赤茄子

家から駅に行く道の途中、保育園がある。
そこでは、トマトや茄子なんかをプランターで育てている。
園児や通行人に触らせない為であろう、「実が落ちちゃうから触らないでね」なんていう貼り紙が付いている。
ここのところ、「大きくなったかなぁ」「誰かに落とされてはいないだろうか」と多少気を揉みつつ目の端でトマトを確認しながら登校するのが日課になった。

特段面白い訳でも、ある日突然巨大化している訳でもないが、細やかな幸せである。

枕草子に「うれしきもの」という章段がある。
好きな人が高名な人間に褒められたり、面白いと思った物語の続刊を見つけたり、はたまた探し物がすぐに見つかったりするのが嬉しいという、言ってしまえば他愛ない内容である。
駅に向かう途中、私のトマトの例を並べるなぞおこがましいにも程があるが、昔から人が考えることは変わらないのだなぁとぼんやりとした嬉しさを感じていた。

やっぱり人間、道端の植え込みなんかを見て嬉しく感じるぐらいの余裕は欲しいものよ……となんとなく考えていたところ、側溝の金網に乗ってしまい、見事に人前で滑ってしまった。
転ばなかっただけまだ良いが、多少は気張って生きていくべきである。

やはり、おこがましかったのだろう。

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