見出し画像

『ハウリングの音が聴こえる』松村雄策

松村雄策の新刊が出版された。河出書房のページから引用する。

" 2022年3月に逝去した音楽評論家・松村雄策が贈る11冊目のエッセイ集。「僕の人生の六分の五には、いつだってポールの音楽があったのだ」――「小説すばる」の連載が待望の書籍化。"

新刊ではあるが、そういう本である。しかし、冒頭に収録されている「コージョライズ」を読んで驚いた。発表されたのは小説すばるの2014年4月号とあり、ポール・マッカートニーの " 2013年 OUT THERE JAPAN TOUR " について書かれたものである。何故、驚いたのかと言うと、10年前に書かれたものなのに、つい最近、まるで今そこで書かれたような一編だったからだ。文章が生きているのだ。内容は松村さん自身の62年の人生をポール・マッカートニーと重ねているだけである。ただそれだけなのに、ここだけで一冊の小説を読み、一本の映画を観た気分になった。僕が言わんとしていることは、きっと松村さんのエッセイを愛読している人には伝わると思う。「コージョライズ」は、初めから終わりまで、100%の松村雄策だった。

『オール・ザ・ベスト』のオマージュが素敵

小説すばるの連載は知らなかったので、すべてが初めて読むものばかりであった。ドラマ『北の国から』にふれていたり、今でも個人的に印象に残っている『岩石生活入門』の「知らない足跡」のリプリーズ的な一編があったり、松村さんのLPが紙ジャケCD化された際のトーク・ライヴと、この本を編集された米田郷之さんによる「本書について」に書かれているトークイベント「ジョン・レノンは、眠らない」のふたつは僕もその場にいたので、僕自身の個人史とも重ねて読むことができたのは想定外の嬉しさだった。

" これがビートルズだ "

この、最後に収録された「それでは、皆さん、さようなら」を締めくくる一文を読んだ直後、きっと誰もが思ったことだろう。

" これが松村雄策だ "

12冊目の新刊がいつか出ることを祈って。

僕の人生の六分の五には、いつだってポールの音楽があったのだ(松村雄策)

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?