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DJ Boonzzyの第66回グラミー賞大予想#12(完結編)〜主要6部門

さあいよいよこのグラミー賞予想ブログ・シリーズも、今年も何とか最終完結編までやって来ました。今回はシリーズスタートしたのが1月9日で、今日まで23日、3週間強で完了。昨年の第65回の予想ブログは21日、ちょうど3週間で完了してましたから、まずまずのペースで来たことになります。その前の第64回予想ブログの時は、授賞式がコロナで4月に延期されたこともあって、10週間かけてゆっくり書いてましたが、まあこの3週間くらいが今後も平均的ペースになると思います。今回はこの完結編が終わったら、全部門の予想だけをまとめたダイジェスト版の付録ブログもアップする予定ですので、予想だけざーっと見たい、と言う人はそちらも見てみて下さい(吉岡さんからのリクエストでしたw)。

では、今年からプロデューサー部門とソングライター部門も新たに移って来た主要6部門の予想、まずプロデューサー部門から


51.最優秀プロデューサー部門(クラシック以外)

◎ Jack Antonoff
✗ Dernst “D’Mile” Emile II

  HIt-Boy
  Metro Boomin
○ Daniel Nigro

これは先日の吉岡さんとのソウルサーチン・ラウンジの時も説明しましたが、今年のこの部門、昨年も激突しているジャック・アントノフDマイルがここで再び激突してるんですよね。ただジャック・アントノフが昨年はテイラーの「All Too Well (10 Minute Version)」やフロレンス&ザ・マシーン、そしてThe 1975らの仕事でここ数年の彼の仕事としてはやや薄めだったんですが、それでもシルク・ソニックメアリー・J・ブライジという圧倒的な仕事ぶりだったDマイルを下して去年2年連続の受賞を果たしてます。ましてや、今年はジャック・アントノフテイラーの『Midnights』、ラナ・デル・レイの『Did You Know〜』そしてまたThe 1975と昨年を遙かに上回る内容と量の仕事をこなしているのに対し、今年のDマイルヴィクトリア・モネの仕事一本。これはね、もう何というかジャックに本命◎付けるしかないですよ。そして彼が今回受賞すると3年連続受賞ということで、1996年38回〜1998年40回の3年連続受賞のベイビーフェイス以来の偉業達成。もうジャック・アントノフ黄金時代到来ですね。
では対抗○はDマイルかというと、どうもそうでもなさそうなのが今年のこの部門の激戦ぶりを表してます。何しろこの2人以外も、一連のナズの作品を手堅いトラックメイキングでがっちりサポートしているヒットボーイ、自らもトップ10ヒットを放ちながら、凡百のトラップ・プロデューサーに留まらずドレイクトラヴィス・スコットらとマルチな仕事をしてるメトロ・ブーミン、そしてオリヴィア・ロドリゴの片腕、ダニエル・二グロといずれも強敵ぞろい。その中で対抗○にしたのはダニエル・二グロ。彼は前回オリヴィアが『Sour』が最優秀アルバム、「Drivers License」がSOYROYにノミネートされた時にこの部門にノミネートされてなかったのが不思議なんですが、今回はさすがにノミネートされてるとなるとヴィクトリア・モネ一本のDマイルよりはダニエルの方がやや強い感じです。なので対抗○はダニエル、Dマイルは穴✗とします。

52.最優秀ソングライター部門(クラシック以外)

