崔の圖書室

初手は瑕ものながら処女小説「タクシー」です。 今後話しという話しのない出たとこ掌編を投…

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初手は瑕ものながら処女小説「タクシー」です。 今後話しという話しのない出たとこ掌編を投稿します。 作文は溶元崔(とけもと さい)です。

マガジン

  • 上環快味

  • ゴム蕎麥

  • 教室

    好学篤学は無学に如かない

  • まんじフランケン

    日高の天然 シェリー夫人からの届けもの

  • タクシー

    宿泊していないホテルを三人の男達がチェックアウトするまでのしばしに命がけで繰り広げる雑談

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タクシー・1

「嶋田畜農養育園出身のマルキドホマレですね、徳川晩期、当時咎人から人気をとっていた風光明媚で米が佳く、つまりは酒がいい、女賊もいい、あの悪太郎どもが憧れた流刑島は中部の縊れお仕置き地区にほど近い括れ部落で発見された野生種が発端の栽培物で、只今小僧さん躙り込みと共に香る裏日本系の、若やいではいるがやや陰気に湿った軽い黒煙臭は、雌の幼鳥つむりに冠した黄なる硬きトサカが為、炭は左胸、右腿のどっちつかずです、実に分かりやすい、わたしこの桃源島で畜農の養育に服務する嶋田さんとは懇意でね

    • 上環快味

       講釋中の一尾を一旦もとの抽斗へ仕舞ひ已乃輔を奧まで引率すると、この家のあるじ處置室と札の掛かった戸をコツンと叩き、此處を入つた向かう正面ね、と云つたぎり戾つていく。  中は微かに藥臭い。處置とはいふが處理室だ。店先からは思ひつかない數を捌くのだな、長いの短いの厚いの薄いの全體何千では利かない皮が色柄さまざまヒートンに掛けられ四面の壁いつぱい、タイルばりの床じゆうには剝かれた素つ裸な身が長いままビニル箱にぎつしり詰まつてゐる。千羽鶴みたやうな皮が孰れもつやつやと剥ぎたて、山

      • ゴム蕎麥

        〝古今未曾有の臺風『喰らはば玉まで』がたうとう地球本體までも太陽へ吹き飛ばしてしまひ、この玉一瞬間、ジュツ、と燒かれ、お日さんはそのためにシミ一つ作らず氣づく事もなし〟  朝刊の天氣概況を讀んでゐたコネチカツトのサラリーマン次郎は朝寝をしてゐる女房の部屋へ、コーヒーは、と聲を掛ける。  さうなると週末の競馬は中止だらうか。スポーツ欄を繰りながらマグを片手に七階のベランダ越しに表を覗くと、なるほど地球はまうないやうに見える。地面だつたと覺しきあたりは象牙色に煙り、なかなかの景色

        • 教室・2

          其の三        図書館へ寄らずに帰るとお父さんが黄色い白ワインを左手、塩せんべいは右手にTVを見ていた。寸詰まりのタンブラーから松脂臭が漂う。 『先ほどナジスが第一党に躍り出た模様です。党首は自らホロ酔いの舞いを沿岸舞台で初演の運びです、ドイツからのお知らせでした。さて次はおまちかね大相撲冬場所十七目の結果です』 お父さんはちょっとむ

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        タクシー・1

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        記事

          教室・1

          其の一 暮れ夏の日盛り、土曜日半ドンの教室から喉をカラカラさせて帰ると冷蔵庫の前に丸くなったお母さんが死んでいた。この冷蔵庫が曲者でカゴマを入れておくとダルモンタになりダルモンタを入れてもカゴマにならない、カゴマを飲むつもりなら冷やすのをあきらめる。冷えたダルモンタを飲むのもこの際あきらめて水道の水にする。 一階の集合郵便受けに『母が死んでいます 鍵は開いています 娘』と貼り紙をし、自転車で図書館へ向かう。 蝉時雨が耳

          まんじフランケン

          「はい、いらっしゃいまし、煙草は何をさし上げましょう、はいはい麻日の両切り、マッチはお持ちですか、そうですか小さいのをお負けしますよ、さあどうぞ」 「まだ何も云わねえよ盆暗、オレだよ」 「おや甚平さんめずらしい、お前が来ないとさむしくていけない、何処かへ行っていたのか」 「行かねえよ、毎んち来てんじゃねえか、おまえ何時から煙草屋んなって噺のご隠居気取ってんだ、それならここんとか甚平さんじゃねえ、八つぁんてんだ」 「なんだ金坊か、まあ上がって一服点けろ、ちょいと前に日高

          まんじフランケン

          HKTDC ・4

          「なるほどそうですか、解り易いお話しではありませんがなるほど、しかし言い掛かりとはまるで気が付きませんでしたが貴重なお話をありがとうございます、中には先生の一席に勇気づけられる奇特千万な視聴者の方がいないとも限りませんよ、ところでバッツ師、先ほどからずっと元荒瀬部屋のでぶ、ガブリエル君が噂の大樽を抱えて、ほらあの通りすり足ずり足で行ったり来たり、もうヘトヘトでつま先が上がりません、ドンとやると樽を取り落としそうですよ、あんな体力ですから序二段しんがりよりガブれなかったんですね

          HKTDC ・3

          「先生にはご案内がないでしょうけれど、末端猫の尻尾どころではありません、一天万国のテレビ局で幹部から最下層部までの健康づくり、つまりは酔い心地を管理し、その素晴らしい重篤化を本人の精神が全く気付かないか気付いてもそれをまるで気にしないよう推進する最重要と云っていい、見た目はぱっとしませんが人目を忍ぶ首脳なのです、株主もその破廉恥な所業を分かってはいますが、テレビのオーナーはみなさん出処読売でポン助ポパイのポンプ族ばかり、当然そこはカマトトを決め込んで知らんぷり、ですから会社四

