水煮缶

映像の感想など

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感想:映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』 "海外から見た日本"+α/音響メディアへの讃歌

【製作:日本 2021年公開(上海国際映画祭にて2020年公開】 舞台は夏、日本の地方都市「小田市」と、市民が集うショッピングモール。 俳句を趣味とするチェリーは、話すことが苦手な少年。ぎっくり腰を患った母に代わり、モール内のデイサービスセンターでアルバイトをしながら、自作の俳句をSNSに投稿する日々を過ごしていた。 一方、同じ町に住むスマイルは、WEBで大きな人気を持つライブ配信者の少女。コンプレックスである「出っ歯」を矯正し、口元をマスクで隠しながら、身近にある可愛いも

    • 感想:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 鍵が開いたもの

      【製作:アメリカ合衆国 2011年公開(日本公開:2012年)】 舞台はニューヨーク。宝石商を営むトーマスと、その妻で自らも仕事を持つリンダには、アスペルガー症候群を抱え、物事への探究心が強いオスカーという息子がいた。 トーマスはオスカーのこだわりの強さを長所として捉え、様々な調査をミッションとして彼に与え、ともに探求する育て方をしていた。あるとき、トーマスはオスカーに「ニューヨークには幻の第6区があった」と語り、その根拠を探す調査が始まっていた。 しかし、トーマスは200

      • 感想:映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 "Jr."ではない、自分自身を捕まえて

        【製作:アメリカ合衆国 2002年公開(日本公開:2003年)】 舞台は1960年代のアメリカ合衆国。 退役軍人で文具屋の事業を経営する父と、フランス出身の母のもとに育ったフランク・W・アバグネイル・Jr.は、テレビや流行のカルチャーを好むハイティーンの少年だった。 しかし、フランクは、父の事業の失敗と、母の不倫に端を発する両親の離婚という事態に見舞われる。 事業・私生活ともに失敗した状況でもなお、プライドの高い父に小切手を与えられたフランクは家出をし、父の誇りを取り戻すた

        • 感想:映画『ドライブ・マイ・カー』「沈黙の音」、自己というテクストをひらくこと

          【製作:日本 2021年公開】 舞台俳優の家福と、テレビドラマの脚本家である音の夫妻は、幼い娘を亡くして以来、ふたりでの生活を続けてきた。 息の合った暮らしを送るふたりは仕事の上でも互いに支え合っていた。 音はセックスの最中に頭に浮かび上がった物語を家福に語り、事後に彼がそれを語り直すことで脚本を作ることがあった。反対に、家福が劇の台詞を覚える際には、音が家福の役の台詞のみを抜いた脚本をテープに吹き込み、彼は愛車「サーブ900ターボ」の中で音による台詞に応えることで、劇全体

        感想:映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』 "海外から見た日本"+α/音響メディアへの讃歌

        • 感想:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 鍵が開いたもの

        • 感想:映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 "Jr."ではない、自分自身を捕まえて

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          感想:アニメシリーズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 「道具」と人間性の共存、自然に託されるもの

          テレビシリーズ 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』+Extra Episode 【製作:日本 2018年放送】 外伝(劇場アニメーション) 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』 【製作:日本 2019年公開】 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 【製作:日本 2020年公開】 ある大陸で、4年にわたって繰り広げられた戦争。大陸南部側の勝利に終わった戦いに大きく寄与したのは、ギルベルト・ブーゲンビリア少佐と、彼がそばに置く女子少年

          感想:アニメシリーズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 「道具」と人間性の共存、自然に託されるもの

          メモ: "大人になる"こと、その先に 〜『少女革命ウテナ』・『輪るピングドラム』における自動車の役割から〜

          テレビシリーズ 『少女革命ウテナ』 【製作:日本 1997年放映(全39話)】 https://youtu.be/tyPv7QyuZl0  映画 『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』 【製作:日本 1999年公開】 https://youtu.be/_LWHF5NbZCI テレビシリーズ 『輪るピングドラム』 【製作:日本 2011年放映(全24話)】 https://youtu.be/BlEmAcDm8pY  人間は、何を以て「大人」になるのだろうか。 1990

          メモ: "大人になる"こと、その先に 〜『少女革命ウテナ』・『輪るピングドラム』における自動車の役割から〜

          感想:映画『羊と鋼の森』 空間と音の関係

          【製作:日本 2018年公開】 舞台は北海道。将来に希望を見出せない高校生だった外村は、ある日、講堂のピアノの調整に訪れた調律師・板鳥に出会う。板鳥が調律したピアノの音色が、自分の中に森林のイメージを呼び起こしたことに衝撃を受けた外村は、自身も調律師を目指そうと決意する。 東京の専門学校を経て、板鳥が勤務する北海道の楽器店に就職した外村。 「優れた調律師になりたい」という漠然とした理想のもと、緊張と焦りの中にいた外村は、先輩である柳の指導を受けながら、様々な場所へ調律に出向

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          感想:映画『あの頃。』 連帯ツール・通過儀礼としての「オタク」

          【製作:日本 2021年公開】 舞台は2004年の大阪・阿倍野区。ベーシストを志す青年・劔は、バンドメンバーから演奏技術が稚拙だと責められ、鬱屈した日々を送っていた。 塞ぎ込む劔を元気づけるために友人が渡した松浦亜弥のMVクリップ集が、彼の生活を大きく変える。 松浦に強く惹かれた劔は、地域のコアなハロプロ(ハロー!プロジェクト)ファン、いわゆる「ハロヲタ」によるトークイベントを訪ねたことをきっかけに、同イベントを主宰するグループ「ハロプロあべの支部」の一員になる。 6名の男