  Edgar Barrera
○ Jessie Jo Dillon
◎ Shane McAnally
✗ Theron Thomas

  Justin Tranter

昨年から新設されたこのソングライター部門、去年も蓋を開けてみたら随分と地味なメンツだったので驚いた記憶があるのですが(例えばライアン・テダーとかがノミネートされると思ってた)、今回のラインナップも昨年に劣らずよく言えば渋い人選、言葉を選ばずに言うとかなり地味なメンツです。まずエドガー・バレラカロルGバッド・バニー、そして去年のトレンドの一つ、リージョナル・メキシカン系のペソ・プルーマらの楽曲を共作してるラテン系のソングライター。ただ彼は依然カミラ・カベロアリアナなどポップ系の仕事もしてるのでラテン系だけの人ではないみたいですけど。そしてカントリー系のソングライターがジェシー・ジョー・ディロンシェイン・マカナリージェシーは2019年にダン+シェイジャスティン・ビーバーが大ヒットさせた「10,000 Hours」の共作者として有名ですが、去年は大ヒットはないもののオールド・ドミニオンジェリー・ロール、ブランディ・クラークの「Buried」などの曲を書いてるようです。一方シェイン・マカナリーはナッシュヴィルでも重鎮的存在のソングライターで、2013年ケイシー・マスグレイヴの出世作『Same Trailer Different Park』のプロデュースくらいからぐっと存在感を大きくした人。2019年にはNBC-TVのソングライター養成リアリティ・ショー『Songland』のメンターの一人としてカントリーに留まらずR&Bやポップ楽曲のソングライティングもカバーしてました。ミュージカル・シアター部門でも触れたように、彼とブランディ・クラークが音楽を手がけたミュージカル『Shucked』は昨年ブロードウェイで好評だったようで、このあたりも彼の幅広さを証明してますね。このカーリー・ピアスの「We Don't Fight Anymore」は彼が共作してます。

残る2人は、ヒップホップ/R&B系のソングライター、テロン・トーマス(昨年はリル・ダークの「All My Life」とジュングク&ラットの「Seven」という2大ヒットを手がけてます)と、ポップ・ロック系のソングライター、ジャスティン・トランター(過去には2015年ジャスティン・ビーバーのナンバーワンヒット「Sorry」や2017年イマジン・ドラゴンズの「Believer」、ホールジーの「Bad At Love」など大ヒットを手がけてますが、昨年はマネスキンマイリーの「River」などやや地味目の仕事)。

ここで存在感といい、業界での実績・知名度といいやっぱり一際光っているのはシェイン・マカナリー。しかも今年のグラミーのキーパーソンの一人、ブランディ・クラークと絡んでるのも大きいと思うので、本命◎はシェイン。対抗○は大ヒット2発を手がけたテロン・トーマスもあるかな、と思うのですが、昨年ビヨンセの「Break My Soul」を手がけたザ・ドリームが受賞を逃しているのでヒットありきでもなさそう、と考えるとやはりソングライター・コミュニティがぶ厚いナッシュヴィル系ということで、ジェシー・ジョー・ディロンが対抗○かなと。テロン・トーマスには穴✗を付けておきます。

53.最優秀新人賞部門(Best New Artist)

  Gracie Abrams
✗ Fred again…
  Ice Spice
  Jelly Roll
  Coco James
○ Noah Kahan
◎ Victoria Monét

  The War And Treaty

さていよいよ旧来の主要部門の一つである最優秀新人賞部門。この部門についてはノミネート予想の時に自分が選んだ候補のうち、実際にノミネートされたのはアイス・スパイス、ジェリー・ロール、ノア・カーンの3人。是非入って欲しかったミツキや、カントリー部門でさんざん文句言ってた、昨年CMAACMアウォードで新人賞部門を総なめしたレイニー・ウィルソン、そして昨年のトレンドの一つ、リージョナル・メキシカン代表のペソ・プルーマあたりは「何で入ってないの?」という世界。ただヴィクトリア・モネのように長い間ソングライターとして下積みを重ねて来て今回アーティスト・デビューした人が評価されるのはいいことだと思うし、同じくプロデューサーやサウンドメイカーとしてのキャリアが長かったUKのフレッド・アゲインがノミネートされるのも、エレクトロ・ミュージック・シーンへのリスペクトを感じるので、昨年ザック・ブライアンがガン無視されたほどの不満はありません。

で、今回の構成を見ると、いわゆるロック系としては映画監督JJエイブラムズの娘さんのグレイシー・エイブラムズ、R&B系がヴィクトリア・モネココ・ジョーンズの2名、ヒップホップ系がアイス・スパイス、カントリー/アメリカーナ系がノア・カーン、ジェリー・ロール、ザ・ウォー・アンド・トリーティ(黒人夫婦によるカントリー・ゴスペル・デュオ)の3組、そしてエレクトロのフレッド・アゲインというまあうまくバランスよくいろんなジャンルをカバーしたノミネーションとも言えるかもしれません。