          HKTDC ・2

          タヱさん百歳を大分越して多少の呆けもあったが多少以外の部はしっかりしていた、この短いやりとりの間に奴との関係、お互いの立場をつかんだのです  『お母さん私も今迄大変な道楽三昧、ずい分ご迷惑もお掛け致しましたが、遅ればせながらここへきてやっと一人前の身代も出来たんです、そこでこれまでの親不孝を猛省し恩返しをしたいと思います、先ずその手付けとして少しばかりのお足をお送りさせていただきたいので振り込み先をお教えください』 話しがよめていた彼女は脇へ用意したゆうちょ銀行の番号を読

          HKTDC ・1

            「こぬか雨もよいながら爽やかなモーニンです、新緑に露玉輝くも眠り目な朝間に相応しいキリッとした話題からお届け致しましょう、魚臭い臨海都市部から発症し今や沿岸部のみならず山岳地帯まで猿を相手に感染が普及し更生使役省宣伝部指導の下電波系マス込みを主とした再三再四にわたる応援歌が功を奏し依然円満具足の気色見えずの、振り込む詐欺、ですがこの地味なタイプのプレーに潜む意義素が不明だといわれるシニフィエを朝っ腹から脳波に何の乱れも無くテレビの前で閑居されているもののお解りがなかなか厳

          七号車

            「てめえみた、人一化け九、誰が触るってんだ、盲しいだろうが、臭いでわからあ」 「ニンイチバケキュウって何よ」 「人無し化け十のとこを一つ負けてやったんだ、有り難がたがりやがれ、カナダもんめが」 「カナダって何よ」 「同じ豚でも国産よりかずっと位が低いんだ、最下級のアメリカもんで十分なとこをひとつ勘弁してやって優遇したんだ、カナダの豚に心からあやまれ、こんなあたしがずうずうしくも、カナダの豚さま方の部へお邪魔させて頂き、誠に心苦しいです、こめんなさいとな、そりゃ向

          相談オプション

          「一人お願いします」 「どちら様を」 「婚約者です」 「はいお請けします、この書類の太枠内を記入して七番窓口へお持ち下さい、納付書が出ます、お支払いは二十一番です。はい次の方どうぞ」 「ちょっと待ってください、あのう、少し注文が付くんですが」  「はい相談オプションですね、この札を持って十四番へどうぞ」 「相談の方、どうぞお掛けになって、何なりとお気軽にお申しつけください」 「一人頼んだんですが、恋人を」 「はいご注文は伺っておりますがご心配なく、ご相談が済む

          相談オプション

          タクシー・19 最終回

            「息子はいいとして納品された戦車の中で酔いつぶれたぼっちゃん鶏の肝がこの皿にのった炭なんですね」 「貴方は勘がいい、正にその通り、はるばる来たぜキキギモ、といったところでしょうか」 「なるほどそれで鶏にもかかわらず発電所の御曹司であるぼっちゃんが酒をめぐる旅をしたことで何でもこの肝が特別の中でも特に別になったんですね」 「いえ普通の炭だと思いますが」 「ぼっちゃん鶏の酒行脚あれこれは当然この肝に反映しておる故のお話だとじっと我慢して聞いておりましたが」 「ええ

          タクシー・19 最終回

          タクシー・18

          イカレた講釈に呆れて腐ってないかこの酒、大丈夫ちゃんといい具合に腐ってます、ご覧なさいまし皆さん滞りなく正常に酔っ払ってましょ、ぼっちゃんお目見えのため特別注文で抜いたこの'四十五年ものは腐り加減本日八月六日がオルガスモ、秋の野山を先取りした雁クビ逞しい何とか茸のヌアンスが香のサネだとか、さあご賞味あれ、あっそう、おまえ薬足りてんの、まったく破けた袋の知恵が多いと呑む前から口が酸っぱくなっちまうよ、どれどれ、おっ、なかなかうまく腐ってやがる、悪かねえよ、脂のりが中年太り直前っ

          タクシー・18

          タクシー・17

            知らねえよ馬鹿、味噌がすっかり出ちまう前に車を出せ、特級葡萄酒のどっさりあるうちへ付けろ、トンチキめ、ドライバいきなりオクターブ調子を上げると、へいただいま、よく手すりへつかまって下さいまし、オレの運転は奔馬のごとくゲートなんざ開く前にぶち破りますよ、とロケットスタトを決めたが四百m爆走し、七つ星割烹の前でシャシを残して丸ごとあと四百m先まで飛んでいく勢いで止まると、お待ち遠さま、速いでしょオレのドライビンと胸をはたいたが店は朝っぱらでやってない、十字パラノイド野郎朝飯を

          タクシー・17

          タクシー・16

                              丘を越え山は彼女を気づかい大回りに逆ハンを切り、下り坂はでんぐり返りながら二人して大笑いに笑い七日目に迷子になった、ちょうどいいやということで、まだパブロが十四ガラが七歳でしたが、あれっ云ってませんでしたか姪っ子の名前です、新月の晩だったので夫婦になり末永く、つつがなく、仲睦まじく暮らしたんです、それはいいとして二人に子があったかどうか、それからサルバ爺さんと従妹の間に実は子供があったのか、いや、やはりなかったのかということは史実には

          タクシー・16