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接吻

昨日終わった大河に便乗して、小池栄子がすごかったこの映画をご紹介。万田邦敏監督、『接吻』。

京子は、28歳の独身OL。人付き合いが苦手な京子は、同僚から残業を押し付けられたり、少し見下されています。友達もいない孤独な日々を過ごしている京子ですが、ある日、夕食の後何気なく点けていたテレビのニュースで、一家殺害事件の容疑者として逮捕され連行されていく坂口の笑顔を見ます。その笑顔に惹かれた京子は、手に入る限り坂口の情報を集め始めます。
坂口は国選弁護人の長谷川や裁判官にも黙秘を続けていて、そんな坂口を初公判から見ていた京子は坂口の声を聞きたいと思うようになり、長谷川に坂口への差し入れを頼むのです。少しずつ京子に惹かれていく長谷川は、坂口にのめり込んではいけないと京子に忠告しますが、坂口と京子は文通をする仲に。京子と長谷川は坂口の兄から坂口の生い立ちを聞きます。その帰りに京子はついに坂口と接見することに。接見室のガラス越しに親密な時間を過ごした坂口と京子は、やがて獄中結婚至るのですが……。
どう言ったらいいかわかりませんが、すごくいい映画でした。
小池栄子がすごくいいです。地味で目立たないどこにでもいるOL、京子。彼女が危険なほどに一途に殺人犯、坂口にのめり込んでいく姿は怖いくらいです。心に空虚さを抱えた孤独な女をリアルに描き出しています。
対する殺人犯、坂口を演じる豊川悦司は語らないのにその孤独と反社会性を感じさせ、重苦しい存在感がありこちらもまた素晴らしいです。
人を殺しても何も感じられない自分への深い絶望と孤独、暗い暗い瞳が京子と出会うことで少しずつ感情を取り戻していく繊細な演技が印象的でした。
仲村トオルは2人に対してごくごく当たり前の常識的な人物で、理解し得ない京子や坂口への苛立ちや恐れはとても共感しやすいです。
3人の素晴らしい演技と、淡々と静かに進みながらも緊張感に満ち溢れたストーリー展開と、ぐいぐいと引き込まれていきます。
坂口との結婚をマスコミに嗅ぎ付けられ、マスコミに囲まれた中で見せる京子の挑発的で不気味な笑顔。彼女の幸せって何なのか、それまで彼女が感じていた孤独と疎外感の底無しの暗さを思わされ、背筋が寒くなります。
坂口に危険な共感を覚える京子。自分と坂口を同一視していく京子。危険で暗い恋ですが、坂口に見せる恋慕の情はあくまで清らかで。
京子の思いに戸惑いながらも少しずつ変わっていく坂口。彼がほんの少し誰かを思いやる当たり前の人間らしさを取り戻し始めた時、悲劇は訪れます。
それは衝撃的ではありますが、ある意味必然でもあった結末。ほんの僅かな差異も許せなかった京子、そしてまた1人取り残されることに堪えられなかった京子。そんな彼女にはああする他はなかった。そしてそれを受け入れた坂口。彼女は彼と完全に同一化したかったのでしょう。それは最悪の形で実現します。
歪んだ愛、唐突に表出する欲望と暴力。けれどこの恋から目を離すことができません。
最後の彼女の行為の意味はなんだったのでしょうか。監督によれば“本能”なのだそうですが…。
暗く絶望的な恋。危険な恋。けれど純粋で美しい刹那の恋。
エンドロールを眺めながらタイトルの意味を噛み締める、そんな後味を残す映画でした。

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