そんな中で予想としては、やはり「On My Mama」でROYにもノミネートされてるヴィクトリア・モネはなかなか無視できないところですね。ソングライターキャリアからアーティストにブレイクする、というパターンも、グラミー・アカデミーの会員達に共感を呼ぶような気がするので、ここは本命◎はヴィクトリアかな、と思います。そして残り7組のうち、わずかに一つ頭が出てるように思うのは、アメリカ北東部のニューイングランドの自然とそれに想起される情感を淡々としたスケールの大きいアメリカーナな楽曲で歌う、ノア・カーン。彼は2022年秋にリリースしたアルバム『Stick Season』が、半年後にホージャーポスト・マローンといった他のジャンルのアーティストをフィーチャーしたリミックスバージョンのリリースでぐんと人気を呼んだというブレイクの仕方もいい感じなので、対抗○はノア君に付けました。あとは正直どれもほぼドングリ状態ですが、他の部門(ダンス/エレクトロニック部門)でも複数ノミネートされていて、2020年のブリット・アウォードの受賞者(最優秀プロデューサー)フレッド・アゲインが気になるので、彼に穴✗を付けます。

54.最優秀アルバム部門(Album Of The Year)

  World Music Radio - Jon Batiste
  the record - boygenius
  Endless Summer Vacation - Miley Cyrus
○ Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd - Lana Del Rey
  The Age Of Pressure - Janelle Monáe
  GUTS - Olivia Rodrigo
◎ Midnights - Taylor Swift
✗ SOS - SZA

さて、いよいよ主要3部門。今年はこの3部門全てにノミネートされてるアーティストがジョン・バティースト、マイリー、オリヴィア・ロドリゴ、テイラー、SZAと5組もいること、そして3部門を通じてジョン・バティースト以外は全て女性のノミニーで、ノミネートに当たって特に女性アーティストにアカデミー・メンバーの票が集中したようですね。で、この部門のノミネートについては、半分くらいは予想通り(ボーイジニアス、ラナ・デル・レイ、テイラー、SZA)だったし、オリヴィアジャネル・モネイのノミネートはあまり驚かなかったのですが、マイリーのアルバム部門ノミネートは正直ビックリしました。いや、マイリーの「Flowers」は圧倒的な2023年を代表するポップ・ヒットの一つには間違いないですが、アルバム???それなら何でザック・ブライアンのアルバムがノミネートされないの?と思わず言いたくなります、個人的には。ノミネート予想の時に危惧していた、ザックがカントリー・アーティストと決めつけられている、というが図らずも現実のものになった、ということですよね、きっと。

あと、ジョン・バティーストも前々回この部門を含めて5部門受賞した、今やグラミー・ダーリンの一人なんで、ここにノミネートされてもまあ違和感はないですが、正直今回のアルバムは前作に比べてかなり散漫な印象を受けたので、最優秀アルバムノミネート、うーんどうなのかな、というのが正直な感想です。いずれにしてもこの部門は自分がノミネートに予想した4作の中から受賞者が出るだろう、というのが予想ですが、ヒットの実績等を考えるとやはりテイラーの『Midnights』が頭一つ抜きんでてるように思います。その『Midnights』を手がけたジャック・アントノフがおそらく間違いなくプロデューサー部門受賞するだろうことを考えると本命◎はやはりテイラー。これを受賞すると彼女は『Fearless』『1989』『Folklore』に続く4枚目の最優秀アルバム受賞となって、スティーヴィー・ワンダー、フランク・シナトラ、ポール・サイモンが持つ3枚の記録を更新することになります。昨年最多ノミネーション記録を更新したビヨンセもすごいですが、テイラーのこの記録も歴史的なものと言っていいでしょう。

そして本当はボーイジニアスのアルバムも是非受賞してほしいのですが、残る対抗○と穴✗は、おそらくラナSZAで分け合うだろうと思ってます。この2枚にはボーイジニアスのアルバムが持っていない「大作感」が強く感じられるから。ラナのアルバムは、SOYノミネートの「A&W」のようにまるでプログレ的な楽曲からドリーミーなオルタナ・ポップまで幅広いタイプの楽曲が不思議な統一感でまとまってますし、SZAのアルバムも単にR&Bに留まらず、フィービー・ブリッジャーズとの曲など、ロック的な楽曲も併せ呑んでただならぬ存在感のアルバム。どちらも甲乙付けがたいですが、最終的には対抗○はラナ、SZAは穴✗ということにしました。というのもおそらくSZAROYで強力だと思っているので、そちらを取るのではないか、という読みもあります。

