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「テレビ離れ」とは言うけれど(4)

ブロードバンド時代における「動き」「音」

 本稿の冒頭に例示した、2007年8月16日「asahi.com」の「テレビ利用者3割超減 その理由は?」という記事に話を戻しましょう。
 「調査担当者は「ユーチューブなどを使って映像を検索して見るというオンデンマンド化が進んでいる。通信事業者による映像の配信や、SNSなどの動画コミュニティーが増えたりすれば、テレビ離れはもっと進む可能性がある」と話している。 」「ブロードバンドの普及で、テレビ離れが加速する――。」などという論調(※17)。ですが、どうでしょう。この記事では、「インターネット上の動画」と「テレビ番組」という対立軸がありますが、2007年当時ならばまだしも、このような対立軸は2024年現在でも成立するのでしょうか。
 デジタル技術の領域で、1990年代にマルチメディア技術を歓迎した流れは2000年代以降も基本的には変わりませんでした。1999年にADSLの商用サービスが開始、2000年代にはブロードバンドが普及し(※18)、マルチメディア技術を用いたサービスは新たな展開を見せます。
 インターネットがナローバンドからブロードバンドに移行すれば、大容量のデータ通信が可能となります。それにより、インターネットを媒介とする動画配信サービスが拡大・浸透することになります。2006年には「ニコニコ動画」が、2007年には「YouTube」の日本語版がサービスを開始します(※19)。また、同年2007年には「Netflix」がストリーミング配信サービスを開始、2015年には日本語版がサービスを開始します(※20)。
 このように、ブロードバンドの浸透とともにインターネットを媒介とする動画コンテンツの配信サービスが拡大、もはやそれが「当たり前」となっていくわけですが、すでに指摘しているとおり、こうしたストリーミング配信サービスが扱うコンテンツには一部のテレビ番組も含まれることになりました。コンテンツという枠組みでは、「インターネット上の動画」と「テレビ番組」という対立軸は、「テレビ番組」も一部は「インターネット上の動画」となってしまったという点において溶解します。

1990年代、パソコンとテレビの親和性

 コンテンツの枠組みでは、ストリーミング配信サービスの拡大は、コンテンツとしての「テレビ番組」を「インターネット上の動画」に溶け出させました。コンテンツの枠組みでは、このように「インターネット上の動画」と「テレビ番組」の境界の溶解が発生することになりました。では、ハードの枠組みではどうでしょうか? つまり、それらのコンテンツを映し出す、インターネットに接続する情報端末デバイスと「テレビジョン受像機」では、同様の「溶解」は発生したのか? という問いです。
 1994年には、富士通から「FM TOWNS II Fresh・TV」が発売されます。当パソコンはテレビチューナーを搭載しテレビを視聴することができる、世界初となるテレビ機能付きの機種です(※21)(※22)。日本において、ダイヤルアップIP接続サービスが開始したのも1994年ですが、その同時代にすでにこのようなパソコンが流通していたということになります。パソコンはやがて、インターネットに接続するのが前提の情報端末デバイスに発展していきますが、それより少し前の時代に、情報端末デバイスと「テレビジョン受像機」の境界は曖昧な状態になり始めていたということです。「FM TOWNS」といえばCD-Rドライブを搭載した世界初の機種でもありますが(※23)、マルチメディア技術を歓迎していたパソコンとテレビは、もともと親和性があったということも言えそうです。
 「QuickTime」の動向等も含めこれまで述べてきたように、1990年代の「高度情報化社会」の入り口において、パソコンを含む情報端末デバイスがマルチメディア技術——すなわち「動画」や「音声」を再生する技術——を取り込みながら発展する流れがありました。一方で、「テレビジョン受像機」もまた、「動画」や「音声」を再生する機器です。情報端末デバイスと「テレビジョン受像機」は同様の機能を持つ機器ゆえに、境界が曖昧なまま発展したとしても不思議ではありません。1990年代以降のこれらの商品開発においては、似た物同士の機能を整理・分解・再構築、あとは時代に合わせて、HDDに加え、動画を映し出す窓と動画データの送受信の環境とテレビチューナー等といった部品をどう組み合わせるかという問題になっていきます。

次回に続きます。

[注釈]

(※17)本稿(1)、(※1)に同じ。
(※18)総務省Webサイト>政策>白書>令和元年版>インターネットの登場・普及とコミュニケーションの変化>第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0>第1節 デジタル経済史としての平成時代を振り返る>(2)インターネットの登場・普及とコミュニケーションの変化(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd111120.html)
(※19)(※18)に同じ。
(※20)Netflix Webサイト(https://about.netflix.com/ja)
(※21)富士通Webサイト>富士通パソコンの歴史(https://jp.fujitsu.com/platform/pc/content/concept/history/)
コンピュータ博物館Webサイト>日本のコンピュータ>パーソナルコンピュータ>FM TOWNS II Fresh・TV(https://museum.ipsj.or.jp/computer/personal/0056.html)
(※22)「経営と情報」に関する教材と意見(木暮仁)>(主張・講演、Web教材) 歴史>周辺機器の歴史>ディスプレイの歴史
(http://www.kogures.com/hitoshi/history/display/index.html)
(※23)コンピュータ博物館>日本のコンピュータ>パーソナルコンピュータ>【富士通】FM TOWNS(https://museum.ipsj.or.jp/computer/personal/0029.html)


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