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文章を書くことについて考えさせられたお笑い芸人のエッセイ集。「完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 」

最近、週末に天気が崩れることが多く、気圧が下がれば気持ちも下がり、店主の体調も崩れ気味。そして店主の体調だけでなく、この週末の雨は町の小さな古本屋にとっては死活問題です。客足は当然鈍ります。このまま梅雨に入り、雨の日が続いたらと考えると更に気が滅入ります。

そんな週末に、今まで見向きもしなかった本を読みました。「社会人大学人見知り学部 卒業見込」という本で、オードリーというお笑い芸人が書いたエッセイです。

この本は売れたお笑い芸能人が、売れなかった若手時代を回想し、書き綴るエッセイ集です。帯には「ダ・ヴィンチで読者支持第一」と書いてある。なるほど。それでは書籍情報誌の読者支持No.1のエッセイを拝見させて頂こう。

実際に読んでみるとやはり文章が上手。リズムがいい。売れているのも頷けます。でも、店主にとってはそこまで人気の理由がわかりません。何か違和感のようなものも感じました。ただ、その原因はすぐにわかりました。店主はこの芸人さんのことをあまり知らないし、若い時のことはもっと知らないのです。つまり、この芸人さんの若い時代から今までの歴史を知っていれば本の面白さは倍増し、知らないと面白さは半減する。ある意味当然のことかもしれません。

そして、プロの作家が書くエッセイと芸人が書くのエッセイの違いについても考えたくなりました。すると、その違いは文章の思い切りの良さとさりげなさだと気がつきました。例えるなら、芸人さんはオチがくるところで落としてくる。話を面白くするところで面白そうなことを書く。考えさせてきそうなところで考えさせてくる。つまりわかりやすい。だから少しベタな感じがします。

それに対して、プロの作家は読者の予測以上の仕事をします。比較するために少し他の本を読んでみると、少し気がつくことがありました。読者に謎を与えることがある。言葉に思い切った変化をつけることもある。深く考えさせたり閃きを与えることもある。話の流れを先読みさせない。オチがつきそうな一歩手前から落としてくる。そういった様々な手法で読者をグイグイと引っ張っていく。文章の上手さよりも構成の方が気になりました。

そして何よりも、この「社会人大学人見知り学部 卒業見込」を店主が認められない大きな問題がひとつありました。それは、この本を読んでいても向学心や闘争心が湧いてこないことです。読書というのは能動的な気持ち、攻める気持ちで読みたいと店主は考えていますが、その前向きなエネルギーが湧いてこないのです(ゼロではない)。それなのに、本としてはそれなりに読めるので、なんとなく気持ちが入らずに読み進めてしまいます。悪く言えば、ぬるま湯につかって本を読んでいるような気分かもしれません。

よい本や刺激的なエッセイは、そこから何かが生まれます。読書の後に心や脳に毒やイメージが残ることもあります。読者と勝負するというか、相対しているようなところがある。でも、この本にはそういった刺激はありません。ただただ上手に心地よい文章が楽しく読める。

そこまで考えたところで、突然、我が身を振り返って考えました。
同じことが自分も出来ていると言えるだろうか?

店主もプロではないにせよ、他人を批評した以上は自分もそれを意識して書かねばいかんと思います。ダラダラと文章を書くのではなく、読んでくれた人の脳内で何かがスパークする文章や、エネルギーを与えられる文章を書く。そこでお金が発生するとかしないとか関係ない。文章を発表する以上は覚悟を持って、何らかの表現をしなければいけない。そんなことを考えました。今日はゆっくり歩いて帰ります。


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