55.ソング・オブ・ジ・イヤー(Song Of The Year - 作者に与えられる賞)

  A&W - Lana Del Rey (Jack Antonoff, Lana Del Rey & Sam Dew)
○ Anti-Hero - Taylor Swift (Jack Antonoff & Taylor Swift)
✗ Butterfly - Jon Batiste (Jon Batiste & Dan Wilson)

  Dance The Night (From “Barbie The Album”) - Dua Lipa (Caroline Ailin, Dua Lipa, Mark Ronson & Andrew Wyatt)
  Flowers - Miley Cyrus (Miley Cyrus, Gregory Aldae Hein & Michael Pollack)
  Kill Bill - SZA (Rob Bisel, Carter Lang & Solána Rowe)
  Vampire - Olivia Rodrigo (Daniel Nigro & Olivia Rodrigo)
◎ What Was I Made For? (From The Motion Picture “Barbie”) - Billie Eilish (Billie Eilish O'Connell & Finneas O'Connell)

昨年のこの部門でのボニー・レイット「Just Like That」の受賞はマジ驚きましたね。ボニー自身が自分が取るなんてこれっぽっちも思わずに授賞式に来てたのに、SOYで名前呼ばれて「え?私?」ってキョトンとした顔してたのがとても印象に残ってます。この曲が臓器移植をテーマにして、亡くなった人の命が今も別の人の胸の中で生きている、というメッセージであることを知ってたら、去年の予想でケンドリック・ラマーの次の対抗○くらいには挙げていたかもしれません。ことほどさようにこの部門は往々にして、その詞の内容が大きな要素になるということだと思います。そういう意味では去年のケンドリック・ラマーThe Heart Part 5」も充分だったと思いますけどね。最近も2021年63回H.E.R.の「I Can’t Breathe」(ブラック・ライブス・マターの発端となったジョージ・フロイドの死去前の言葉)や、2019年61回チャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」といった社会派のメッセージの曲が受賞しています。

で、今年のSOYですが、そうした社会派のメッセージの楽曲は特に見当たらない代わりに、作者の心情の内面を深い表現で歌っている曲がいくつかある中、一番自分の琴線に大きくヒットしたのが、ビリー・アイリッシュが映画『バービー』のために兄のフィニアスと書いた「What Was I Made For?」。本来はバービーが自分の創造主に対して問いかける、というシチュエーションを想定した歌だったらしいですが、あたかもビリー自身が今や大スターとなってしまった自分の存在を自ら問い直すような、そんな切なくも心を打つメッセージのように聞こえるのです。そして多分同じようにこの歌を聴いている人は沢山いるのでは。自分の末娘もこの曲を知ってから、自分のプレイリストに追加して繰り返し繰り返し聴いていたのが印象的だというのもあって、今年のSOYは曲としてもドリーミー・インディ・ポップの傑作といっていいこの曲に本命◎を付けたいと思います。ゴールデン・グローブ賞で既に最優秀オリジナル楽曲賞を取っていますし、アカデミーでもおそらく受賞するだろうと予想してます。

そして対抗○は、こちらもまた別の意味で自分自身を見つめ直すというテーマでの楽曲、テイラー・スウィフトの「Anti-Hero」ではないか、と思ってます。この曲ではテイラーがこれまでの自分のキャリアとそれによる名声や注目が彼女が自分自身であることを妨げていて、それが彼女を不安にしていることをいろんな言葉で表現してるように聞こえます。サビの「ハイ、私よ、そう問題児の私/お茶の時にはみんな同意するけど/私は太陽はまっすぐ見るけど鏡は見ない/いつも憎まれ役を応援するのはきっと疲れるわよね」というあたりは正にそういう心境を歌ってるように聞こえますね。

