さて、要旨+序論・本論(方法+結果+議論)・結論の構成は、すでに多くの方がプレゼンテーションで採用しているのではないかなと思います。
しかしそれぞれの適切な時間配分については知らない方も多いのではないでしょうか。
木下是雄『理科系の作文技術』によれば、最初に「どのような目的で、どんな研究をして、どんな結果を得たか」を1分程度で話すよう促しています。木下氏は、発表の冒頭でこれらの情報を話さない人の発表は無視しした方がいいことが多いと述べています(私自身の経験からも同じことが言えます)。
結論では、本論の内容を要約し、今後の研究の展望を述べます。それぞれ1分弱くらいかかるとして、合わせて2分程度になります。
ではそれ以外の序論と本論の3つのパートを残り時間でどのように配分すればいいでしょうか。20分の発表で考えるとすると、要旨に1分、結論に2分で、残り時間は17分です。
やはり木下是雄『理科系の作文技術』によれば、序論・方法・結果・議論はおおよそ均等に割り振るつもりで話を組み立てるのが良いと言っています。木下氏はこれを1/4原則と読んでいます。私は修士1年のころに初めてこれを知ったときから一貫してこの原則を守り続けています。

1/4原則(発表における時間配分の原則)
 序論:方法:結果:議論 = 1:1:1:1

要旨と結論を除いた残りの17分を4パートで均等に割り振ると、それぞれは4分強ということになります。序論に方法・結果・議論と同じだけの時間を割り振るのは多いような印象を持たれるかもしれません。その点について木下氏は次のように述べています。

研究の背景を説明し、自分のねらいを明らかにすることは、…特に重要である。なぜかというと、聴衆の過半が理解できるのはここまでーー要旨と序論だけーーかもしれない;しかし、ここまでがちゃんとわかれば、聴衆は自分なりにその研究を評価し、必要と思えばあとで発表者に話を聞きに行くこともできるからだ。
(木下是雄『理科系の作文技術』中公新書: pp.217-218)

また、木下氏は、序論に充分な時間を割くことと同時に、方法や結果について無用の細部を省いて話すことの重要さについても述べています。これは、もっとも伝えたいことが伝わるためには何を話すべきではないかをよく整理しろ、ということだと思います。1/4原則は、伝わるために削るべきではない情報を残し、逆に無くてもよい情報を大胆に削る、その取捨選択をするための基盤と言えるかもしれません。

④デザインの4原則

iPS細胞でノーベル賞を受賞された山中伸弥教授がインタビューで次のように答えていらっしゃいます。

私は、スライドの発表は、紙芝居だと思っています。見せるのはあくまで「絵」であって、「文字」ではない。
※参考URL: https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50021

しかし文字を見せるためのスライドを頻繁に研究会で見かけます。話す内容と同じことをスライドに書き出すだけだったら、それは単なる発表用のメモに過ぎません。スライドは聞き手の理解を促すようなものでなければ意味がありません。

ではスライドをただの文字の羅列にしてしまわないためにはどうしたらいいでしょうか。スライドに限らず、デザインには4つの基本原則があります。

1. 近接(関連のある項目同士を近づけ、関連のない項目同士を離す)
2. 整列(要素と要素とのあいだに視覚的なつながりを演出する)
3. 反復(デザイン上の特徴をくり返し使う)
4. 対比(異なる項目の違いを大胆に演出する)
※参考図書:Robin Williams『ノンデザイナーズ・デザインブック [第4版]』マイナビ出版

1. 近接
1枚のスライドの中には、いくつかの情報が盛り込まれているはずです。
その中で互いに強く関連づけられる情報はどれとどれでしょうか。反対に区別されるべき情報はどれとどれでしょうか。
近接は、関連する情報同士のあいだを視覚的にも近づけて配置し、逆に関連しない情報同士のあいだは離して配置するという原則です。これによって、いくつの情報群がスライドにあるのかが一目でわかるようになります。

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上の画像は、私が修士時代に作ったスライドを近接の原則に従って修正したものです。修正前は4つのポイント同士が接近していますが、修正後はそれぞれの間を空けてあります。この修正によって、ポイントが4点あることが一目でわかるようになりました。

