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「テレビ離れ」とは言うけれど(8)

この発想はなかった!「ハンスプリー」のテレビ

 キリンや象、ライオンもいました。カエルもいた。なんと可愛いことよ。テレビのデザインでこれをやるとは…!機能美ではない。けれども、とにかく惹きつけられる。日本のメーカーでこの種のテレビのデザインを流通まで漕ぎ付けられるとしたら、それはキャラクター商品や玩具のメーカーでしょう。それ以外で、家電を扱うこうした仕事ができるメーカーは、日本にはないだろうと予想がつきました。当時のテレビ、というか、日本の家電デザインで「よし」とされているセオリーから考えれば、自ずと答えが出てきます。
 このテレビのメーカー、ハンスプリーは、台湾のメーカーでした。かつては日本法人もありました。これらのクリエイティブなテレビは一時期マスコミに取り上げられるなど、話題にもなりました。六本木の東京ミッドタウンと横浜ベイクォーターに直営店がありましたが(※47)、ここに出店できるだけでも、デザイン的にかなりのハードルを超えていることがわかります。ちなみに、筆者のハンスプリーのテレビとのファーストコンタクトは、今はなきプランタン銀座だったと記憶しています。

インテリア性、「パーソナルユース」を追求したテレビ

 2000年代後半、「誠Style」の取材記事では、ハンスプリーのテレビはインテリアとしての使用も想定した「パーソナルユース」がコンセプトであると紹介されています(※48)。なお、この「誠Style」は「ITmedia ビジネスオンライン」の前身のネットメディアになります。
 「パーソナルユース」であれば、すなわち、個人・単身者をメインターゲットとしていることになりますが、そうしたインテリア性があるテレビを保有することには、そのターゲット層のユーザーにおいて「おしゃれな室内で過ごす」という体験価値があったはず…、そう、「インテリア」です。室内に置くものであれば、それがデバイスであれ家電であれ、インテリアになり得るのです。
 「パーソナルユース」というコンセプトに付随するインテリア性あるハンスプリーのようなテレビは、日本のメーカーの製品であれば、先述の、±0「8-inch LCD TV」も該当するでしょう。置いておくだけで室内がおしゃれ空間になる、あの見た目のかっこよさ、そして、個人向けにマッチする8インチという小ささ。

「パーソナルユース」のテレビの行方

 しかしながら、ハンスプリーのテレビも±0「8-inch LCD TV」も基本的にアナログで、地デジに対応していない製品でした。地デジチューナーを外付けすることで地デジに対応することは可能でしたが、これは一手間。筆者も一時期購入を考えていましたがとうとう購入することなく、ハンスプリーの日本法人もいつしかなくなっていました。台湾の本社はまだまだ元気なようですが、Webサイトを見るとテレビ事業から撤退している様子です(※49)。±0も同様、テレビの販売は現在は行ってはおりません(※50)。
 こうした、「パーソナルユース」というコンセプトのインテリア性あるテレビの開発が続いていたら、今頃どんなデザインが生まれていただろう、デザイナーである筆者には、少しばかり見てみたかったなどという身勝手な思いがあります。ですが、そうした系統のテレビの開発は続きませんでした。確かに、「パーソナルユース」のテレビは、各メーカーから現在も販売されています。ただ、どれも似たり寄ったりで、ハンスプリーや±0のテレビに見られるような、個性的で大胆なデザインのものはありません。
 これまで述べてきたように、「テレビジョン受像機」だけが「テレビ」だったはずがいつしかそうではなくなり、テレビ自体が当初の「テレビ」を次第に離れる方向に向かってしまいました。「テレビジョン受像機」以外の情報端末デバイスでもテレビ番組を視聴できる、さらにいえば、テレビでテレビ番組以外のコンテンツを楽しむことができる、そういった時代になってしまいました。地デジ化以降、家電のデザインシーンにおいて、個人・単身者向け「パーソナルユース」のテレビについては、かつてのような活況がなくなったとしても不思議ではありません。

次回に続きます。

[注釈]

(※47)IT Media News>誠>誠Style>特集 インテリア家電「テレビは一人1台の時代——台湾発「ハンスプリー」の信念」(https://www.itmedia.co.jp/d-style/lifestyle/070425/page2.html
(※48)(※47)に同じ
(※49)「HANNspree」Webサイト(http://www.hannspree.eu
(※50)「±0」Webサイト(https://www.plusminuszero.jp


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