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電話機(ショートショート)

 21世紀の現代に電話機を創ってしまった。創ってしまったという漢字をあてるほど、すごいことなのだが、まだマスコミは嗅ぎつけていない。世界各国のスパイも情報を得ていないようだ。
 これはズバリ未来と通信できる電話機なのだ。もうじき未来から電話が掛かってくるはずだ。
「リ~ン、リ~ン、リ~ン」
 掛かってきた。未来からだ。何故未来からだってわかるのかって?それはこの俺が未来に行って電話を掛けているからだ。10年後の今日、この時間に電話を掛けるようにしたのだ。
 幾ら未来だからといって、電話機が1つでは会話ができないのではないか?だって。堅いこと言うな。この俺も1人だ。
 早速出てみよう。「ガチャ」「もしもし」「もしもし」「俺か」「俺だ」
「10年後の俺か。やった成功だ」「そうでもない」
 おや、どういうことだ。雲行きが怪しいぞ。何か10年の間に起こったのか。
「危ないからすぐ逃げろ」「何、どういうことだ」
 そこへ大勢の産業スパイと思わしき者たちが部屋に雪崩れ込んできた。
「何だ、お前らは」と俺が聞くや否や拳銃が火を噴き、俺は一瞬のうちに凶弾に斃れた。

 自分の死体を見ながら俺は不思議に思った。さっき電話してきた俺はいったい誰だったのだろうかと。俺に違いはなかった。とするとあれは幽霊になった俺だったのだ。そうか。わかった。あれは10年後の俺ではなく、今、この時に、この危機を救うため俺は電話をしたのだ。残念ながら遅きに失したが。だが電話をせずにはいられない。俺は産業スパイが運び出す電話機から奴らのスキを狙って、こっそり電話を掛けた。
「リ~ン、リ~ン、リ~ン」「ガチャ」「もしもし」「もしもし」「俺か」「俺だ」「10年後の俺か。やった成功だ」「そうでもない。危ないからすぐ逃げろ」「何、どういうことだ。何だ、お前らは」
 発明した電話機は、過去や未来と通話できるだけじゃなくて、霊魂とも通話できるオマケがついていた。

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