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今週の全米アルバムチャート事情 #231- 2024/4/13付

先週の土曜日は14年ぶりに来日を果たしたジェイムス・テイラーのコンサートに夫婦で行って来ました。最初はちょっと緊張した素振りがあったものの、後半、70年代の代表曲を次々と、スティーヴ・ガッドディーン・パークスといったレジェンド達の演奏に囲まれて、あのまごうかたなき美しいバリトン・ボイスで歌い、変わらず達者なギターワークで演奏するJTの姿に気持ちも心も洗われた、そんな一夜でした。折から桜爛漫の日に聴けた御年76歳のJTの声に「ああ、やっぱり音楽っていいな」としみじみ思いましたね。皆さんやっぱりライブは行ける時に行っとくべきですね。

"Cowboy Carter" by Beyoncé

週中の大雨で桜もおおかた散ってしまった今週、全米アルバムチャート、4月13日付のBillboard 200の首位は先週の大方の予想どおり、ビヨンセのカントリー系楽曲を主としたアルバム『Cowboy Carter』が407,000ポイント(うち実売168,000枚)といずれも今年一番のブッチギリの、先週1位今週2位のフューチャー&メトロ・ブーミンの4倍近い出力で余裕の初登場1位を決めています。もちろん今週UKでもアルバムチャート1位初登場。これでオリジナルアルバムとしてはデビューの『Dangerously In Love』(2003)から8作連続ナンバーワン、UKでも4作目のナンバーワンアルバムになってます。既にこのアルバムについてはいろんなところで語れ尽くされてる感もあるんですが、このアルバムは位置づけとしては前作『Renaissance』(2022)に続く3部作の第2作なので『Act II: Cowboy Carter』とも呼ばれてます。その関係もあって、収録楽曲のタイトルにも、「I」で表記するところを「II」と表記しているものがいくつかありますね。

その中でもリリース直後から話題になっているのがビートルズの『ホワイト・アルバム』(1968)収録の超有名曲、ポール・マッカートニーの2フィンガーピッキング奏法でも知られる「ブラックバード」のビヨンセ・バージョン「Blackbiird」。この曲はポール自身が1960年代の黒人差別状況への問題意識を元に書いた(”girl”は「女の子」の意)と言っていて、このアルバムの一つのテーマである黒人や女性へのエンパワーメントを象徴する曲として前半のハイライトの一つになってますね。ポール自身も演奏自体はオリジナルに忠実ながら、後半3人の黒人カントリー女性シンガーたちのボーカルをフィーチャーしたこのカバーを称賛してます。このアルバムのもう一つのテーマ、カントリーという、実は特に南部出身の黒人たちの音楽的ルーツの一つでありながら、従来白人男性シンガーたちが主流を占めてきたジャンルの壁を打ち破るという観点から、例えば大御所ドリー・パートンの「Jolene」の内容をアップデートしたカバー(オリジナルは夫を奪おうとする女性に妻が懇願する歌だけど、ビヨンセ・バージョンは「奪ったらただでは置かないわよ」と威圧するという内容)なんかはアルバム後半のハイライトになってます。いずれにせよ語るべきポイントの多いこのアルバム、既に21世紀を代表する名盤との評価も飛び交ってメディアの評価も高い(メタクリティック92点!)中、確かにここ最近では最も野心的でジャンルの壁を打ち破ったという点で画期的なアルバムであることは間違いないですね。ちなみにこのアルバム、今週カントリー・アルバム・チャートでも1位になってますが、黒人女性カントリー・アーティストは他にも過去現在いるものの、1位を獲得したのは今回史上初。いろんな意味で歴史的なアルバムです。

"Hope On The Street Vol. 1" by j-hope

いやあ今週はすっかりビヨンセ・ウィークなんですが、今週もう1枚トップ10に初登場してきたのは、BTSj-hopeのセカンド・アルバム(というか6曲しか収録されてないから実質EPなんですが)『Hope On The Street Vol. 1』。50,000ポイント(うち実売44,000枚)で5位に初登場してきてます。前回のファースト・アルバム『Jack In The Box』(2022年6位)の時は当初リリース時はトップ10ミスして、その後CDリリース+ボートラで何とか6位に再登場、面目を保ったんですが今回は最初から8種類のCDをリリースするというマーケティングで自己最高順位を更新してます

曲数は少ないですが、内容は結構充実していて、チル系のラップを聞かせて90年代っぽいヒップホップ仕様が楽しいオープニング曲「On The Street」、ジョングクと楽しそうに軽快なシティ・ポップ風R&Bをやってる「I Wonder…」、ナイル・ロジャーズのカッティング・ギターが80年代ダンクラの雰囲気満載の「Lock / Unlock」、ルセラフィムホ・ユンジンの官能的なボーカルが気持ちいいこちらもシティポップ風アップナンバーにj-hopeのラップが絡む「I Don’t Know」などなど、ヒップホップとR&Bとダンス・ポップの絶妙なブレンド感がファンだけでなく、この線が好きな向きにはピタッとハマりそうな内容です。ちょうど同時期に出た同じようなスタイルのジャスティン・ティンバーレイクのように構えたところがなくて、自分の好きな線を楽しくやってる、って感じがなかなか好感度大ですね。前作よりもよっぽど吹っ切れてていい感じ。願わくば6曲といわずもう少しアルバム・フォーマットらしい曲数にしても良かったんじゃないかなあ。

