見出し画像

試し読み:『This is Service Design Doing』01章

2020年2月に刊行した『This is Service Design Doing サービスデザインの実践』(マーク・スティックドーン、アダム・ローレンス、マーカス・ホーメス、ヤコブ・シュナイダー 著/安藤貴子、白川部君江 訳/長谷川敦士 監修)より、「01 なぜサービスデザインなのか?」をご紹介します。

以下ではテキストのみ抜き出したかたちで掲載しますが、実際の書籍はカラー図版やコラム等満載の紙面となっています。


01
なぜサービスデザインなのか?

サイロを打ち壊す、体験に立脚した実践的イノベーション
─組織がサービスデザインを取り入れる理由

1.1 顧客は何を求めている?

子どもの頃、パーティーで「パス・ザ・パーセル〔音楽に合わせてプレゼントを手渡しで回していき、曲が止まったときに持っている子が包みを1枚破るというゲーム〕」というゲームをしたことはあるだろうか。用意するのは、包装紙で何重にも包まれたプレゼント。それが何かは見た目ではわからない。参加する子どもたちは、中身にたどり着くまで辛抱強く一枚一枚包装紙をはがしていく。

組織が作る提供物、すなわち顧客が求める製品やフィジカル/デジタルサービスも、同じように何層にもくるまれている。いちばん外側の層は、顧客が接するスタッフの行動や態度や口調(または使用する技術的インターフェイスの挙動)だ。次の層は、問題やシステムについての専門知識。これは提供物やオペレーションに関してスタッフまたはシステムが持つ知識のことだ。その下にあるのが、セールスや払い戻し業務といった、スタッフが実行するプロセス。さらにその下に、組織が動かすシステムやツール、たとえば物流や料金請求、POSシステムの層がある。そして真ん中にあるのが、電話契約やランニングシューズなどの提供物だ。

顧客は「パス・ザ・パーセル」に参加する子どものようなものだ。ほしい提供物を手に入れたければ、全部の層を通り抜けるよりほかない。これらの層はすべて、顧客の体験に影響を及ぼす。無関心なスタッフ、正しい知識を持たない従業員、入り組んだプロセス、使いにくいシステム。そのどれもが提供物の購入/インタラクションの満足度を下げ、体験の価値を低くするおそれがある。

企業はこれまで、包みの真ん中にある提供物と、それを届けるのに必要な最も内側の層に大きく注力してきた。だから、技術や業務の面で秀でることにばかり気をとられ、仕事をきちんとこなしたがる。新しいレシピの開発に重点的に投資するハンバーガーショップのように、実際の作業の効率を最大化することが仕事になってしまっている。あるいは信頼性という堅実なイメージを打ち出すのに必死な銀行などは、自分たちには顧客の問題解決に必要なものがあると訴えてセールスに懸命だ。

しかし、顧客の関心は本当に核となる提供物にあるのだろうか? あるとき、数万人の患者を対象に入院生活に満足した/満足しなかった要因をたずねる調査がおこなわれた。大半の人は「治療結果」、つまり病気がきちんと治ることが患者にとって最も重要な要因のひとつだと予測するだろう。何といっても「治療」は病院の主要なバリュープロポジション(提供価値)なのだし、人々はそのために病院に行くのだから。ところが調査結果を見ると、上位15位の満足要因に入院中に患者の健康状態が改善したかどうかに関係するものは1つもなかった。むしろ上位の要因のほとんどは、情報の流れ、苦情への対応、親身になって丁寧に世話をしてくれる看護スタッフ、意思決定への患者の関与、快適な環境、熱意あるチームの治療を受けている安心感など、スタッフとのインタラクションに関わるものだったのだ。

もちろん、治療の結果が良くなければ話は変わるだろう。病状が深刻になると、エクスペリエンスにおける治療の重要性は著しく高まる。だがそうなるまでは、病院のコアコンピテンシー〔企業などの核となる強みや能力〕である治療は、患者からすれば得られて当然なのだ。わかりやすい例は他にもある。たとえば旅先のホテルの部屋なら、ドアや窓やベッドはなくなりでもしない限り話題にものぼらない。CFOは会社に損失が出ない限り公認会計士の会計スキルを評価しない。そうなって初めて能力の欠如が問題になる。しかし、問題が起きるまでは顧客は組織を他の要因で評価するのだ。

