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小説「ナポレオン」を読んで -ナポレオンはなぜ近代化を望んだのか

小説「ナポレオン」は、ナポレオンをアカデミックに分析した本ではない。彼が歴史に与えた影響だとか、それが良いことか悪いことかは書いていない。彼がどのような信条の下で生き、その結果どのような行動に出たのかといった悲喜こもごもを情緒的に描いている。フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトは、体躯に恵まれず小太りで剥げていて、まだ見ぬ結婚相手の顔が可愛いかどうかにやきもきし、他人には嫉妬深く家族には愛情深い。一国の英雄を、まるでその保護者のように人間扱いしている当作品は、学術書や新書ではなく「小説」だったなと思う。

近代化への施策 法律と教育

さて、ナポレオンは皇帝の位に立つと、いわゆる「近代的」な政策を実施している。教育の門戸を広げて普及させ、また人民を法の下で保護し権利を与える。

・教育政策
1802年 公教育法成立
国立高等中学校(リセ)が全ての県に置かれる。

・法律整備
1804年 フランス民法典(ナポレオン法典)発布
(小説「ナポレオン」巻末 ナポレオン関連年表より抜粋)

これらの何が「近代的」かと言うと、個人の権利や平等が認められているという点にある。革命以前は保証されていなかったものだ。当時のヨーロッパでは、土地を持っている君主が世襲でその土地を支配する、というシステムが一般的だった。そこには、個人の権利も平等も保証されていない。ナポレオンは幼少期からそのことに対し「なぜ」と疑問を持ち続けていた。

近代化への憧れ ルソーとの出会い

ナポレオンは幼少期、周囲に溶け込むことが得意ではなかった。自身が喧嘩っ早い性格ということもあったが、周囲が気にしたのは彼の出生だった。
出身地コルシカ島では「フランスの犬」と馬鹿にされた。父親がフランスの議員だったからだ。コルシカの人々にとってフランスは支配者だった。コルシカ島はフランスに対し独立運動を繰り広げたという過去を持つ。
一方、フランスの陸軍幼年学校に入るや「コルシカ人」と馬鹿にされた。被支配者で田舎者のくせに生意気だぞ、と。
出生や父親は自分には関係のないことだ、なぜ馬鹿にされなければならない。自分はコルシカ人だ、支配者なんかに負けるものか。
そういった考えをすでに幼少期から持っていた。

そんなナポレオンが愛読していたのが、ルソーの「社会契約論」だった。簡単に説明すると、契約によるルール(法律)を作って、その下で人々は自由と平等を保証されるべき、という考えだ。
ちなみに、コルシカとルソーは深い関係を持つ。コルシカ島では独立運動の際に、自国の憲法を作ろうとしてルソーに協力を仰いでいる。

出生によって決まるシステムを壊し、誰もが平等に個人の権利を享受できる世界。
それこそナポレオンが夢見る世界だった。

出生による周囲の反応と、ヨーロッパで支配的なシステムに異を唱え祖国のために戦った思想家。この2つを吸収して育ったナポレオンは、見事世界を相手取りシステムを変えてみせたのである。

現代を生きる我々には、当然のように個人の権利や平等が法の下で保証されている。当たり前に享受しているシステムはどのような思いで形作られていったのか、ナポレオンを通して紹介した。


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