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角谷リョウx宮木俊明「快眠が生み出すイノベーションーアンラーンから始まる『変化の自分ごと化』」(4)

角谷リョウx宮木俊明「快眠が生み出すイノベーションーアンラーンから始まる『変化の自分ごと化』」(3)の続きです


長年の習慣、価値観を変えるのはむずかしい

角谷 睡眠改善って、実はめちゃくちゃむずかしくて、朝起き方変えましょうとか、ナイトルーティンつくりましょうって、本当にむずかしいんです。
なぜなら「日中めちゃくちゃがんばって、意志力(ウィルパワー)をすごい使ってるんだから、夜ぐらいは好きに飲ませてよ、スマホ見てもいいじゃん」ってことが起こるから。マネジメント力がすごく下がるんですよ。

僕ね、睡眠を改善しようとする人たちに研修で必ずお話しするんですね。「睡眠とれてる人たちにマウンティングされてると思うんですけど、睡眠とれてる人たちって、日中さぼってるんですよ。日中さぼってるから夜ジムに行ったりできるけど、その人たちが運動したり、ヨガしたりしてるときにあなた方はがんばってストレス受けて仕事してるからこうなっちゃってて、大変ですよね」って。僕、本気で思ってるんですよ。

役所務めのときも思ってたけど、五時になったら「ジム行きます」とかって帰ってる人って、めっちゃ眠れてると思うし、そいつらのツケが全部こっちに回ってきてるってことでしょ。そんなやつらに「お前ら健康じゃないから、こういうことしてください」って言われたら、ふざけんなよ、って思いますよね?
なんて言うんですかね、やるせないですよね。その人たちのせいでがんばらざるを得ないのに、まるで会社の癌みたいに言われるなんて。

だから「すごくむずかしいんだよ」って話から入ることにしてるんです。
やっぱり、価値観ってなかなか変えられないですね。夜遅くまでがんばって働く人は、夜は早く寝て英気を養うんだみたいな世界観がないんですよ。
「若い頃は徹夜続きで、俺は寝ずにがんばったんだ」みたいなことがかっこいいとされた五〇代は、新しい人の感覚についていけてないんですよね。

つまり、睡眠を変えられない根底にあるのが、いままでの考え方でいいじゃん、なにが悪いの、っていう「受け入れなさ」なんです。

宮木 でも、わかります。価値観とかそれに基づくライフスタイル、生活習慣は長く続けているからこそ変えがたい。

どうでもいいことから変えていく

角谷 だから、僕らが行動変容を促すときにこんなふうに言います。
人ってコアな価値観があるじゃないですか。たとえば「お酒は人生の友である」みたいな価値があったとするじゃないですか。そういう人に、寝る前の酒を減らしましょうって言っても、「いや、俺は酒とともにあるんだ」とか「親父もそうだったしおじいちゃんもそうだった」とか、人になに言われても変えたくないと思うんですよ。

だけど、いちばん外の「変えてもいいかなゾーン」、たとえば裸で寝てるけど、べつにこだわりがあるわけじゃなくて、パジャマあるなら着ようかな、みたいな、どうでもいいゾーンから変えていくんです。

角谷 「変えてもいいかなゾーン」から、いくつか変えてくと、けっこう習慣レベルが上がっていくんです。これ認知行動療法なんですけど、認知が変われば行動が変わります。

みんなね、コアな価値観から入ったりするから難しいし、長続きしない。その手前の、あなたの「変えてもいいかな」ゾーンで、めちゃくちゃ効果的なものを一緒に探しませんか、みたいなことだったら反対する人だれもいないですよ。

宮木 これはいま聞いてるみなさんもめちゃめちゃ一安心じゃないですか。僕の価値観には、やっぱりお酒が入ってるので、やめろって言われても、わかってるんだけどさってどうしても抵抗したくなっちゃう。
「変えてもいいかなゾーン」でいいんだ……。

角谷 そうです。この「変えてもいいかな」ゾーンでめちゃくちゃ睡眠改善されることって山ほどあるんですよ。究極言うと100均とかでなにかグッズ買っただけで終わりです。意思力使ってませんみたいなこといっぱいあるわけだから。

それで、変わって、いいじゃん、いいじゃん、メリットあるじゃん、が積み重なってくると、これも変えてみようかな、って次の段階に進んでいけるんですよ。ちょっとずつレベルを上げて、あ、けっこう大物(大事な価値観)も変えられるんじゃね? ってところまでいけたりする。いままで信じてたものも変えられて、そうすると、かなりアイデンティティみたいなものも変わっていける。

だけど、たとえば会社から一方的に、「お前の考え方変えろ」って言われると、「そうですね。俺、老害にはなりたくないし変わります」って言うけど、反動で、「いや俺は絶対これでずっと死ぬまでやってくんや」みたいな感じになっちゃう。これがよく起こりがちなことです。