というわけで、ハンバーガーショップの客にとって大事なのは、実はおいしそうな新メニューのレシピよりも、店員の感じのいい応対なのだ。銀行でクライアントが頭を悩ませるのは、銀行の信頼性よりもウェブサイトのややこしいログインプロセスのほうだ。顧客に影響を与えているのは、核となる提供物よりもそのまわりのエクスペリエンスの層のように思える。だとすれば、顧客が何を重視しているかをより正しく理解し、その知見を活かして顧客の体験の質を高めるには、企業は何をすればいいのだろう。

1.2 組織にとっての課題

1.2.1 力を持った顧客

デジタル革命により、上質な体験に対する顧客の要求はいっそう強まっている。かつては地元で手に入るものや新聞で見つけたものを買うより他ないのが普通だったが、今や顧客には膨大な数の選択肢がある。早い話、町にある店よりも地球の裏側から買うほうが簡単なのだ。1つのプロバイダにさえも数多くの情報または購買チャネルがあって、顧客は都合に合わせてそれらを使い分けている。わずか画面1枚隔てたその先には、価格の比較、別の選択肢、信頼できるレビューといった情報や、その他のデータが山のようにあるのだ。

ソーシャルメディアがこの変化を増幅させ、顧客は体験を数百万もの人と共有する機会を手に入れた。ユーザーは、コストのかかる広告キャンペーンよりも他のユーザーの言葉のほうをはるかに信用するため、オンライン上の会話がビジネスのかたちを変えつつある。B2Bサービスはそれほどソーシャルメディアに気を使わなくていいようだが、B2Bでは口コミが同じ役割を果たし、しばしば従業員や顧客による紹介がセールスを生み出す最も効果的な手段とされている。口コミの数がどうであれ、組織がへまをやらかせばその事実は世界中に伝わり、人々が耳にした話をそのまま信じることは確かだ。

多くの調査から明らかなように、カスタマーエクスペリエンスは収益に違いをもたらす。2009年の時点ですでに、お粗末なカスタマーエクスペリエンスによるビジネスの損失額は米国だけでも概算で830億ドル。優れたカスタマーエクスペリエンスを提供する企業が市場を支配し、顧客はその企業を推奨し、再び購入する可能性が高い。そのうえ顧客のほとんどは、上質な体験が得られると確信すればもっとお金を払うこともいとわない。

カスタマーエクスペリエンスへの注力が不可欠なのは明白なようだ。では、なぜこれほど多くの組織が失敗するのだろう? 仕事のできる知的な人材の集まりでありながら、企業は相も変わらず顧客を激怒させ、ムッとさせ、混乱させ、失望させ、要するに顧客を感動させ損ねているのだ。その理由の1つは、組織の構造にある。

1.2.2 サイロ

工業化以降、テイラーイズムやTQM(total quality management:総合的品質マネジメント)などのマネジメント手法が主流になるなか、組織は最高水準の業務と効率を重視してきた。機械論的世界観〔世界は等質的な部品の組み合せからなる機械であるとする世界観〕に従って、組織は活動を一連の業務プロセスととらえ、多くの場合コストの観点から各ステップの最適化を考慮してきた。何といってもコストと効率はきわめてシンプルなコンセプトなので、経営陣にとっては都合のいい「手段」なのだ。すべての組織単位(よく「サイロ」と呼ばれる)は、企業にとって理にかなった業務機能を中心に作られる。それぞれの組織単位には、業務機能を理解し、追跡し、管理するため、そして顧客ではなく企業の視点からサイロ内でそれらの機能を最大限発揮するために用意された専用のビジネスツールがある。基本的な提供物とコアバリューを生み出すのに必要なプロセス以外のものはもれなく、諸経費、コストセンター〔利益を生み出さない要素や部門〕、あるいは「ソフトファクター」〔数値で表すのが難しい要素〕、すなわち、合理化し、省かなければならないもの、あるいは宣伝や人事部門に属する「ソフトファクターの専門家」に、もっと悪ければなりゆきに任せるべきものとみなされている。