"Genre: Sadboy (EP)" by MGK & Trippie Redd

さてかくも華々しい今週のトップ10ですが、圏外11〜100位には今週初登場はわずかに1枚。30位にチャートインしてきた、マシンガン・ケリー改めMGKとラッパーのトリッピー・レッドのコラボEP『Genre: Sadboy (EP)』。共にオハイオ州出身で(MGKはテキサス州ヒューストン生まれだけど少年期をオハイオ州クリーヴランドで過ごしている)過去にもMGKのアルバム曲何曲かでコラボしたことのあるこの2人なんで今回のコラボには違和感はありませんね。

そのコラボEP(といいながら10曲収録なんでj-hopeの「アルバム」より曲数多いなあw)の内容ですが、タイトルから言ってジャンルを超越した意欲的作品なのかな、と思って聴くとどっこい、どの曲もかなりポップな感じに寄せてる曲が多くて結構聴きやすい内容になってるのにちょっとビックリ。特にトリッピーなんてエッジの効いたトラップベースのフロウスタイルがまあ売りのはずなんですが、存在感はそのままに比較的キャッチーなポップ寄りのヒップホップ楽曲の中に違和感なく収まってますね。「Struggles」なんて最近のポスティみたいだしね。で、多分ここで大きな役割を果たしているのは、全編曲作りとプロデュースにガッツリ関与しているチャーリー・ハンサムの存在。彼はポップセンスあふれるヒップホップ作品の仕事では既に十分な実績がある人で、ポスティのデビュー・アルバムや、最近だとジャック・ハーロウの『Come Home The Kids Miss You』(2022)なんかを手掛ける一方、モーガン野郎のあの2枚のアルバムでも結構仕事しているので、こういう立ち位置の作品にはある意味うってつけなんでしょう。いや、なかなか悪くないですね、このEP。しかしMGKってエモ・パンクに宗旨替えしたと思ったんだけどまたヒップホップ寄りに戻ってきたのかしら。

以上今週はビヨンセの出力が圧倒的な中、100位までの初登場は3枚。一方Hot 100に目を向けると、そのビヨンセがまた初登場1位か?と思うとさにあらず、1位は先週に続いて、ケンドリック・ラマードレイクJ.コールをディスってるフューチャーメトロ・ブーミンの「Like That」が意外と強く、首位をキープしてます。ビヨンセは既に以前1位初登場してた「Texas Hold ‘Em」が11位から2位にリバウンドしている他は、トップ10に2曲(うち1曲は7位に初登場してるドリー・パートンの「Jolene」)初登場してるだけ。今回のアルバム27曲中23曲がHot 100にチャートインしていますが、思ったほど上位独占になってない印象です。ところで「Like That」と言えばこのディス・トラックに反応して急遽J.コールが先週末に対抗したトラック「7 Minute Drill」を収録したミックステープをリリースしてます。この「7 Minute Drill」スポティファイでもストリーミングを伸ばしていて、同じく上昇基調で今週4位のホージャーToo Sweet」と来週1位を争うのでは、と見てますがどうなるか。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Cowboy Carter - Beyonce <407,000 pt/168,000枚>
2 (1) (2) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <131,000 pt/636枚*>
*3 (4) (57) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <69,000 pt/1,559枚*>
4 (3) (4) Eternal Sunshine - Ariana Grande <58,000 pt/6,077枚*>
*5 (-) (1) Hope On The Street, Vol. 1 - j-hope <50,000 pt/44,000枚>
6 (2) (30) Guts - Olivia Rodrigo <49,000 pt/5,061枚*>
7 (5) (71) Stick Season ▲ - Noah Kahan <44,000 pt/2,954枚*>
8 (7) (241) Lover ▲3 - Taylor Swift <40,000 pt/9,486枚*>
9 (6) (69) SOS ▲3 - SZA <39,000 pt/1,937枚*>
10 (8) (32) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <39,000- pt/3,150枚*>

ビヨンセの歴史的アルバムがナンバーワンを飾った今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想ですが(チャート集計対象期間:4/5~11)、ビヨンセの勢い、ストリーミングも含めて来週もなかなか大幅なダウンは予想しにくく減っても半減の20万ポイントだと楽勝で首位キープしそう。ただ来週は他にもトップ10に入ってきそうな話題盤が多くて、ブラック・キーズヴァンパイア・ウィークエンド、そして今シングルヒット中のベンソン・ブーン、更にはディストラック対抗でリリースされたJ.コールのミックステープも登場するかもしれません。それ以外にもR&Bのブライソン・ティラーやポップSSWのコナン・グレイあたりもトップ10に入って来るかもしれず、来週は賑やかになりそうです。ではまた来週。

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