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「テレビ離れ」とは言うけれど(5)

ポケベルが鳴らない「ケータイ」の時代に

 ドラマ「ポケベルが鳴らなくて」は1993年に放送されたテレビドラマですが、国武万里による主題歌も50万枚のヒット(※24)、サビのフレーズを覚えている読者の方もおられるかもしれませんね。ともあれ、当時の「ポケベル」の勢いがうかがえます。
 当初、機能といえば音によるお知らせのみだったポケベルは、1990年代には、「0840(おはよう)」などと数字によるメッセージを送ることができるようになっていました(※25)。個人が携帯できるメッセージツールとしては画期的でしたが、それはやがて携帯電話にとって替わられます。
 総務省の調査によれば、携帯電話の加入者数がポケベルの加入者数を上回ったのが、1995年頃とのこと(※26)。携帯電話は情報伝達が双方向性であり、しかもこの時代には小型化しより携帯しやすくなっていました。1997年にはNTTドコモが携帯電話でのショートメールサービス(SMS)を開始、文字による双方向情報伝達ができるようになりました(※27)。確かに、その場でレスポンスすることが可能で、ポケベルのようにメッセージを数字に変換して打ちこむ手間も要りません、ポケベルから携帯電話にユーザーが移ったとしても頷けます。しかしながら、「数字言語」とでも呼べそうなこの数字のメッセージが、ある一時期に局所的に現れて泡沫のように消えていったとは。喪われた言語は、ここにもあるのではないでしょうか?

携帯電話の情報端末デバイス化

 遡ること昭和時代、携帯電話は「携帯できる電話」という単なる情報通信機器として始まりました。そんな携帯電話がメール機能を取り込むなどして多機能化、「情報端末み」を増して行ったのは1990年代から2000年代前半にかけての頃です。iPhone・スマフォが現れる2000年代後半までに、携帯電話は情報に関連する多様な機能を取り込み、「ケータイ」として情報端末デバイス化する機種が現れます。
 1999年には、NTTドコモの「iモード」や現KDDIの「Ezweb」といった携帯IP接続サービスが始まります(※28)。こうして「ケータイ」はインターネットへの接続が可能になり、ネットの端末の機能を担う機種が現れます。iPhone・スマフォのサービスやアプリはインターネットとの接続が必須で、それにより成り立つ面があります。いずれ、現在のようなiPhone・スマフォ主流の時代を迎えることになってしまいますが、その礎にはこのようなネットワーク化した「ケータイ」があったと言えるでしょう。

「ケータイ」もまたテレビと親和性を持つ

 このように、「ケータイ」はインターネットを媒介とする情報端末デバイス化していく一方で、並行してマルチメディア化もしていきます。2000年には、J-PHONEから世界初カメラ付き携帯電話「J-SH04」が発売となり、「ケータイ」での静止画の撮影や送受信が可能になります。すなわち、「写メール」の始まりです(※29)。2002年〜2003年にかけては、動画の撮影や送受信ができる「ムービーケータイ」がKDDIやauから続々発売となります(※30)(※31)。こうして、音声、動画の送受信が可能となった頃、今度は「ケータイ」に「テレビ機能付き」の機種が登場します。2003年には、ボーダフォンから日本初となる地上アナログテレビチューナー内蔵の携帯電話「V601N」が(※32)、そして、2005年には、auから世界初となるワンセグ携帯電話「W33SA」が発売となります(※33)。
 1994年、富士通から世界初となるテレビ機能付きのパソコン「FM TOWNS II Fresh・TV」が発売された後、1995年にはNECからも「98MULTi CanBe」というテレビ機能付き・テレビチューナー内蔵のパソコンが発売されましたが(※34)、携帯電話もまたこうした「テレビ機能付き」の流れに追随する結果となりました。
 「音声」に加え「動画」を再生するというマルチメディア技術が付加されれば、携帯電話もまたパソコンと同様に、テレビとの親和性が高まり次第にそれらの境界が溶解します。それに加えて、携帯電話は、音声や動画の再生のみならず、それらを記録・撮影する技術も付加されました。iPhone・スマフォが主流となる次の時代には、「テレビジョン受信機」と各種情報端末デバイスが融合、さらなる変容をたどります。

次回に続きます。

[注釈]

(※24)TOKUMAJAPAN公式YouTube提供による国武万里「ポケベルが鳴らなくて」動画では、「50万枚の大ヒット」との紹介がある。(https://www.youtube.com/watch?v=oXHoE1SD4GI)
(※25)「NTTドコモレポート No.55」「ベル友」ブームを巻き起こした 「ポケットベル®(現クイックキャスト®)」の歴史(https://megalodon.jp/ref/2013-0208-0147-59/www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/report/070313.pdf)
(※26)総務省Webサイト>政策>白書>令和元年版>インターネットの登場・普及とコミュニケーションの変化>第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0>第1節 デジタル経済史としての平成時代を振り返る>(1)携帯電話の登場・普及とコミュニケーションの変化(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd111110.html)
(※27)(※26)に同じ。
(※28)総務省Webサイト>平成23年版 情報通信白書>第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて>第1章 ICTにより国民生活はどう変わったか>(2)携帯インターネットの普及(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc212120.html)
(※29)(※26)同総務省Webサイトにて「2000年にJ-PHONE が世界に先駆けて携帯電話端末にカメラを搭載し」とある。
ケータイWatch>【今日は何の日?】携帯電話初のカメラ搭載「J-SH04」登場から20年(https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/special/20th/1286566.html)にて「2000年11月1日、携帯電話として初めてカメラを搭載したシャープ製の「J-SH04」が発売されました。」とある。
(※30)ケータイWatch>SHOW CASEバックナンバー>A5301T(ソリッドネイビー) 2002年9月20日発売(https://k-tai.watch.impress.co.jp/cda/article/showcase_top/10886.html)
(※31)ケータイWatch記事「au、ムービーメール対応の5機種を発表」(https://k-tai.watch.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/13975.html)
(※32)ケータイWatch記事「ボーダフォン、テレビチューナー内蔵の新端末「V601N」 」
(※33)auケータイ図鑑(https://time-space.kddi.com/ketaizukan/2005/1.html)
(※34)NEC LAVIE公式サイト>活用情報>NECパソコンの歴史番外編(https://support.nec-lavie.jp/navigate/application/history/20121113/index.html)

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