こうした組織のサイロが体験の層の多くに関わり、それぞれの層は別々のチームの手に委ねられる。たとえばランニングシューズを買うとき。顧客へのアドバイスを考えるのは営業部門で、販売員のソフトスキル〔客観的に評価できる技能(ハードスキル)に対し、人間性や思考力など目に見える形で評価しづらい能力のこと〕と専門知識の研修は人事部がおこなう。販売員はIT部門が開発した販売と在庫のシステムを使用し、法務部門がまとめた返品手順を説明して、研究開発部門がデザインしたか購買部門が仕入れたシューズを売る。顧客と企業との関係が長くなって、関与するサイロが増えると、状況はいっそう複雑になる。

各部門の人材は誰もが有能で、それゆえにサイロ内の仕事の効率は年を追うごとに向上していくが、その反面顧客はなすすべもなくサイロの間を右往左往する。もちろん、連携を求める声のもとで何らかの取り組みがおこなわれる場合もある。だがそもそも力を合わせる必要などあるのだろうか。異なる下部組織に属する人たちは何が重要かに関して独自の見解を持っている。成功の測定基準も重要業績評価指標(KPI)もバラバラだ。各部門のプロセスへの寄与度を示すプロセス図のようなツールはある把握を促すことはできない。「顧客の声」を図にしたり引用したりして広く共有したところで、文脈が一切不明なので真の顧客ニーズは見逃される。そして決定的なのは、カスタマージャーニーには顧客にとって重要な部分がたくさんあるにもかかわらず、従来型のプロセスの見える化ではそれが何ひとつ浮かび上がってこないことだ。ジャーニーには、待ち時間、第三者のレビュー、友人との会話など、組織による影響を直接受けないが、カスタマーエクスペリエンスの重要な要素をなすものがある。

ならば、機能横断型チームを同じ部屋に集めて何から始めるべきなのだろう。一般に、そうした協力的な試みのための基本ツールとされているのがミーティングだが、チームは話し合いをしながらさまざまな世界観やバラバラな用語を調整するというとんでもないタスクを抱えることになる。ミーティングでは部門の代表者がそれぞれ独自の専門用語を使って独自の意見を率直に主張するのだ。部門をまたぐ協力が尋常でないほど困難なのは無理もない。どうすれば、人々が力を合わせてともに新たな価値を創出し、各部門が結果を自分のものと受け止め、成功に尽力することを容易にできるのか。各部門がサイロを超えて体験を統合し、協力して真の価値を生み出すために、私たちには何ができるのだろうか?

1.2.3 イノベーションのニーズ

ほとんどの組織が、イノベーションを起こさねばという大きなプレッシャーを感じている。イノベーションを必要で望ましいものと考え、仕事の目標として最優先する。イノベーションはよくUSP〔unique selling propositionの略。「独自のウリ」などとも言われる〕の創出に密接に関連づけられるが、独自の提供物を作ることをイノベーションと言う場合もあれば、提供物を実現させる社内プロセスまたは組織のビジネスモデルにおけるイノベーションを指す場合もある。いずれにしても、変わりつつあるスーパーコネクテッド(ビジネス)社会、景気循環の著しい短期化、複製をいっそう容易にするテクノロジーと情報の遍在性によって、イノベーションの必要性は高まっている。価値ある提供物が簡単に複製できるなら、直接/間接、合法/違法を問わず、開発コストをかけない人にまねされ、さらに安い価格で販売されてしまう。たとえ同じ価格で売られたとしても結果は変わらない。待ち受けるのはコモディティ化だ。類似の提供物が市場に複数投入されると、価格戦争が起こる。

イノベーションの焦点は、往々にして顧客を喜ばせることに当てられる。新しい機能は時間がたてば新しくなくなるからだ。最初は素晴らしいとみなされていた提供物の機能が、すぐにあって当然のものになることは、顧客満足の各種モデルからも明らかだ。印象的なのが、21世紀はじめのホテルの無線インターネット。当初、ホテルでWi-Fiを使えることに旅行者は驚き、感激し、喜んで料金を払った。だがほどなくして彼らはどのホテルにもWi-Fiがあることを期待し、自宅よりも料金が高いと文句を言うようになった。今ではコーヒーショップ、タクシー、安価なバスやホテルでも無料のWi-Fiが利用できるようになり、宿泊客にとって「Wi-Fiはお湯や電気、あるいは空気と同じようなもの」で、料金を請求されてイライラしたり腹を立てたりする人も珍しくない。狩野モデルの用語で言うと、「魅力的品質要素」が「一元的品質要素」に、それから「あたりまえ品質要素」に落ちていったというわけだ。昨日のイノベーションはもう時代遅れ。新しいものが必要だ。

