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無花果の木

 小学校3年生か4年生くらいであろうか、広島の牛田というところに住んでいて、近くに無花果の木がなっていた。他に畑があり、何処かの誰かの土地でいろいろ収穫しているようではあるが、ついぞそのお百姓さんの姿を見たことはない。
 無花果の木にカミキリムシがたくさんいて、それを目的に木に登り、捕まえていたのだが、飼っていた記憶はないので、キャッチアンドリリースをしていたのかもしれない。
 そのうち無花果が成ってきた。それをとって食べてみると、何と美味しい果物である。今まで無花果なんて食ったこともなく、よくぞ食う気になったものだと我ながら感心するが、一応衛生の為、家に戻って洗って食べることにした。母親は何もいわなかったけれど、明らかに他人の畑の収穫物なので盗人である。そういう罪悪感はまるでなく、次から次へもぎ取って食べた。
 あれから50年が経ち、その場所へは行っていないが、現在は便利なグーグルアースがある。それを辿って元住んでいた家を見ると、何とまだあるようだ。畑はというと住宅地になっていた。無花果の木も無くなっていた。カミキリムシは何処へ行ってしまったのだろうか。今住んでいる人たちはそこに無花果の木があって、カミキリムシが住んでいたことを多分誰も知らない。
 

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