一方穴✗は最初「Kill Bill」に付けていたのですが、先日のソウルサーチン・ラウンジジョン・バティーストの「Butterfly」が、2022年に結婚した骨髄性白血病の奥さん(作家でもあるスレイカ・ジャウォード)に対して歌った子守歌だというのを吉岡さんから聴いて、改めてこのピアノ・バラードを聴き返したところ、これも同じく作者の心情を深く表現している曲だなあ、と思ったので、穴✗はこの「Butterfly」に付けることにしました。つまり今年のSOYの予想基準は「いかにその歌が歌い手の心情を深く表現しているか」ということで判断したということになります。結果はいかに。

56.レコード・オブ・ジ・イヤー(Record Of The Year - アーティスト/プロデューサー/エンジニアに与えられる賞)

  Worship - Jon Batiste (Jon Batiste, Jon Bellion, Pete Nappi & Tenroc / Serban Ghenea, Pete Nappi & Chris Gehringer)
✗ Not Strong Enough - boygenius (boygenius & Catherine Marks / Owen Lantz, Chatherin eMarks, Mike Mogis, Bobby Mota, Kaushlesh “Garry” Purohit, Sarah Tudzin & Pat Sullivan)
○ Flowers - Miley Cyrus (Kid Harpoon & Tyler Johnson / Michael Pollack, Biran Rajaratnam, Mark “Spike” Stent & Joe LaPorta)

  What Was I Made For? (From The Motion Picture “Barbie”) - Billie Eilish (Billie Eilish & FINNEAS / Billie Eilish, Rob Kinelski, FINNEAS & Chris Gehringer)
  On My Mama - Victoria Monét (Deputy, Dernst Emile II & Jeff Gitelman / Patrizio Pigliapoco, Todd Robinson & Colin Leonard)
  Vampire - Olivia Rodrigo (Dan Nigro / Serban Ghenea, Michael Harris, Chris Kasych, Daniel Nigro, Dan Viafore & Randy Merrill)
  Anti-Hero - Taylor Swift (Jack Antonoff & Taylor Swift / Jack Antonoff, Serban Ghenea, Lẩu Sisk, Lorenzo Wolff & Randy Merrill)
◎ Kill Bill - SZA (Rob Bisel & Carter Lang / Rob Bisel & Dale Becker)

さて今年のDJ Boonzzyグラミー賞予想ブログ・シリーズもいよいよ56カテゴリー目、最後の部門の予想になりました。最後のカテゴリーは「レコード・オブ・ジ・イヤー」、その年を代表するレコードということになります。昨年もこの部門の予想で述べましたが、「その年を代表するかどうかの審査要件」には、そのレコードのクリエイティブなクオリティの高さの他に必ず重要になるのがチャートや商業的成功の有無。Hot 100にチャートインせずにこの賞を受賞したのは2000年以降では2009年51回のロバート・プラント&アリソン・クラウスの「Please Read The Letter」と2005年47回のレイ・チャールズ&ノラ・ジョーンズHere We Go Again」のみで、この時この2組ともアルバム部門も受賞していますので、ちょっとアルバム受賞が難しいのでは、と思うジョン・バティーストと我らがボーイジニアスはかなり不利ということになります。
ここで毎回やってます、数字やチャートの面での「2023年を代表する曲」の検証をしてみましょう。RIAAの売上認定は、年度をまたがっているケースが多いので、今年は検証対象にしていません。

<2023年Hot 100年間チャート(ビルボード誌)>
1.Last Night - Morgan Wallen
2.Flowers - Miley Cyrus
3.Kill Bill - SZA
4.Anti-Hero - Taylor Swift
5.Creepin’ - Metro Boomin, The Weeknd & 21 Savage

<2023年ストリーミング・ソング年間チャート(ビルボード誌)>
1.Last Night - Morgan Wallen
2.Kill Bill - SZA
3.Something In The Orange - Zach Bryan
4.Flowers - Miley Cyrus
5.Anti-Hero - Taylor Swift

<2023年ソング・セールス年間チャート(Luminate社調べ)>
1.Flowers - Miley Cyrus (428,000曲)
2.Last Night - Morgan Wallen (302,000曲)
3.Fast Car - Luke Combs (251,000曲)
4.Calm Down - Rema & Selena Gomez (159,000曲)
5.Cruel Summer - Taylor Swift (156,000曲)

<2023年デジタル・ソング消費チャート(Luminate社調べ、オンディマンド・オーディオ・ストリーム数+オンディマンド・ビデオ・ストリーム数)