そのため多くの組織がイノベーションを主要な成功要因として重視する。そしてあらゆる企業にとってサービスが目に見えて重要になるにつれ、企業のイノベーションのフォーカスはサービスに移っている。彼らはただ人目を引く新しい広告を打ったり製品を拡大したりしてユーザーの関心を集めるばかりでなく、幾重にも重なったニーズを満たそうと努めている。

今日の企業は顧客のニーズを把握し、有益な知見や興味深いアイデアのひらめきが得られるような方法を探し求めている。サイロ横断型(あるいは組織横断型)のチームでそれらのアイデアに取り組み、多様なコンセプトを集め、絞り込み、テストし、進化させ、新しいまたは改善された提供物、オペレーション、ビジネスモデルなどとして実装する方法を求めている。イノベーションは徐々に起きる場合もあれば、破壊的な勢いで進行する場合もあるので、どちらでも機能するテクニックが必要だ。

1.2.4 組織の対応

スタートアップから政府にいたるまで、今日組織の多くがカスタマーエクスペリエンスの重要性を理解しているのは確かだ。しかもこうした認識は急速に広まっている。2014年の時点ですでにある調査が、企業の89%が2016年までにもっぱらカスタマーエクスペリエンスで競合するようになると予測していた(2010年におこなわれた同様の調査ではわずか36%)。

カスタマーエクスペリエンスの重要性を認めるようになると、組織はえてして満足度の追跡管理を始める。いちばんわかりやすいツールはオンライン/オフライン調査、特にネット・プロモーター・スコア(NPS)の調査だが、そこでよく聞かれるのが、「私たちの会社/製品/サービスを友人や同僚に推薦する可能性はどれくらいですか?」という質問だ。有効なこの指標もやはりほとんどの定量測定法と同じ課題に直面している。NPSが低ければ問題があることはわかるが、なぜその問題が起きるかまではわからないのだ。カスタマーサービスやお客様相談室で顧客の声を集めれば問題の詳細が明らかになる可能性はある。しかし、それ自体がソリューションを教えてくれるわけではない。問題の大きさと、場合によってはその原因が明らかになるだけで、それを解決する、またはイノベーションを実行する方法までは判明しない。

NPSをはじめとする指標は問題領域を明確にするのに役立つ(しばしばサイロ型思考が原因に特定される)。しかし古くから言われているように、“ガチョウの重さを量ったところでそれを太らせることはできない”。だから組織は測定だけにとどまらず、サイロを飛び越えて戦略的に体験にイノベーションを起こす、信頼できる、拡張可能な、今までにない方法を求めているのだ。組織はますます、私たちがサービスデザインと呼ぶものに目を向けるようになっている。

1.3 なぜサービスデザインアプローチなのか?

組織が生み出す価値を向上させる方法はたくさんある。この課題に取り組む人々は、自分の仕事をサービスエンジニアリング/マーケティング、品質管理、または単にマネジメントと呼ぶかもしれない。その作業をサービスデザインと呼ぶ人はほんの一部(増えつつある少数派)だが、彼らはものの見方と多くの場合ツールセットを共有している。サービスデザインは、デザインプロセスの考え方とワークフローを採用し、アクティブなイテレーティブアプローチと、マーケティング、ブランディング、ユーザーエクスペリエンスなどあらゆる分野と同様に柔軟で気軽に使えるツールを組み合わせている。

サービスデザインの強力なパワーは、寄せ集めの背景から生まれる。デザインの一分野であるサービスデザインは、問題や機会を正確にフレーミングして、しかるべき問題の解決に注力する。よって、たいていの場合サービスデザインはユーザーまたは顧客のニーズのリサーチから始まる。それは機会の「方法と理由」を掘り下げるために主に定性的調査手法を幅広く用いた、探求心にあふれたリサーチだ。「ソリューション」に飛びつかず、ニーズを把握することが真のイノベーションを可能にするのだ。

