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会社における理不尽な「怒られ」への対処法

マニュアル変更事件~とても理不尽な怒られ~

 私が残業でデスクワークをしていると、後輩が言った。「ボルボラさん、保留1番で製造課の佐藤係長からです」。私は電話を取った。

 「ちょっと!!! この前の案件、どういうこと!?」

 佐藤某はのっけからテンションが高かった。すごい剣幕である。声色は完全にキレている。

 「すみません。どの案件でしょうか?」と私はいった。

 私はいつも複数の案件を抱えている。「この前の案件」とだけ言われても見当がつかない。情報が足りない。もちろん、相手の中では何の案件かはっきりしているのだろう。だが、私の中でははっきりしていない。当たり前である。つまり相手は「当たり前」が分からない人だ。通話開始の一言目でこちらをうんざりさせる能力は、ある種の特別な才能ではあるのだろう。しかし、その才能を活かす場は、たとえどこかにあるとしても、おそらく職場ではない。

 「この前のマニュアル変更だよ! あれ、ボルボラ君がやっただろ! 今確認したんだけどさ、これじゃ製造課の手間が増えるんだよ! どういうこと!?」

 なるほど。何の案件かは分かった。製造工程における作業手順の変更に関する案件だ。詳細は省くが、以前の方法では不良品を出すリスクがあった。実際に不良品も何度か出ていた。よって、工場長の号令のもと、複数部署にまたがるメンバーで改善チームが組まれた。私もその一員となった。私はリスクが小さくなる方法を考え、会議に諮り、その方法に変更した。ただし品質を重視すると、たいてい手間は増える。今回もそうであった。

 理解はできたが、佐藤係長の発言には、つぎの3点で疑問を覚えた。

① 「ボルボラ君がやった」と佐藤係長は言う。しかし、今回のマニュアル変更は、改善チームメンバー全員の合意を得ている。たしかに変更申請書およびその添付資料の作成者は私であろう。しかし、製造課の課長も含むチームで合意された以上、「ボルボラ君が」という小さな主語は適切だろうか?

② 「いま確認した」と佐藤係長は言う。しかし、回覧されて戻ってきた変更申請書には、他ならぬ佐藤係長の捺印がある。また、マニュアル変更に関しては、私は事前に口頭で説明し、「問題があるようなら言ってください」とも伝えている。そして「問題ない」と返事ももらっている。

③ 「製造課の手間が増える」と佐藤係長は言う。正しい。確実に増えるだろう。しかし、「手間が増えること」は、不良品の出荷リスクを犯してもよい理由として持ち出すには、いささか弱いだろう。それで通るなら、私も同じ理由であらゆる業務を拒否したい。

 罵声を浴びながら、上のように考えた。①~③をそのまま口に出したい衝動にも駆られた。簡単にいうと、ロジカルにシバきたい。だが、そうするわけにもいかないのがサラリーマンだ。「すみません。確認しますので後ほど」と私は対話を打ち切ろうとした。

 しかし、なおも佐藤係長は食い下がる。「メールを送っておいたから、メールで返信して!!」と居丈高に叫んだ。メールで返信。それもまた妙な話である。最底辺の担当者でしかない私が、部門長も経由せずに課としての文書回答が出来るわけがない。
 仮にやったとしても、それはあくまで「いち担当者の暴走」である。私の部門長からすれば「知らん」でおしまいである。とにかく言質を取ってやろうという姿勢は「社会人らしい」ものだが、それはもっと手前の段階で発揮するべきであろう。

 私は「こちらの部門長と協議して、それから対応します」を繰り返した。「メールで返信します」はどんなに促されても言わなかった。代わりに「メールでのご返信も含めて検討します」とは言った。検討するだけなら構わない。検討の結果、メールを送らないという対応をしても、「検討する」という発言はウソにならない。

 だが、佐藤係長はしつこかった。私はついに、少し失礼だと思いつつも「変更については書類とそろえてお見せしましたし、説明もして、捺印も頂戴しましたよね」と言ってしまった。
 佐藤係長はいった。――――「その時は、ちゃんと読んでいなかった! いいから、メールを早く返信しろ!」


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