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          感想:コンサート『Reframe THEATER EXPERIENCE with you』 デジタルと肉体の往来、過去の捉え方

          【制作:日本 2020年公開(コンサート:2019年10月27日実施)】 テクノポップユニット・Perfumeが、2019年10月に実施したコンサート『Reframe 2019』。 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)のこけら落としでもあった本公演の千秋楽を記録したコンサート映画。 「Reframe(再構築)」と題されたこのコンサートは、2000年に結成されたPerfumeの20周年に際し、ユニットの軌跡を踏まえた上で、これまで発表した楽曲や映像を組み合わせて

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          感想:舞台『蒼穹の昴』  英雄なき歴史劇、「宦官」の意味

          【2022年 雪組 宝塚大劇場公演】 舞台は清朝末期の中国。華北の村に住む青年、梁文秀は、官吏登用試験である科挙を受験していた。 村に住む老女、白太太は、彼は昴に守護されており、学問を修め、その叡智によって皇帝を支え、民を救う宿命にあると占う。文秀はその予言に従うように、科挙を主席合格。 西欧ならびに日本との緊張関係の中、伝統に重きを置く西太后の姿勢に疑問を持ち、改革派・帝党に属して、光緒帝主導で近代化を推し進めようとする。 一方、文秀が義兄弟として面倒を見ていた李春児は、

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          感想:ドキュメンタリー『サーカス・オブ・ブックス』  仕事とプライベートは分けられるのか

          【製作:アメリカ合衆国 2019年公開 Netflixオリジナル作品】 ロサンゼルスにあるゲイポルノ専門店「サーカス・オブ・ブックス」。同性愛が罪に問われた時代から存在し、販売に加えてポルノ映画の配給も行ったこの書店は、ゲイの人々が自らの性的指向を肯定し、仲間やパートナーを見つけることに長年寄与してきた。 一方で、同店を経営するのは異性愛者のメイソン夫妻であり、特に妻のカレンは敬虔なユダヤ教徒で、保守的な志向を持って自身の家庭を築いていた。 同性愛が罰せられた時代から、エイ

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          感想:映画『ベイビー・ドライバー』 "乗り換える"強さ

          【製作:アメリカ合衆国 2017年公開】 舞台は現代の米国。「ベイビー」と称されるある青年は、類稀な自動車運転の才能を持ち、「ドク」という男性に雇われる形で、銀行強盗からの逃亡を請け負う。常にイヤホンで音楽を聴きながら運転し、巧みに追っ手をかわす彼は、チームを組んだ他のギャングに訝られながらも、高い評価を得ていた。 過去にドクに負わせた損害を返済し、犯罪に加担する必要がなくなったベイビー。同じ頃、カフェの従業員であるデボラに惹かれた彼は、他者を傷つけることなく稼いだお金で、

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          感想:映画『ジュディ 虹の彼方に』 緑が彼女を眠らせない

          【イギリス・アメリカ合衆国製作 2019年公開(日本公開:2020年】 舞台は1968年。映画『オズの魔法使』をはじめ、ハリウッドでその名を馳せたジュディ・ガーランドは、仕事への遅刻・キャンセル癖の影響で信頼を失い、ステージ歌唱で生計を立てるものの、家賃の支払いにも事欠く生活を送っていた。 元配偶者・シドニーとの子どもであるローナとジョーイとともに暮らすことを望むが、住む家がなく、夜のステージにともに立たせる生活は、子どもたちにとっては負担だった。 ジュディは、資産を確保し

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          感想:映画『名探偵ピカチュウ』 ポケモンの「原点回帰」

          【製作:アメリカ合衆国・日本 2019年公開】 かつてポケモントレーナーを目指していた青年ティムは、探偵である父ハリーとのすれ違いをきっかけに、夢をあきらめ、パートナーとなるポケモンも持たず、保険調査員として働いていた。 しかし、彼のもとに、ハリーが自動車事故に遭ったという知らせが届く。 ハリーが住むライムシティを訪ねたティムは、父の生存は絶望的であるという知らせとともに、彼の住むアパートの部屋の鍵を渡される。 かつて自分も住んでいたその部屋で、ティムはハリーのパートナーで

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          感想:映画『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』 自力では脱出できない、子どもの苦境

          【製作:オーストラリア・アメリカ合衆国・イギリス 2016年公開(日本公開:2017年)】 1980年代のインドに生まれた少年サルーは、貧しい地域で、母親ときょうだいとともに暮らしていた。彼は、時に盗みなども行う活発な兄・グドゥを追いかけるのが好きだった。 10代のグドゥは、夜中に町に出てお金を稼ごうと思い立つ。着いていくといって聞かないサルーは、兄とともに外出するものの、やはり夜更かしが難しく、駅で眠りに落ちる。 グドゥがその場を離れた間に目覚め、回送列車に乗り込んだサル

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          感想:映画『マチネの終わりに』 人生に必要な「遠回り」

          【製作:日本 2019年公開】 若くしてデビューし、最前線で演奏を続けてきたクラシックギタリストである蒔野聡史は、キャリアの中盤に差し掛かり、コンサートで満足のいく演奏ができないと感じるようになり、スランプに陥っていた。 あるコンサートの終演後、蒔野はフランスの通信社・RFPのジャーナリスト・小峰洋子と出会う。 著名な映画監督の娘でもある洋子。洋子の父の代表作である映画『幸福の硬貨』の主題歌を、蒔野がデビューコンサートで演奏したという会話からふたりは打ち解ける。 その後、パ

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