次に、サービスデザインは短期間に実験とプロトタイピングを繰り返し、可能なソリューションを迅速かつ低コストでテストすると同時に新たな知見とアイデアを生み出す、デザイナーのアプローチを取り入れている。プロトタイプはパイロットに、それから新たな提供物の実装に進化していくのだが、その過程で必ず実施されるのがイテレーション(反復)だ。リサーチ、プロトタイピング、そして実装にいたるまで、イテレーションを重視することでサービスデザインプロジェクトは現実にしっかりとした土台を確立している。サービスデザインプロジェクトは、個人的見解や(あっという間に時代遅れになる)権威ではなく、リサーチとテストの上に成り立っているのだ。また、イテレーティブアプローチによって、サービスデザインにおける意思決定はリスクの低い活動になる。最初から完璧にやらねばと気をつかう必要はなく、さまざまなオプションを展開させ、プロトタイピングとテストの構造化されたプロセスを用いて、試しながら向上させていけばいい。

多くの組織が、異なるバックグラウンドや責任を持つ人たちが有意義かつ生産的に協力して取り組むことを容易にする効果的な仕事のやり方を求めている。そう、彼らが探しているのは「サイロ破壊者(ブレーカー)」なのだ。サービスデザインのツールにはデザインの考え方が反映されていて、視覚的で素早く気軽に使えてわかりやすい。ツールはコラボレーションにとっての共通言語になるため、機能横断型チームは喜んでそれを手に取り、使いこなす。サービスデザインのツールにはデザインの考え方が反映されていて、視覚的で処理が迅速なうえに、気軽に使えてわかりやすい。ツールは共同作業の際の共通言語になるため、機能横断型チームはそれを進んで取り入れ、使いこなしている。ツールは一見実にシンプルで、ひとつのサービスシステムの複雑さをまるごと網羅するものではない(そのための卓越したツールはすでにある)。むしろ、そうしたツールの役割は複雑さをさまざまなカスタマーエクスペリエンスのレンズを通して見ることにあるのだ。それがサービスデザインのアプローチの効果を絶大なものにする。込み入ったマルチチャネルサービスでさえも、チームが実践と人間、つまり感情レベルの両方で理解できる扱いやすいものになるからだ。

サービスデザインは非常に実践的、実際的な活動で、本質的にホリスティック(全体的)である。価値あるエクスペリエンスを生み出すためには、サービスデザイナーは表舞台(フロントステージ)を成功させ、プロセスの実施を支える舞台裏(バックステージ)の活動やビジネスプロセスに取り組まなければならない。個々の瞬間のみならず、複数のステークホルダーの体験をまるごと扱わなければならないのだ。さらに、組織のビジネスニーズとテクノロジーの適切な活用を考慮に入れながら、コストに見合うだけの成果をあげる方法も見つける必要がある。

これらの特徴をふまえれば、呼び名が何であろうと多くの組織がサービスデザインの手法を実行していることも、さらに多くの組織がサービスデザイン会社を利用していることも不思議ではない。本書で紹介しただけでも、銀行、航空会社、病院、製造業者、電気通信会社、非営利団体、教育機関、旅行会社、エネルギー会社、政府をはじめ、サービスデザインアプローチに注目する組織は日々増えている。

組織は、より上質な新しいサービスとカスタマーエクスペリエンス全体を複数のチャネルで提供するという課題を突きつけられている。サービスデザインが取り入れたツールセットと実際的なイテレーティブアプローチは、リサーチとセンスメイキング〔状況やものごとに意味づけをおこない行動を起こすこと〕ツールを使ってステークホルダーのニーズに注力し、さらにはプロトタイピングにより本格的な投資をする前に有望と思われるソリューションを試し進化させる。組織はサービスデザインを活用して現在提供しているサービスを向上させ、新たなテクノロジーまたは新たな市場の発展をベースにしてまったく新しいバリュープロポジションを確立することができる。サービスデザインは、多様なステークホルダーを関与させ、権限を持たせ、力を結集させておこなうプロジェクトに、ずば抜けて強力な共通言語とツールセットを与え、体験や業務やビジネスのニーズのつりあいをとるための、堅固だがわかりやすい方法を組織に教えてくれるのだ。


Amazonページはこちら。電子版(リフロー形式)もあります。

監修者による「日本語版序文」はこちら。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?