「変えていいかなゾーン」からじゃないと、やっぱり変わらないです。習慣化もしないし。自分のペースでやってくってことが大事です。

宮木 いきなり本丸に攻めいらずに、外堀埋めながらっていうね。

今回タイトルがリスキリングセッションで、副題に「アンラーン」って入れさせていただていますが、これは大人になっても新しいなにかを身につけましょう、新しいスキルを身につけましょうってことです。
一方的に詰め込み続けていても効率的じゃなかったり、本質的な変容って起こらなくて、だから「アンラーン」でいったんゼロに戻す、忘れる。これまで長くつき合った習慣みたいなものをリセットするみたいなことが必要だと言われています。ただ、いきなり、めちゃめちゃ自分がずっと長年大事だと思っていたものを捨て去れって言われても、やっぱり抵抗するじゃないですか。
だから、ちょっとしたこと、「変えてもいいかな」ゾーンから始める。これは、睡眠についてだけじゃなくて、あらゆるビジネススキルや、新たに自分に変化をもたらしたいときに、まず取り組むべきところなんだなって、すごく納得しました。

効果を実感すると続く

角谷 ここも価値観ですけど、「痛みなくして成果なし」みたいな、そういう価値観もあると思うんです。だけどやっぱりそこって厳しくて、人間って五〇代だろうが、六〇代だろうが、やっぱり「やって意味ある」ことじゃないと続かないんですよ。

とくに苦手な分野ってそうです。得意な分野だと、痛いことが楽しいみたいなところがあるからどんどんいくんだけど、こういう、睡眠だったりいろんな新しいスキルって、「こんだけしかやってないのに、こんなによくなった」って、お調子に乗せてかないと。

テストの点数でもそうですけど、二〇点を三〇点、四〇点にするってめちゃくちゃ簡単じゃないですか。七〇点、八〇点を一〇〇点にするのはむずかしいけど。
だから、もともと低いものってなにをやっても効果あるんですよね。でも、二〇点から四〇点になると、倍になってるわけだから、すごく効果を実感しやすいんですよね。

宮木 ごく簡単なことでも、ちょっとでもいいからなにか効果を実感できれば、それをステップ・バイ・ステップで倍増させていくっていうことですよね。

角谷 その設定がうまくいけば、成果が出てくるのかなと思います。

深刻なことは軽くやる

角谷 睡眠不調、危険という人が認知行動療法マンツーマンで、半年でセーフティに入る率が五割です。
ところが、うちは危険判定された方二〇人ぐらい一緒にやるんです。一ヶ月で八割以上の人がセーフティに入るんですよ。個人でやるよりグループでやったほうがいいっていうロジックを使ってます。

個人コーチングって密室でやるんで、どうしてもメンタル改善も出てきます。悩みを聞いたりしていくと、「私は悪くないんです」みたいな話になってくるんですよ。「会社が悪いんです、世の中が悪いんです」みたいな話になって、ループする。
カウンセリングって吐き出さなきゃいけないし、共感しなきゃいけないみたいのがあって、共感してるうちに一時間終わった、そのうち一ヶ月過ぎた、みたいなことが起こっちゃったりします。

でも、睡眠のアプローチってめちゃくちゃよくて、明るいんですよ。「悩んでて眠れないし、夜中五回起きるんですよねー」って。本当はメンタルを病んでる象徴なんですけど、それを明るく表に出して、じゃあどうする?って明るい場でやってる。深刻なことは軽くやるんです。

精神疾患のやり方でもすごくいいとされているオープンダイアローグっていうやり方があります。薬を使わないでみんなを巻き込んで、対話のなかで精神をよくしていくっていうやり方です。日本でも最近やってるところが増えてるけど、薬以上に効果があって、戻る率が低いんです。

宮木 睡眠って、すごくプライベートなことでひとりで取り組むみたいな先入観を持ってしまってたと気づきました。同じ課題をもつ仲間と一緒に取り組むんですね。

角谷 やったもん勝ちじゃないけど、睡眠が改善していく仲間を見ると、やらなきゃ損じゃんみたいに思いますよね。健全だし、変わっていくのも早い。

環境→行動→意識の順で

角谷 アンラーン、学びほぐしとかリスキリングっていうのは、睡眠改善やるプロセスで身についたりするんです。

角谷 この四ステップはすべてに応用可能です。このステップと、「本気」と「お手軽」の二コースあるっていうことを覚えてください。

最初の「環境を変える」っていうのが、めちゃくちゃ重要なんですよ。みんな思想から変えようとするんですけど、戦争が起こったり、大事な人が亡くなったりとかいう、むちゃくちゃハードなことがあれば、価値観も変わることもあるけど、日常、ふつうに生きてて価値観とか嗜好が変わりますか? って話なんです。

まず環境を変えるっていうのが、いちばん最初。いちばんやりやすい。グッズ買ったりするのみなさん好きでしょ? みんな物買うの好きだし、役立つものならなおさら。買う欲求も満たされて、しかも睡眠がよくなるみたいなことがあるんで、まず睡眠の環境からです。

