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透明人間2(ショートショート)

 前回は持続時間が短くて思わぬ失敗をしてしまったが、今回こそは透明人間になる薬を完成させなければならない。そうでなければただの変態である。
 持続時間を延ばすには単純に薬の量を増やすという手もあるが、これは体に負担がきやすくて命の危険があるやもしれぬ。死んでもいいような人間がいれば、いくつでも配合を増やして実験できるのだが、そんなことをして、本当に死んだら犯罪者になってしまう。
 やっぱり自分が飲むしかないか。
 そこへ、B君とCさんが研究室にやってきた。
「あのー」
 皆まで言うな。俺は恥を忍んで2人に秘密を打ち明けることにした。変態と思われるのが嫌だったこともあるが、いい実験材料が見つかったと思ったからであった。若いのだから、俺より多量に飲んでも死にはしないだろう。そう思って思い切ってB君とCさんに実験に加わってもらえないか相談した。
 2人は顔を見合わせ
「冗談じゃないですよ。副反応が酷いということは、そのうえ量を増やすって、死んだらどうするんですか」
「大丈夫だ。手加減はする」
「いやです。裸にならなければならないんでしょう」
「それはそうだな。Cさんはやめておくか」
「僕が飲んでうまくいったとして、この薬はどうするんですか。何に使うんですか」
 確信をついてきたな。決して出歯亀をしたいわけではない。銀行強盗とかに使うつもりもない。これを使えば、CIAやMI6,モサド等スパイ組織に高く売れるじゃないか。ってそういうつもりも今のところはない。
 ただ偶然的に透明人間になれる薬のヒントを得たので完成させてみたかっただけなのだ。
「それだけのために、命を張るんですか」
「研究者とはそういうものだ」
「では先生がやればいいではありませんか」
「だから若い君なら耐えられると思うからいってるんだ」
「報酬はあるんですか」
「それは・・・今のところはない」
「ではやめときます」
 あっさりふられてしまった。2人は出ていってしまった。仕方ないから自分でもう一回飲むか。
 さっきよりも量を少し増やして俺は一気に飲み込んだ。
 また頻脈と頭痛と便意が猛烈に襲い、俺は、トイレで用を足した。さっきと同じような感じで俺は透明になった。今回は裸にはならなかった。よく考えたら、裸になる必要性はなかった。顔と手の状態さえ見ていればいいのだ。
 今度はさっきよりもだいぶ長く透明状態が続いていた。これならば完成だ。既に30分経過していた。
 そこへ突然、緊急のベルがけたたましく鳴った。火事だ。近くらしい。煙が部屋に入ってきた。
 俺は思わず逃げた。周りの俺を見た人たちが皆悲鳴をあげた。服だけが動いて逃げているのだ。
 悲鳴の中、俺は学校から出ていき、近くの公園のトイレに向かった。薬がきれるまで、ここに隠れていようと思ったのである。
 公園には何故かおまわりさんがいた。いかん、不審人物と思われる。俺は両手で顔を隠しながら前を通り過ぎようとしたが、透明なので、隠すこと自体が無意味であった。しかも手まで透明なのだから、ホント意味はない。
「ちょっとちょっと、あなた」
 案の定、声を掛けられた。このタイミングで、俺はドクロになった。
「わーーーー」
 警官はあわてて驚いて、糞尿をもらしやがった。そのうえ腰を抜かした。
「その変な仮面を脱げ」
 おまわりさんは拳銃を握りしめていった。このタイミングで次は標本顔になった。皮をむいた筋肉とか神経とかが見える顔だ。
 おまわりさんは恐怖のあまり、気絶する瞬間、拳銃のトリッガーを引いた。
 弾は俺の脳天を直撃した。その場に倒れこんだ瞬間、俺の顔は元に戻った。B君とCさんに話をしておいてよかった、と最期に俺は思った。

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