2. 整列
スライドの情報はすべて意識的に配置する必要があります。無意味な配置は聞き手に余計な混乱を与えることになります。要素同士が何らかの形で視覚的につながっていなければなりません。

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上の画像を見てください。左のスライドではすべてのテキストが左寄せで配置されています。これらの文がすべて同じレベルの情報であれば、これでもいいかもしれません。しかし実際にはこれらのテキストは3つのレベルに分けられます(よく見ると行頭の記号に3種類あり、それがレベルの違いと対応していることに気がつきます)。
それを視覚的にもはっきりさせるよう修正を施したのが右のスライドです。こちらはインデントを変えることによって、3つのレベルの情報が並んでいることを表現しています。

3. 反復
デザイン上の特徴を反復して使う
と、別々のスライドにある情報同士に結びつきが生まれます。そういえば、この文章の中でも、重要な情報は太字にするという特徴を繰り返して使っています。

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このスライドでは、発表の中でくり返し注目することになる2つの観察ポイント(摩擦成分とフォルマント)をそれぞれ水色とオレンジで示してあります。そしてこの色分けは観察の中でも繰り返し使います。

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修正前に比べて、修正後のスライドでは、摩擦成分とフォルマントのどちらの特徴をどこで観察しようとしているのかが一目瞭然になっていると思います。

4. 対比
1枚のスライドで異なる2つのものがあるとき、その2つの違いは大胆に表現するというのが対比の原則です。重要な情報と補足的な情報とがある場合、太字にしたり赤字にしたりすることがよくおこなわれていると思いますが、それではまだ控えめです。やるならもっと大胆にやりましょう。

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左のスライドは重要な情報を赤字で示していますが、他のテキストとの違いはその1点のみです。これでは他のテキストに重要な情報が埋もれてしまっています。
そこで次のように修正してみました。まず最も目立たせたい情報を赤地白抜きにしました。地の色が違うのはこのスライドではここだけですから、真っ先にこの部分に目がいくはずです。
次にフォントサイズを調整して、重要な情報を大きく、補足的な情報を小さくしました。フォントサイズに差をつけることで、重要な情報が補足的な情報の中でも浮き上がって見えるようになります。

オンラインで発表するときの注意点

はじめの方でも書きましたが、オンラインだろうとオフラインだろうと、わかりやすさを決める要因は変わりません。筋道だった話ができているか、そして見やすいスライドになっているかが重要です。

それでもやっぱりオフラインに比べてオンラインではやりづらいところがあるのも確かです。今回私がワークショップで話していて気づいたことを最後に簡単に記しておきます。

まずスライドを使って話をする場合、視線をどこに置くかがとても難しいです。スライドを見ながら話をすると、カメラの位置にもよりますが、私も場合は少しうつむくような感じで写ってしまいます。聞き手側の画面にもスライドが共有されているのでそこまで気にする必要もないのかもしれませんが、私としてはなるべく「正面」を向きたいと思いました(オフラインでの発表でもなるべく前を向いて話すよう心がけているので)。
何度かリハーサルをして見た結果、カメラのやや下を見て話すとちょうどいい、ということがわかりました。もし私と同じように「正面」を向いて話したいと思った方は、事前にスクリーンショットを撮ってみるなどして、話しているときの自分の顔が相手にどのように見えているかを確認するといいと思います。

それからスライドを画面共有するとそれが画面いっぱいに表示されてしまい、聞き手の反応が一層見えづらくなってしまうのですが、これもオンライン特有のやりづらさを生む一因ではないかと思います。聞き手の反応が見えれば、それに応じて話の構成を変えてみたり、補足的な情報を入れ込んだり、具体例を付け加えたりして、話を修正することができますが、それをすることがオンラインでは困難です。
この点について、私はチャットを活用するのが一番の解決策だと思っています。つまり発表中に質問やコメント、反応をチャットに書き込んでもらいながら聞いてもらうのです。慣れないうちはチャットを見ながら発表するのは難しいかもしれませんが、慣れてくればコメントを見ながら情報を付け加えたり言い換えをしたりすることができるようになるのではないかと思います。

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