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上げるのではなく下げない発想で組織と向き合う心構え

常に右肩上がりとは限らない。

こうして社員は、やる気を失っていくを読んだ。モチベーションは上げる前に下げないとの主張。モチベーションって水物で上げる発想自体難しいよなと思っていた身としては納得感がある。

本書は、人(マインド)と事(タスク)を分けて両輪をマネジメントする(P.194)大切さを解説している。アンチパターンが並ぶことでイメージしやすい作り。その都度、参考文献を参照して持論を説く。

「やる気」は周囲の環境や関係性のなかで、上がりもすれば下がりもします。極端に言うと、下げる要因を取り除いていけば、勝手に「やる気」は上がっていくのです。

引用:こうして社員は、やる気を失っていく
P.22

冒頭のこの上げるのではなくて下げないという考え方は大事に思う。つい、上げる発想ばかりが思い浮かぶが目の前のことや1on1を通じた目の前の人に注目すると、下げている要因に耳を傾ける大事さに気が付く。

傾聴なんて話が出るのは、モヤモヤの言語化や困っていることの創出が求められてのことなので、下げる因子を探す方法と言えよう。マスこと組織全体ばかりに注目すると見えづらくなるのがやる気を下げる因子に思う。

ポジティブ・ネガティブ論でもネガティブなことが目立つ。心理学の面でも、いい話と悪い話があれば先にいい話を聞いたほうがダメージが少ないらしいとはよく聞く話だ。

ポジティブ3でネガティブ1の3:1が大事みたいな本も10年以上前に読んだが、今はこの辺りの話はくつがえっていると耳にする。10:1ぐらい必要なんて話も見た気がする。それだけネガティブ要素のパワーが勝るのだろう。

プロスペクト理論に見る損失のダメージ

ふと、このマイナス面に向く人間の心理ってどこかでと想像すると、行動経済学のプロスペクト理論を思い出す。価値の大きさは金額に比例しない話だが、不合理な損失回避行動を取る人間の認知のヒントになると見る。

組織内でのネガティブフィードバックの扱いに注意したいのも、上げた状態の関係性を作っておかないと下げる心理負担は単純計算できないと見る。+1,+1と積み上げていも、たった一言でマイナス10となる状況はありえる。

株価でいうところのリーマンショック級なショックだってありえるかもしれない。結果、株価は上がっているけど。傷ついてもダメージを回復することがレジリエンスだったり失敗をバネに成長だったりとも言えちゃう。

ただ、それを前提に鍛えるためと接する行動は相手が人間だということを忘れすぎている。人間相手に試す行動は慎重に扱いたい。そこで、学術の出番となるのでここであげた心理側面は気にして関係性を構築したいものだ。

現状維持はマイナスと見たほうがいい

よく、変わっていない状態はむしろマイナスという話を聞く。

例えると、windows95のまま変わらず今もインターネットをするのは難しい。お金の価値が目減りするインフレのように明治時代の一円の価値は今は低い。今のままでいいと思っても世界がゆるしてくれない。

「ほめがない状態」はゼロではなくマイナス - Tbpgr Blog (hatenablog.com)より、組織心理学の視点でも褒めない危うさを感じる。これも、何もしないことは現状維持を意味する。つまりマイナスにはたらくと読み取った。

承認や感謝が不足する環境は、プラスに積み上げているとも見えるが、マイナスにしない行動とも言える。これも下げない発想だと気がついた。ほっといたら、なんでもかんでも組織内で勝手に下がる因子は増えるのだ。

人事評価制度は期待値が高すぎるので結果下がる

下げないことが大事となってくると、組織の下がる要因ってなんだろうか。給料が上がらない。たしかにこれも現状維持をベースにするマイナスだ。

中小ベンチャー企業を壊す! 人事評価制度 17の大間違いを思い出す。

本書は公平をベースとしたインセンティブ設計を提案している。モチベーションを下げないように設計するのが人事評価制度なのかもしれない。過度な期待はせず2:6:2の法則を意識して50人や150人規模の会社の話をしている。

本書を通じて感じたことも、制度をいじると下がる要因が増えやすいということ。この手の人事評価制度の設計が変わる期待感が高すぎて、または上がる効果があると思って失敗するものらしい。

制度が変わるときに説明が大事と言うけど、みんな期待しすぎているのかもしれない。これも下げない発想が大事で、これ以上下げないというところから始めて現状維持ではないがマイナスでもないが一つのゴールだろう。

HRBPによるデータ分析でちょっとしたきっかけを後押しする

プロスペクト理論で思い出したが、データ主導の人材開発・組織開発マニュアルにもこの理論を活かした話が載っていた。ネタ元は【第12回】効果的なフィードバック(社員意識調査)として公開されている。

行動経済学に注目し、行動を後押しする仕掛け(ナッジ)について語られている。常に今を参照点とした利得や損失を感じるので、ここでもマイナス(損失)面での影響が見えてくる。

まず多めに褒めた上で、ポイントを絞って要望をつたえるフィードバックのフォーマットにする

引用:データ主導の人材開発・組織開発マニュアル
P.128

ここでも褒めが先だ。行動変容を促す仕組みが組織や1on1で求められるが、まずは下げないために褒めから入る関係が必要なことが伝わる。

ちなみに本書は主観データを客観データに変換するお話が主体。データで組織開発と人材開発の両輪を導入する話は入門書として最適で、とっかかりやすい。今は参考文献を片っ端から読むことにしている。

下げないことを意識した組織づくりの提案

下げない対象は、モチベーションでもフィードバックでもなんでもいいが、この下げない姿勢でいることが組織内では大事に思う。まず現状維持は下げるのではく下がる要因なのでそのままはいけない。

次に、何かと上げる必要がある(成長でもモチベーションでも株価でも目標数字でもなんでも)ために何かをするという発想も控えめがよさそうだ。期待値が高い株の暴落のようにチャートという名の人間心理の影響は大きい。

そして、組織全体とか制度と全体のマスで考える発想も大事だけど、目の前の一人一人に向き合うことを忘れないようにしたい。組織の中でマネージメントする時は特に下げない目線で1on1なりを重視したいところ。

そして日頃の褒め。褒め合える関係性。上がっていくところを期待値とともに擦り合わせて、下げてしまうことを下げすぎないアドバイスなりフィードバックなりで補っていく。

そうやって、なんとか下げない状態というのをつくると、自然と火がつくことで、自ら燃える主体性が維持できるかもしれない。つまり、子育てじゃないか。放置しないが構いすぎない。その場で咲く環境にあれば育つ。

常に下げない心構えでいておこう

引用画像:https://dl.ndl.go.jp/api/iiif/1907231/R0000019/424,435,3768,2880/full/0/default.jpg

引用:[幸野楳嶺 筆]『楳嶺画鑑』三,芸艸堂,1942.1. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1907231/1/19 (参照 2023-10)

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