「公共」に関わる「広告」の多重のターゲティング・ブランディングによる拮抗(5)

「自治体×キャラクターコラボ」の広告の問題

 「公共の広告」の中でも「自治体×キャラクターコラボ」による広告は、SNSで話題になっているのを見かけることがあります。「流行り」と言っても良いのかもしれませんね。しかし、広告デザインのジャンルとしては、難しい部分があることは否定できません。コラボレーション広告ゆえダブルクライアントになるし、しかも、「公共の広告」だからです。
 多重のブランディングになり拮抗が発生しても調整作業がうまくいき、企画に楽しい仕掛けがあれば、効果的な広告になることが期待できます。ですが、それがうまくいかない場合もあります。
 多重のブランディングや多重のターゲティングにおける拮抗の調整は、それを成立させるだけの資金や人員により成り立っています。経験や知識が豊富なプロの手や、コラボ用の「描き下ろし」を発注できる資金力に支えられていたりします。一方で、資金力も人員も乏しいような自治体で、——宣伝効果を狙う一縷の望みをかけてのことかもしれませんが——デザインし出稿する例もあります。
 広告にはもともと厳しい出稿のルールがあります。たとえそれをクリアしているとしても、一部の市民から、批判が発生し出稿を取りやめさせる要求が生まれる例もあります。ましてや、ブランディングに拮抗が起こり調整がうまくいかなければ、そうした要求がなおさら苛烈になるかもしれません。
 批評は大いに結構だと思います。もう休刊してしまいましたが、以前は「広告批評」(※1)という雑誌があったくらいです。また、デザイナーやアートディレクター等の業界人においては、日常的な会話の中で、少なからず広告を批評していると思います。
 しかしながら、出稿された広告の制作過程に人権侵害が含まれているわけでもない限り、出稿を取りやめさせることには疑問があります。そうすると、人員や資金が潤沢にある自治体が有利になり、そうではない自治体がチャレンジするチャンスが制限されます。チャレンジした結果失敗してしまい、さらに批判の対象とされてしまうかもしれません。しかしながら、トライ・アンド・エラーを繰り返して技術が増すこともあるはずで、そうした、トライ・アンド・エラーを行える余裕がない社会、私たちはそれを目指して良いのでしょうか?

「公共の広告」のデザインは調整が8割、かも

 「公共の広告」のデザインに限りませんが、このように、広告デザインのプロセスの細かな部分では多重のブランディングや多重のターゲティングによる拮抗が発生することがあり、その調整はけっして容易ではないことが、少しでもご理解いただけたかと思います。殊に「公共の広告」デザインについては、もともと「公共」の意味に幅がある、なおかつ、「公共の広告」にも種類がある、そのような要因があって扱いが難しい部分があります。
 「公共の広告」のデザインは調整が8割、と言っても過言ではないかもしれませんが、「自治体×キャラクターコラボ」のような広告デザインの場合、人員や資金力が潤沢にある広告主が有利となる状況も否定できません。
 昨今では「公共の広告」について、一部の人々からクレームが発生することも少なくありません。この「公共の広告」のデザインの難しさ、複雑さゆえに、SNS上で論争となった際には互いの話がかみ合わなくなったりしているのかもしれません。
 このような状況はありますが、私は「公共の広告」の新たなチャレンジを期待しています。

[注釈]

(※1)「広告批評」:マドラ出版により刊行された月刊誌。1979年に天野祐吉氏が創刊、2009年に休刊。内容はテレビCMなどの広告を批評。

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