1.Last Night - Morgan Wallen (11.2億=10.2億+1.0億)
2.Flowers - Miley Cyrus (9.8億=6.3億+3.5億)
3.Kill Bill - SZA (9.7億=8.0億+1.7億)
4.Calm Down - Rema & Selena Gomez (8.4億=4.6億+3.8億)
5.Something In The Orange - Zach Bryan (7.1億=6.6億+0.5億)

ほぼすべての指標でトップのモーガン・ウォレン「Last Night」はグラミーでは影も形もありません(笑)が、これは彼の例の差別的「Nigga」発言に対して、多様性の尊重と人種性別性嗜好を問わない姿勢を標榜するグラミー・アカデミーの矜持ということなんでしょう。カントリー界の各アウォード(CMAACM)はもう禊ぎは済んだ、とばかりにモーガン野郎を各賞にノミネート(さすがに受賞はしてませんが)しているのとは一線を画した態度で、これは評価したいと思います。で、そのモーガン野郎を別にすると、各指標で強いのはSZAの「Kill Bill」とマイリーの「Flowers」、この2つは抜きんでてますね。

Kill Bill」の方はHot 100ではナンバーワン1週のみ(2023/4/29)ですが、R&B/ヒップホップ・ソングス・チャートでは通算21週1位でそれまでのリル・ナズX「Old Town Road」の記録(20週)を塗り替えただけでなくR&Bソングス・チャートでは通算30週1位と、昨年このジャンルでは絶大な人気を誇ったヒット曲。一方マイリーの「Flowers」はHot 100で8週1位を記録(2023/1/28-3/4 & 25-4/1)しただけでなく、何とアダルト・コンテンポラリー・チャートで通算38週1位をこのブログ執筆時点で継続中で、これもマルーン5の「Girls Like You」の記録(2018年36週1位)をとっくに抜き去って記録樹立してます。

ということでどちらが受賞してもおかしくないのですが、やはりSZAの「Kill Bill」とアルバム『SOS』は2023年の少なくとも前半は圧倒的にシーンを席巻したレコードだと思うので、年間チャートもデジタル消費チャートもマイリーの方が上なんですが、ここは本命◎SZA、対抗○マイリーで推したいと思います。ただマイリー陣営には昨年の最優秀アルバムを受賞したハリー・スタイルズHarry’s House』のキッド・ハープーンタイラー・ジョンソンが付いてますので、マイリーが受賞しても全く違和感はないと思いますが、SZAも主要賞を何か一つ取るとしたらこの部門だと思うので。

そして穴✗はテイラービリーオリヴィアも大いにありなところですが、ここは自分の個人的な推しを優先させて頂いて、フィービー・ブリッジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスの3人組、ボーイジニアスの溌剌としたインディー・ポップ曲「Not Strong Enough」に付けたいと思います。もしこの曲が受賞するようなことがあれば、プラント&クラウス、レイ・チャールズ&ノラ・ジョーンズに続く、3曲目のHot 100にチャートインしなかった受賞曲、ということになります。でもアルバムと併せてROYにノミネートされただけでも彼女達にとっての大きな成果であるだけでなく、ただ商業的に成功しただけではないクオリティの高い作品受賞への道を開くという意味でグラミー賞の今後のありように期待を持たせたノミネートだったと思います。まあもちろん彼女達が受賞すれば最高ですが(笑)。

以上全94部門中56部門の予想を12回に分けてお届けしてきた「DJ Boonzzyのグラミー賞予想ブログ・シリーズこれでめでたく完結です。3週間の長きに亘ってお付き合い頂き感謝します。来週月曜日の授賞式当日は、いつものように生ブログを敢行しますので、お仕事等でライブで授賞式を見られない方々、WOWOW契約がない方、そちらの方でもお楽しみ下さい。
自分は個人的に、当日はジョニ・ミッチェルビリー・ジョエルを始め数々のアーティストのパフォーマンスもさることながら、毎年しめやかに行われる物故者へのトリビュートのコーナーで、何とか坂本龍一さんと高橋幸宏さんの追悼でYMOトリビュートとかやらないかなあ、と密かに期待してるところです。

ではまた授賞式で!

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