これでよくなっちゃう人もいるんですよ。人ってきっかけなんです。いままでのループにがんじがらめになってるから睡眠が悪い人がいっぱいいて、ちょっと環境変えて、なにかひとつきっかけがあれば、サクっと変わる人も二、三割います。一〇〇円で買ったグッズがきっかけで、とかね。

次に睡眠圧をあげる。行動を変える。行動も、運動もやりやすいやつ、変えてもいいやつ、ハードル低いやつで効果的なものをやります。その次がちょっと難しい行動。最後に思考とか意識のオフ。

このステップでやってくのがめっちゃ大事で、これやりながら、実際どんどんよくなって力がついていって、武器を身につけてる感じ。ロールプレイングゲームで言うと、だんだんだんだん強くなって強敵になってくって感じです。
みんな丸腰でボスキャラに挑むから失敗するんですよ。

宮木 ついつい、ステップ③とかステップ④からいきがち。でも、まずは、自分の努力じゃなくてモノでなんとかしようってことですね。そのほうが気が楽です。

角谷 そうなんですよ。
ひとつね、睡眠圧を上げるって、なにかって言ったら、不眠症の人って「寝なきゃ」って扁桃体が興奮して寝れないんだけど、もうね、寝なくていいですよ。その代わり張り切って起きてください。張り切って起きてたら起き続けられないです。しっかり起きてないから寝れないんですよ。寝ることはできないけど、しっかり起きようと思ったらできるから。起きるぞってワーッてやったら、カクって眠くなる。

宮木 逆のアプローチですね。

角谷 実際にそのほうが寝れたりするんで。ほとんどの睡眠改善で③とか④にアプローチしちゃうんだけど、これは非常にむずかしい。

(5)に続く


角谷リョウ
Lifree 共同創業者・開発/快眠コーチ

NTT docomo、サイバーエージェント、損保ジャパンなどの大手企業をはじめ、計120社、累計10万人の睡眠改善をサポートしてきた上級睡眠健康指導士、日本睡眠学会学会員、日本サウナ学会研究員。
ビジネスパーソンを中心にプロアスリートや大学・高校・中学・小学生、またお受験の睡眠サポートも行なっている。
認知行動療法や心理学をベースにした独自の睡眠改善メソッドによるサポートを行っており、1回のセッション+簡易フォローで不眠症レベルの受講者の約70%が「正常範囲」まで改善。4週間の睡眠改善プログラムにおいては90%以上が「正常範囲」まで改善している。
「人は、強制されても生活行動は変わらない」をモットーに、楽しく自ら自分を変えたくなるようなサポートを追求している。
著書は『働くあなたの快眠地図』(フォレスト出版)、『働く50代の快眠法則』(フォレスト出版)。
宮木俊明
コニカミノルタ株式会社 ビジネス開発グループリーダー
Growth Works Inc. CEO
Trained facilitator of LEGO® SERIOUS PLAY® method anddmaterial
6seconds Certified SEI EQ Assessor & Brain Profiler
親子の休日革命 代表

ミッション:社会に挑戦者を増やすために、挑戦者を支援するとともに、自らもイノベーションに挑戦し続ける

大学卒業後、葬儀会社勤務、音楽活動を経て、商社の法人営業として2011年から3年連続トップ営業を達成しつつ、社内業務変革(今で言うDX)でも成果を挙げた。
2014年に創薬研究支援スタートアップとしてディスカヴァリソース株式会社を設立し、代表取締役に就任。大手製薬企業に採用された国内初の研究支援サービスは現在も活用されている。
2019年に教育ITベンチャーにジョインし、No.2として法人事業部門を統括するとともに、自らコンサルタント・講師として、全国の人と組織と事業の成長支援に奔走。
2021年からはコニカミノルタ株式会社のビジネス開発グループリーダーに就任。新規事業開発・人材開発・組織開発の「三位一体開発」による既存事業部発のイノベーションとして、印刷業界全体のDXに挑戦中。
BMIAには2015年から所属し、ビジネスモデル・キャンバスやバリュープロポジション・キャンバスを活用した新規事業開発コンサルタントとして活動開始。
2016年に経済産業省が主催するグローバルイノベーター育成プログラム「始動2016」に採択。イノベーターとしてのスキルセットとマインドセットを磨き、最終選考を経てイスラエル派遣メンバーに選出された。
2017年よりライフワークとして誰一人として親子の時間を犠牲にせず親子の学びと成長を支援するワークショップ・プログラム「親子の休日革命」を推進中。
2019年、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏のソーシャルビジネス・デザイン・コンテスト「YYコンテスト2019」のグランドチャンピオン大会に出場し優勝。日本代表として世界大会への出場決定 (新型コロナの影響で延期中)
2020年にソーシャル・ビジネス・カンパニーGrowth Worksを創業。イノベーションを志向した教育・新規事業開発・人材開発・組織開発の講師・コンサルタント・ファシリテーターとして、研修やワークショップの提供を通じて人・組織・事業・地域社会の成長を支援中。
著書:
『ひらめきとアイデアがあふれ出す ビジネスフレームワーク実践ブック』
『仕事はかどり図鑑 今日からはじめる小さなDX』


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