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優しい絶望

優しい絶望がゆっくりと私の首を閉める。その息苦しさにほんの少しの幸せを感じながら、手を伸ばす。そして、そのまま優しい絶望を抱き寄せる。ずっと抱きしめていると少しずつ私の体内に侵入し、私を蝕んでいく。私の小さな細胞達も優しい絶望の侵入に歓喜して、そのまま消えてゆく。抱きしめることは出来ても私は優しい絶望に指1本触れることが出来ない。いつも侵されるのは私だけ。抱きしめる間ひとつになれているような気がするけれど、結局は私のひとりよがりだと気付かされる。このまま私を殺してくれれば、とも思うけれどそんな日は来ない。程よい息苦しさで私を生かし続けるのだ。優しい絶望は時々私のことを忘れる。忘れられてる間も私はなぜか生きている。息をしている。悲しいほどに、生きやすい世界で小さな絶望を痛みを探す。気がつくと私は、絶望がいないと幸せを感じられないと身体になってしまった。今日も優しい絶望は私の元へやってこない。私のことを忘れて、私の知らない場所で生きている。そう思うと、私の身体は少しずつ黒い何かに覆われる。優しい絶望とは違うなにかに覆われて少しずつ私の身体は黒い物体へと変化してゆく。この現象を汚い絶望と私は呼ぶ。優しい絶望が私の元へ来てくれない間、私は汚い絶望として生きてゆく。汚い絶望なので、抱きしめるなんてことは出来ない。どうでもいい人に甘くて美味しい言葉をかける、欲しい言葉をたっぷりかける。そして、いい具合に仕上がったら私は突然居なくなる。肝心の食べることはせずに居なくなる。男女関係なく私はそんなことをして、自分を保つ。私はどう足掻いても、優しい絶望にはなれない。今日も私は優しい絶望の足音を待って眠りにつく。深い深い眠りにつく。

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