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ブランドは総合化より専門化が決め手

東工大と東京医科歯科大が統合に向けて協議を始めるようですね。『早ければ2024年春の統合を目指す。医療系と理工系を融合させる医工連携によって研究力の強化を図り、政府の10兆円ファンドによる巨額支援の指定を狙う。統合協議を通じて相乗効果を高める具体策を示せるかが焦点となる(日経新聞8月10日)』。この記事、ファンドの獲得(600億円程度らしい)によって研究活動を活発にし、研究分野を拡げて東大や京大といった総合大学に「近づく」ことを目下の目的としているようです。「ふーん」と気にもせず読んだのですが、一体、総合大学に近づくことにどれほどの意味があるかは疑問です。まず「近づく」というのは「負けないかもしれないけれど勝てない状況」であって、一体、それを目指すことは意味があるかということ。それよりも今の各分野でのナンバーワンに更に磨きをかけるほうが賢いのではないか。なにもそれぞれのナンバーワン・ブランド2校が一緒になることはないのではないでしょうか。そう考えると研究よりも経営的な生き残りやファンド獲得自体が目的なのだろうと勘繰ってしまいます。まあ大学は、ブランドなど大して興味がないだろうからそれでもいいのだけれど。

かつての首都大学東京を思い出しました。東京都立大学、東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学、東京都立短期大学を2005年に統合。ここには故・石原慎太郎元東京都知事の意向が強く働きました。石原さんが「まったく新しい大学を作る」と言って統合したのだけれど、ネーミング以外、一体、何が新しかったのか?結局、2020年に小池百合子知事のもと東京都立大学に名称変更。主に認知度の低さが理由でした。一体、この15年間は何だったのかと思います。結局、何が出来ていなかったかというと「首都大学東京とは何を専門とする大学なのか」がまったく伝わってこなかったこと、つまり典型的なブランディングの失敗だったと思います。失礼ながら、かつて首都大学東京の卒業生とこんな話をした時、意外にも大いに共感してくれて「だったら昔の都立大のイメージを踏襲するほうがいい」と言っていました。

ブランディングにはいくつかの法則があります。その法則の多くは僕がTHE BRAND BIBLE(総合法令出版)で紹介したことでもあるのですが、一つには「総合ブランド」というのは弱く、逆に専門ブランドは強いというものがあります。『賢いラーメン屋は敢えてエビチリを作らない。例えば、あなたはラーメンが食べたい時、中華料理のレストランに行きますか?あるいはラーメン屋に行きますか?ラーメン屋に行くはずです。なぜならラーメン屋のほうがラーメンに関しては専門家で、中華のレストランよりもラーメンにこだわりを持っていそうだからです。それを知っているラーメン屋のオヤジは、敢えて他の中華メニューを店で出そうとはしないのです。それは「トータルな品揃え」が必ずしも本業であるラーメンにとって得ではないから。敢えてラーメンだけに絞り込むことで、その街のラーメン需要を総取りすることを考えているのです。(THE BRAND BIBLE 137ページより抜粋/水野与志朗著・総合法令出版)』。

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今回の2校の統合はエビチリをつくるラーメン屋ですね。問題は「統合協議を通じて相乗効果を高める具体策を示せるか」。仮に示せてもブランドを弱めることは間違いない。大体、「相乗効果」というものは「説得ワード」の一種で、相乗効果と言う側もあまり確信がないことが多い・・・。あまり期待は出来ないのではないかな。ではどうするかというと、僕の考えでは東京工業大学は工業(Industry)にフォーカスして更に専門化を強化する。特にAI時代に即したものに進化する。東京医科歯科大学もまた医学に特化して進化する。どちらもイノベーションを強烈に意識した研究や人材開発を行う。総合大学との競争など意に介す必要はなく、同時に医工連携を行うのならプロジェクトとして行えば良いと思います。それがブランドを棄損することなく更に強くなるアプローチです。